2025年12月07日(日)公開
報道被害を受けた遺族が「被害にあわれたあなたへ」取材対応リーフレットで支援 それでもマスメディアにかかわり取材を受ける"メリット"とは...【附属池田小事件 被害者支援part4/全4回】
編集部セレクト

2001年6月8日、大阪教育大学附属池田小学校に男が侵入し、児童や教員23人が死傷した事件。男は死刑が確定して2004年9月14日に執行された。同年に成立した犯罪被害者等基本法では、犯罪被害者が再び平穏な生活を営めるまでの間、途切れなく支援を行うことなどが基本とされた。事件から24年、遺族のひとり酒井肇さんは犯罪被害者について世の中に伝え続けている。
エンパワーメントとつながりの再生
(酒井肇さん)
「エンパワーメントは、再び被害者が人生に向き合っていく力を取り戻すこと。 そしてつながりの再生とは、一旦切れてしまった自分の人生の主導権を被害者が再び取り戻し、人との信頼関係を再び築いていくことです。絶望の淵から回復するのに必要なことは、まずいろんなことを知る、そして参加し達成していくこと。これが重要です」
酒井さんは、孤独感と絶望感から立ち上がるために必要な2つの要素を挙げ、「参加」とは、学校の安全を守る活動、犯人に相応の刑罰を求める署名活動、校舎の改築問題などといった活動を指した。
こうした活動を支えるうえで、被害者を取り巻く連携プレーが肝心だというが、警察や被害者支援組織、行政などの取り組みはあるものの、ある”プレイヤー”が欠けていると指摘している。
支援の輪にマスメディアが加わっていく

(酒井肇さん)
「マスメディアは(被害者支援の)輪の中に入っていません。私たちが考えたのは、この支援の輪にマスメディアが加わっていくことです。そもそも被害者報道は何のためにするのか。マスメディアは被害者支援にどんな関わりがあるのか。報道被害とはどういうものなのか。そういったことを簡単に被害者が分かるように」
そんな思いから2024年、酒井さんが作ったリーフレットには「メディア対応で困っていませんか」との言葉がある。
酒井さんは「事件の後、メディアが押しかけてきた。間違った報道があった。勝手に写真を撮られた。こんなことでお困りではないですか。これはまさに私たちが困ったことです。」と話した。
メディア対応の例として、このような内容が書かれている。
「取材を受けるのは自由」「抗議訂正を求めることができます」

・犯罪被害者には権利があります。 「必ず取材に応じなければいけないのでしょうか?」「いえ、取材を受けるかどうかは自由です」。私たち被害者は特定のメディアに限って取材を受けることもできます。
・「マスメディアからされた全ての質問に答えなければならないのでしょうか?」「いえ、全ての質問に答える必要はありません」。嫌な気持ちになる質問には回答を拒否することができます。
・「私たちが受けた取材、報道が間違っていたらどうしたらいいんでしょうか?」「間違えた報道には抗議訂正を求めることができます」。
・「取材はいいんですけども、写真を使われて嫌なんですけども?」「そういった要望も出すことができます」。
どれも今の私たちは当たり前のように知っています。でも事件直後、犯罪被害者は混乱していてそれどころではありません。また事件当時、私たちはこうしたことも知りませんでした。そして「最後に最も重要なことを書きました」と話す。
犯罪被害者が「正確な報道」をさせる

1.より正確な報道をさせられる
(酒井肇さん)
「マスメディアというのは、警察などの取材に基づいた報道を行います。ところがそれが私たち犯罪被害者にとって正しいものばかりとは限りません。私たちが被害者自身が取材を受けることで、メディアにより正確な報道をしていただくことにつながります」
2.多くの情報を得られる
(酒井肇さん)
「私たちがメディアと接することによって、メディアが持つ多大で膨大な情報を得ることができます。接しなかったらこうした情報は得ることができません。私たちはマスメディアの協力によって、被害者にとって重要なサポートができる支援者につながりました。これも犯罪被害者にとって大きなメリットです」
3.社会に広く声が届く
(酒井肇さん)
「私たちが街頭で叫んでも声が届きません。しかしながら報道に乗って私たちの思いや要望は社会に届きます。私たちの声は人々の胸を打つものもあると思います。社会に広く事件の理不尽を訴える力もあります。私たちの声は、場合によっては法律や制度の改正に結びつくことがあります」
娘の最期のメッセージをきっかけに、前に進むことを決めた酒井さん。酒井さんが提案する被害者支援のネットワークは画期的な視点でもあり、いっぽうで、冷静かつ鋭い指摘をマスメディアに投げかけている。
酒井さんは「起きた事件や子どもたちの死は、私たち遺族だけのものではありません。事件を取り巻く全ての人々は、それをどのように受け止め、何をするかによって意味が生まれてくるのだと思います。」と話して講演を終えた。
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