2025年11月11日(火)公開
【ヨルダン川西岸から】イスラエルからの入植者に銃撃される村人たち...停戦発効から約1か月 パレスチナ自治区で直面する「圧倒的な力の差」とは(元ベルリン支局特派員カメラマン 和田浩記者のリポート)
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パレスチナ自治区のガザ地区をめぐり、イスラエルとイスラム組織「ハマス」の停戦が発効してから1か月。イスラエルは断続的にガザ地区への攻撃を続けていて、平穏とは言えない状況です。現地でパレスチナの住民たちが直面している現実を、MBS和田浩記者が取材しました。
■ヨルダン川西岸 パレスチナ側に向けられる銃口

MBS取材班が向かったのはヨルダン川西岸地区。戦闘があったガザ地区と同じパレスチナ人の居住地区で、約340万人が住んでいるとされています。
(MBS和田浩記者)「パレスチナ自治区のベツレヘムという町に来ています。この町は高さ10mの分離壁に囲まれていまして、パレスチナ人はイスラエル側に入ることは許されていません」
イスラエルが「テロ防止」を名目に2002年から建設を続ける壁。パレスチナ側の土地に食い込む形で建設され、現在は全長450kmを超えます。
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(和田浩記者)「壁には監視塔があり、上のほうには自動小銃も備え付けられています」
その銃口はパレスチナ側に向けられています。
■入植者がパレスチナ人を銃撃

パレスチナの“自治区”であるヨルダン川西岸ですが、そこにはイスラエル兵やイスラエル国旗を掲げる住宅があります。
イスラエル政府の方針で、高台や水の便に恵まれた住環境の良いエリアにイスラエル人が住宅をつくり、次々と移り住んでいるのです。これを「入植」といいます。イスラエル人の「入植地」拡大のため、各地で暴力行為が続いています。
ヨルダン川西岸地区の南部にあるトゥワニ村。村人は牧羊や農作業をして暮らしています。この村で、パレスチナ人の住民が銃撃されました。
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大きな銃を抱えて高台から村に入ってきた入植者は、村の男性が「自分たちの村」だと抗議すると、発砲。イスラエル兵は入植者を取り押さえませんでした。
このとき撃たれたザッカリーヤ・アドラーさん(30)。何とか一命は取り留めました。
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(ザッカリーヤ・アドラーさん)「ここから病院までの道はイスラエル兵によって封鎖されていました」
イスラエル兵が救急車の通行を妨害したといいます。
何とか病院にたどりつき、13回も手術を繰り返しました。アドラーさんには妻と4人の子どもがいますが、いまも自宅での療養が続いていて働くことはできません。
(ザッカリーヤ・アドラーさん)「イスラエルは殺人、暴行、何をしても何のおとがめもありません。彼らは『テロ対策』と言いますが、実際は彼らが人々を殺し、土地を奪っている。彼らが望んでいるのは、私たち全員がパレスチナから出ていくことです」
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イスラエル人の入植者たちが村のそばにやってきて、パレスチナ人の暮らしは変わりました。
(農場経営者 ハーフェス・ホレーニさん(53))「イスラエルはパレスチナ人が外に出ることを許しません。だから私たちは羊を中に閉じ込め、ここでエサを与えているのです。
村人を追い出そうとする入植者やイスラエル軍が近くにいるため、ヒツジやヤギを外で放牧することすらできなくなりました。
(農場経営者 ハーフェス・ホレーニさん)「私たちの日常は、これまで通り苦しいままです」
■終わらない悲劇 いとこを亡くした人「これが私たちが実際直面しているアパルトヘイト」

入植地は拡大しています。
(和田浩記者)「こちら手前がパレスチナ人の家なのですが、奥にイスラエルの入植者たちの家が建築されているのがわかります」
南ヘブロン地区にあるウムアルへイル村では、村のすぐそばに真新しい入植者の家が建てられています。
入植者はさらにこの村の土地をも奪おうとしているといいます。
3か月前、入植者が一方的に重機で村の土地を整備しはじめ、住民と争いになりました。すると銃が発砲され、英語教師で平和活動家のアウダ・ハサリーンさんが亡くなりました。
(ハサリーンさんのいとこ・イースリアンさん(42))「ヨルダン川西岸地区では多くの攻撃が発生していて、民間人の入植者が白昼堂々とパレスチナ人を殺害しても、決して罪を問われることはありません。これが私たちが実際直面している“アパルトヘイト”です。それはイスラエルが支配するヨルダン川西岸地区で毎日起きています」
■取材後記:お互いをリスペクトした2つの国家を作ることが求められているのではないか

(MBS和田浩記者のリポート)
ヨルダン川西岸地区で私が見たものは、圧倒的な力の差でした。イスラエルが治安を名目に占領を強める一方で、パレスチナの人たちは日々の生活に怯え、行動に縛られていました。そこには差別や暴力があり、それに対してある種の諦め、絶望感さえ感じました。
昨日、私はそのハマスが襲撃した音楽フェスのあった現場に行きました。1200人以上が殺された人々の悲しみがそこにはありました。
そしてその場所から5kmほど離れた場所にあるガザ。そこでは6万8000人以上が死亡し、今なお、停戦後も空爆が続いています。お互いの悲しみを分かり合い、停戦を実現できるのか。自らの治安と安全を理由にイスラエルが攻撃を続けるのではないか。国際社会はそれを見続けなければなりません。
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パレスチナ側への共感を示すイスラエルの人たちもいます。おととい取材したイスラエル・テルアビブ市内のデモでは、一部小競り合いもありましたが、現政権を否定し、パレスチナへの連帯を示し、「私たちの世代で差別をやめ、共存しないといけない」と話す若者たちが多くいました。1つの国の中で領土を争うのではなく、お互いをリスペクトした2つの国家を作ることが求められているのではないかと感じます。
(和田浩:MBSドキュメンタリー担当 元JNNベルリン支局特派員カメラマン)
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