2025年07月25日(金)公開
【祇園祭・山鉾巡行】地上8m"空中戦"で鉾と安全守る「屋根方」に密着 鉾より狭い路地を通す!?その技と集中力の裏には伝統を支える誇りがあった「こんな経験なかなかない」
編集部セレクト
7月17日に行われた祇園祭 前祭(さきまつり)・山鉾巡行の函谷鉾(かんこぼこ)。500年以上の歴史があり、高さが24m、約12tのある鉾です。その鉾の上に乗り、地上8mの高さから鉾と安全を守る「屋根方(やねかた)」に密着しました。
多くの観光客を魅了 500年以上の歴史を誇る「函谷鉾」
【7月17日 山鉾巡行】
「一発かまして一発かまして、かましてかましてかまして」
「あたる、あたる、あたる。右・右・右・右!」
京都の細い路地を練り歩く鉾。その屋根の上で、電柱などの障害物を避けながら安全なルートを確保する。それが「屋根方」です。命綱一本で地上8mから鉾と巡行の安全を守り続ける男たち。その舞台裏に密着しました。
京都市内で大工をしている升田達哉さん(44)。10年前、祇園祭で巡行する山や鉾の屋根などを組み立てる大工方(だいくかた)になりました。
(函谷鉾・大工方 升田達哉さん)「最初は断っていたんです。荷が重いですよということで。『もう言ったし、上には言ったから』ということで。わかりました、そこまで言ってくださるならありがたいと(大工方を)やらさせてもらいました」
巡行に参加する山や鉾は計34基。升田さんが所属しているのは500年以上の歴史を誇る函谷鉾。華やかな装飾で、毎年多くの観光客を魅了しています。
屋根の上から鉾を守る「屋根方」
7月1日、函谷鉾の関係者が集まり、祭りの無事を祈願する神事「吉符入」が行われました。
大工方を束ねる増田義人棟梁。升田さんを函谷鉾にスカウトした”師匠”です。
(函谷鉾・大工方 増田義人棟梁)「私よりこいつの方がアツいと思うので。いずれ大工方のトップみたいな形でやっていってくれたら」
函谷鉾は鉾のやぐらを組み立てる手伝い方(てったいがた)、車輪を取り付け鉾の動きを操作する車方(くるまかた)、そして屋根などを組み立てる大工方の3つの技術集団から成り立っています。なかでも大工方は、高い所での作業となるため大工しかなれず、巡行の時に屋根の上で鉾を守る4人の「屋根方」も大工方から選ばれます。
今年、升田さんは5度目となる「屋根方」を務めます。
「勇気がすごい」優しいお父さんからお祭り男へと様変わり
7月10日、函谷鉾が都大路を練り歩く前祭の山鉾巡行まであと1週間。鉾の組み立てが始まりました。クギやネジなどを一切使わず、縄で縛って固定する「縄絡み」と呼ばれる技術で組み立てられます。
完成した鉾の試し曳き「曳き初め(ひきぞめ)」の日。升田さんは手慣れた様子で屋根に登り、準備にとりかかります。升田さんの息子たちも曳き子として参加しました。
本番前の貴重な機会、升田さんも優しいお父さんからお祭り男へと様変わりします。
(升田達哉さん)「当たるでー、こっちやこっちやー、かませかませ!!」
普段とは少し違うお父さんの姿に息子たちは…
(三男 升田参土くん(7))「屋根に登る勇気があってすごいなって思います。(Q屋根の上に登れる?)登りたくありません、こわい」
山鉾巡行を翌日に控えた「宵山(よいやま)」。風情ある提灯のあかりが京都の街を彩り、前祭はいよいよハイライトを迎えます。
幅「約3.6m」の道に横幅「約4m」の鉾を通す!?屋根方がみせる妙技
そして17日の本番当日。大粒の雨が降る京都市内。
(升田達哉さん)「勘弁してください。なんか悪いことしたか」
足場が悪い屋根の上はより危険性が高まります。巡行は四条烏丸を出発し、京都市中心部をぐるりと一周するルートです。難所となるのは四条河原町の交差点を90度方向転換する「辻回し」。そして細い路地に町家が立ち並ぶ新町通りの2か所です。
迎えた最初の難所、四条河原町の交差点。「ささら」という竹を敷いて鉾を90度回転させる「辻回し」が行われます。
屋根方は1本の命綱だけを頼りにじっと揺れに耐えます。京都市役所前を再び「辻回し」で抜けると最大の難所・新町通が待ち構えます。すると…
(升田達哉さん)「やだね、緊張するね」
思わず漏れた升田さんの心の声。新町通は最も狭いところで道幅が約3.6m、それに対し鉾の横幅は約4m。鉾が周りの建物などと衝突する可能性があります。
(升田達哉さん)「一発かまして!一発かまして!かましてかましてかまして!!」
この日一番の大声をあげる升田さん。鉾が電柱や建物にぶつからないよう車輪の進行方向の調整を指示します。それでも鉾がぶつかりそうなときは、力づくで電柱を押して屋根との隙間を作るのです。
(函谷鉾・屋根方)「ちょっとシビアやね、シビアやね」
(升田達哉さん)「一発かまして、かましてかまして、もう一発。もう一発」
電柱を押すことで数十cmの隙間が確保。この隙間作りこそが屋根方の妙技とも言える”空中戦”なのです。
新町通を何とか通過。約5時間に及んだ山鉾巡行。無事に鉾は帰ってきました。
(升田達哉さん)「おかしいですよ(棟梁との)出会いから始まって、こんなところに乗せてもらって、こんな経験なんてなかなかない。楽しかったというのもありますし、ありがたいなという感じで乗っていました」
高い技術と集中力で「安全」を守る。そこには伝統を支える誇りがありました。
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