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アユの遡上を阻む「落差工」京都・鴨川に"命の道"...20年以上奮闘する市職員や地元の人たち 天然アユ支える「手作り魚道」

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京都の中心部を流れる鴨川。その鴨川を横切る何本もの白い線は、京の「山紫水明」を引き立て、その穏やかな美しさと心地よい水音で、訪れる人々に「これぞ京都」という風情を届けてくれます。

この風情を支えているのが、川の流れに連なる「落差工(らくさこう)」と呼ばれる高低差がある段差構造です。昭和10年の大水害をきっかけに実施された大規模な鴨川の改修事業で、治水と景観の両立を目的に整備され、現在も鴨川の象徴的な存在となっています。鴨川全体で46か所。デルタと言われる賀茂大橋まででも16か所あります。

しかし、この風情ある構造が、実は魚たちにとって、命の道をふさぐ“壁”になっていることが、長年見過ごされてきました。

春の鴨川にアユが遡上 しかし落差工が遡上の妨げに

春になると、鴨川には海からアユが遡上してきます。アユは川で生まれ、海や河口で冬を越し、春に再び川を上る回遊魚。上流の浅瀬でコケを食べて栄養を蓄え、夏の終わりには中流域に下って産卵します。

しかし、アユは高さ1メートルを上回る段差を越えることができません。つまり、鴨川の落差工は、天然アユにとって長年越えられない、遡上の妨げとなっていたのです。

長年悩まされてきた「落差工」20年以上奮闘する市職員

20年近く前からこの問題にいち早く気づいていたのが、京都市の職員・中筋祐司さんでした。

(中筋祐司さん)「今はもう無くなったんですが、龍門堰という堰が南の方にありましてね。この高さ、アユには無理なんちゃうかなと思っていたんです。遡上できてないんじゃないかと」

大学時代に河川環境と魚類の生息状況を研究していた中筋さん。その経験を活かし、2009年から2年かけて釣りや写真を撮ったりして、現地調査を重ね、アユの遡上状況を調べ、写真などの証拠をもとに上司に報告しました。その後、中筋さんらは「天然アユを食べる夢を叶える会」(現在の「京の川の恵みを活かす会」)を立ち上げました。現在、中筋さんは副代表として活動を続けています。

16年前に「手作りの魚道」設置始める

2009年には、実験的に手作り魚道を市の職員で設置しました。魚道とは高い落差を階段状に細かく刻んで魚が遡上できるようにしたもので、落差工がある鴨川でアユにとっては遡上するために重要な役割を果たします。

(中筋祐司さん)「最初は竹の滑り台のような簡単なものでした。そこから毎年改良を重ねて、予算をとって、1mクラスの落差工がある場所を中心に木の組み立て式魚道を毎年設置、今に至っています」

市民ら約40人が集まり一同で魚道を設置

4月20日、三条大橋のたもとに、子どもから大人まで約40人が集まりました。胴長を身につけ、川に入りながら魚道の設置に汗を流します。

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参加者の中には、漁業組合、大学生や研究者、そして近隣のこどもたちの姿も。こどもたちは、川に入ると自然と生き物採集を始め、専門家に次々と質問を投げかけます。

「じゃあ“ケツ呼吸”やん」思わぬ表現に笑顔を見せる専門家

(専門家)「これは貴重だよ。ギンヤンマのヤゴ。ヤゴはこのお尻の管から呼吸するんやで」
(こども)「じゃあ“ケツ呼吸”やん」
(専門家)「“ケツ呼吸”か、それは面白い表現やな!今度使わせてもらおう!」

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思わぬ表現に笑顔を見せたのは、水生昆虫の専門家でもある、京の川の恵みを活かす会の代表・竹門康弘さん(大阪公立大)。

(竹門さん)「こういう活動は“親水”の意味もあるんです。こんな都市の真ん中の鴨川にも天然のアユがいて、上ってくるんだということ、そして川の生き物が私たちの恵みにつながっているということを、実感してもらえる。そこに意義があるんです」

魚道の工夫と今後の展望は?

この魚道には、もうひとつ特徴があります。

(中筋さん)「ここは堰に対して水平に入口を設けているんです。堰で遡上できず困ったアユが気付きやすいように工夫している“鴨川オリジナル”なんです。」

魚道は京都産の間伐材を使い、毎年設置と撤収を繰り返しています。その成果として、魚道設置した上流には、アユの遡上も確認されています。恒常的なコンクリート製魚道を設けることができれば、こうした手間も不要になりますが、治水や景観との兼ね合いから実現には至っていません。

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(中筋さん)「じゃあ、僕たちにやらせてくださいと。僕たちは魚道を設置させてもらっているんです。知恵を絞って、手間をかけてでも、ボランティアの市民の皆さんとこうして毎年集まって作業する。何より楽しいじゃないですか。アユのため、京都のため、人の喜びのため、にやってるんです」

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今年はすでに三条大橋堰と今井堰に魚道が設置され、次は5月18日、丸太町大橋堰でも設置が予定されています。そこには地元の小学校の先生やデパートの担当者も参加する予定ということです。

◆執筆者:尾㟢豪 MBSプロデューサー(事業局)
京都大学農学部水産学科卒。元報道局解説委員。これまで情報番組を中心に『お魚博士』として、テレビ・ラジオで20年に渡り生き物に関するニュースを解説。2010年には、絶滅種クニマスの発見に関わり、一部始終に密着したドキュメンタリー番組『クニマスは生きていた!〜“奇跡の魚”は、いかにして「発見」されたのか?〜』で、放送文化基金本賞、科学技術映像祭内閣総理大臣賞、など五つの賞を受賞。MBSの深夜バラエティ番組『Aぇ!!!!!!ゐこ』に生物監修として関り、2022年、道頓堀川で絶滅危惧種ニホンウナギの生存確認に初めて成功、論文として記載した。

2025年05月03日(土)現在の情報です

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