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お茶とごま油を間違う、近所の店への道がわからない「若年性アルツハイマー型認知症」と闘う60歳女性 "世界初の治療薬"投与を続けて1年...症状の進行は抑えられる

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 進行が速いとされる「若年性アルツハイマー型認知症」を患う60歳の女性。突発的に記憶が飛ぶことがあり、空間や物を認識する力も衰えてきているといいます。そうした中、世界初のアルツハイマー病の治療薬『レカネマブ』が2023年9月に日本で承認されました。女性はレカネマブを用いた治療を去年1月に開始。それから約1年、薬の効果は…。

「どうやって行っていたかな…」近所の店への道もわからなくなってしまう

 厚生労働省によりますと、現在、国内の認知症患者(軽度認知障害含む)は推計で1036万人。その約7割がアルツハイマー型認知症です。大阪市内でひとり暮らしをする関田美香さん(60)は、4年前に若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。

 ある日、近所の店まで弁当を買いに行こうとする関田さん。通い慣れた道のはずが、行き方がわからなくなってしまいます。

 (関田美香さん)「ちょっと待って。どうやって行っていたかな。忘れた、やばい」

 このように突発的に記憶が飛ぶことがあります。
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 住み慣れた家のなかでも…

 (関田美香さん)「お茶あったかな…。これ、きのうのかな?わからない…どうしよう」
 (記者)「それ、ごま油です」
 (関田美香さん)「やばい~。めちゃめちゃやばい。本気でお茶だと思ってた」

 記憶障害だけでなく、空間や物を認識する力も衰えてきています。

 (関田美香さん)「病名を告げられたときはもう愕然、茫然ですね。なにも考えられない。私がですか…みたいな」

『レカネマブ』の投薬治療を開始 89歳の母親が通院に同行

 少しずつ表れる症状。ふさぎ込む美香さんに一筋の光が差したのは2023年のことでした。アルツハイマー病の治療薬『レカネマブ』が世界で初めて承認されたのです。レカネマブは、病気の原因物質を脳内から取り除くことで、症状の進行を遅らせる効果があります。

 (大阪公立大学・医学部附属病院 武田景敏医師)「完全にとめることができなくても、大きくゆっくりすることができて、より早期に気づいて治療することで、自分らしく生きる期間を延ばすことができるというのが、やはり大きな意味なのかなと」
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 美香さんは去年1月にレカネマブの投薬治療を始めました。通院に同行するのは、離れて暮らす母親の幸子さん(89)です。

 レカネマブは2週間に1回の点滴投与を1年半にわたって続けなければいけません。負担する費用は約100万円と決して安くはありませんが、「今の状態が保てるなら」と家族で支払っています。

 (母・幸子さん)「(発症が)まだ50代というのは、あまりにも早すぎるので。本人もまだまだやりたいことがあるだろうと思って」
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 「できるところまでひとり暮らしを続けたい」という美香さん。去年の夏ごろからはヘルパーの坂本智子さんが週に3回、生活の補助に入っています。買い物のサポートや自宅の片づけをしてもらうことで、美香さんは安定した生活を送れるようになってきました。

 (関田美香さん)「坂本さんでよかった~って」
 (坂本智子さん)「そう言っていただけて、こちらが感謝いたします」

「いつも履いている靴がない」表れ始めた“物盗られ妄想”の症状

 ところが、冬にさしかかったころ、異変が起こります。

 (記者)「どうしたんですか?靴がない?」
 (関田美香さん)「いつも履いてるスケッチャーズの靴が…」

 美香さんは「誰かに物を盗られた」と思い込むことが増えていました。

 (関田美香さん)「誰かの手で持っていかれた…。悪いけど、そういうことしか考えられなくなりますね、ここまでくると」
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 (記者)「ベランダみます?」
 (関田美香さん)「誰か入ってきてるかな…そういう感じがするんですけど」
 (記者)「美香さん、靴ありますよ」
 (関田美香さん)「えっ、どこ?」
 (記者)「ベッドの下じゃないですか?」
 (関田美香さん)「ベッドの下?まじで…これです。…そこまで壊れてる?」

 “盗みの疑い”が、信頼しているはずのヘルパーの坂本さんに向けられることもありました。

 (坂本智子さん)「えっ、私を疑ってる?みたいな。それを責めてもしょうがないことだし、『違うよ』ってわかってもらうことも難しいことだから、流していかないとね」

 こうした思い込みは、アルツハイマー病が進行すると表れる症状のひとつだといいます。

 (武田景敏医師)「『物盗られ妄想』というものです。自分が、あるときに場所を変えたこと自体を覚えていないんです。そうしてどんどん物がなくなるという奇妙な現象が起きると、理由がないと不安になりますよね。『誰かが盗った』と考えてしまうのはしかたがないことなんです」

治療から1年たち症状の進行は…「根性で頑張らないとね」

 今年1月、レカネマブ治療を始めて1年がたち、病気の進行状態をはかる検査が行われました。記憶力や視覚、空間認識などの認知機能を確かめていきます。その結果は…

 (武田景敏医師)「視覚の検査は記憶の面でも少し悪い面があるんですけど、全体としておおむね変化はないかなと思います」
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 認知機能は1年前の点数と同じ。症状の進行は抑えられていました。

 (武田景敏医師)「(Qレカネマブを点滴していなかったらもっと進行?)もちろんです。確実に進んでくると思いますし、関田さんのご年齢くらいの比較的若い患者さんは進行が速いと言われていますので、そういったことを考えると、進行していないということ自体は非常にいいことだと思っています」

 レカネマブの投与は1年半と決められています。大きな副作用もなく、残り半年、治療を継続できることになりました。
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 (関田美香さん)「ぐっと食い止められるように、一緒に身体ともども精神的にも頑張っていきたいなと思います」

 (母・幸子さん)「よかったよかった。悪くなってなかったらオッケーよ」
 (関田美香さん)「根性で頑張らないとね」
 (母・幸子さん)「頑張ろう」

2025年03月02日(日)現在の情報です

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