2025年11月09日(日)公開
1通の遺書から始まった事件 冷凍庫に4年半以上も遺体を遺棄 裁判で明らかになった異様な親族関係 男らに下された判決は?
編集部セレクト

今年4月に滋賀県長浜市の住宅で、冷凍庫から女性の遺体が見つかった事件。遺体は4年半あまりも、冷凍庫の中に遺棄されていた。 この事件で逮捕・起訴されたのは女性の夫ら男3人。異様な親族関係などが明らかになった裁判を詳報する。
すぐには司法解剖できないほど凍った遺体

今年4月、大阪府堺市の住宅で当時71歳のAさんと、その夫が死亡した。自殺とみられている。
そこには遺書があり、“滋賀県長浜市の岩瀬浩一郎の家に遺体がある”という内容が記されていた。
記載にしたがって、警察が長浜市の住宅を訪ねると、冷凍庫の中から、衣服を身につけた成人女性の遺体が見つかった。
この死体遺棄に関与したとして、住人の岩瀬浩一郎被告(73)と息子の龍彦被告(49)、そしてAさんの実弟・野中秀紀被告(63)が逮捕された。
岩瀬浩一郎被告は、Aさんの姉の元夫だった。
遺体はすぐに司法解剖ができないほど凍っていたが、1週間後に身元が判明。野中被告の妻・まりこさん(死亡時53)だった。
その後、大津地検が死体遺棄の罪で野中秀紀被告を起訴。また、死体遺棄ほう助の罪で、岩瀬浩一郎被告と龍彦被告を起訴した。
まりこさんはなぜ、冷蔵庫に遺棄されるに至ったのか。
異様で複雑な親族関係

被告人質問で、岩瀬龍彦被告は、“Aさんに心理的・経済的に支配されていた”と話した。
(9月16日の被告人質問)
弁護人 「(Aさんに)どれぐらいの期間お金を渡し続けた?」
龍彦被告「20年以上です。総額、億に近い金額です。岩瀬家の親戚や消費者金融から借りたり、大事な先祖代々の家と土地を売ったりして、お金を用意しました」
龍彦被告は、父・浩一郎被告の年金も半分以上をAさんに渡していたと述べ、Aさんとの関係については「私の想像ですが、Aさんに岩瀬家と野中家が支配されていたような、それに近い関係だったかと思います」と話した。
また、まりこさんの夫である野中被告も、被告人質問で “収入のほとんどをAさんに渡していた” と述べた。
妻への暴力の背景には何が? 夫の“悔恨”

検察は、被告3人やAさんによる親族間の話し合いで、まりこさんが自分が巻き込まれている点について疑問を呈したり、不満を言ったりしたところ、Aさんが “まりこさんに対して暴力を振るうよう命令するようになった” と指摘。
公判でまりこさんの夫・野中秀紀被告は、被告人質問で当時についてこう答えている。
弁護人 「まりこさんに暴力はふるった?」
野中被告「Aさんから命令を受けて、軽くですけど、した。頭をポンとか、背中をポンと。それをしなかったら、Aさんが龍彦被告に『秀紀(野中被告)を殴れ』と指示した」
弁護人 「殴るのは躊躇した?」
野中被告「躊躇していました」
弁護人 「遺体を隠し続けた理由は?」
野中被告「自分の罪を隠すためです」
その後、弁護人から「まりこさんに対して今どのような気持ちか」と聞かれると、野中被告は、少し間をあけた後、まっすぐ前を向きながら涙交じりの声で「守ってやれなくて、本当にかわいそうなことをした」と話した。
家電量販店で冷凍庫を購入し…

10月30日の大津地裁の判決(畑口泰成裁判長)によると、その後の経緯は次の通りだ。
被告らは、野中被告宅に出入りしていた介護ヘルパー(野中被告の母の介護を担当していた)に、まりこさんへの暴力が発覚することをおそれ、まりこさんを岩瀬岩瀬浩一郎・龍彦被告宅で生活させることに決めた。
その後まりこさんは、容態が悪化し、2020年9月に岩瀬浩一郎・龍彦被告宅で死亡した(死因は不詳)。
その後の被告3人とAさんとの話し合いで、遺体を冷凍庫に隠すことを野中被告が提案した(弁護人は、遺棄を提案する前に、警察への通報も提案していたと主張したが、判決でその点への言及はなかった)
野中被告は家電量販店で冷凍庫を購入。岩瀬浩一郎・龍彦被告宅に持ち帰り、3人はまりこさんの遺体をビニール袋に入れ、冷凍庫に遺棄した。
Aさん宅で見つかった遺書にしたがい、警察が見つけるまで、まりこさんの遺体は、4年半余りも冷凍庫の中に遺棄されていたことになる。
人生を終えるにあたって、後ろめたさが去来し、遺書に遺体のありかを記したのか… 真相は闇の中だ。
判決は「執行猶予付き」

判決で被告3人に言い渡されたのは、▽野中秀紀被告に懲役1年・執行猶予3年、▽岩瀬浩一郎被告と龍彦被告に懲役10か月・執行猶予3年だった。
地裁は、野中被告の犯行について「遺体を冷凍庫で凍らせた状態で放置した態様が、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を大きく害することは、誰の目にも明らか」「浩一郎・龍彦両被告に遺体を押し付け、冷凍庫に入れた後はその様子をほとんど確認することもなく放置を決め込んでいたのであり、その意思決定は厳しい非難に値する」と指弾。
また、岩瀬浩一郎被告と龍彦被告の犯行についても「凍結状態を維持し、消臭剤を設置するなどしたほか、自宅を訪れた者による遺体の発見を妨げる行為まで行っていて、死体遺棄を手助けした程度は相応に大きい」と批判した。
一方で「3人はいずれも前科を持たず、反省や謝罪の言葉を口にしている」として、実刑ではなく執行猶予を付けた。
言い渡しの間、被告3人はいずれも静かに耳を傾けていた。
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