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だました側「断ったら家を燃やすと指示役に脅され...」一方でだまされた側「私がひっかかるわけないと甘く考えてた」深刻化する特殊詐欺『加害者・被害者が語る後悔』

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 被害件数が減らない特殊詐欺。今回、だました側・だまされた側の双方に直接話を聞くことができた。両者が語ったのは「甘い認識」と「過信」があったということ。いまは後悔しているという。自分が加害者や被害者にならないためにはどうしたらよいのか。

「SNSを通じて闇バイトに応募」なぜ危険性の高い受け子になるのか

 今年6月、兵庫県警に逮捕された会社員の男(36)。弁護士になりすまして70代の男性と2度にわたって会い、現金計500万円をだまし取った罪でその後起訴された。

 男は特殊詐欺グループで、被害者から現金を直接受け取る、いわゆる「受け子」だった。被害者の男性は息子を装う別の人物からの電話を信じ込み、受け子の男に金を渡してしまったという。
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 (息子を装う人物からの電話)「既婚者の女性と男女の関係になり、子どもができてしまった。裁判にしたくないので示談金が必要」

 この電話をかけたいわゆる「掛け子」や指示役については今も捜査中だ。逮捕された男は、警察の調べに対して「SNSを通じて闇バイトに応募した」などと話しているという。

 今回の事件は、まさに氷山の一角だ。警察庁によると、去年1年間の全国の特殊詐欺の認知件数は1万9000件あまり。被害額は2年連続で増加し、約450億円にのぼっている。

 だが、グループ全体の実態把握に至ることは極めて難しく、捜査の手が及ぶのは多くが捨て駒と揶揄される受け子などだ。逮捕される危険性が高いのになぜ受け子になるのか。

受け子・出し子をしていた男性「SNSで『ネット関係の仕事』に応募したら…」

 取材班は北海道で以前、特殊詐欺グループに所属していたという男性に話を聞くことができた。30代のAさん。2020年、6件の特殊詐欺事件に関わり懲役3年の実刑判決を受けて服役していた。

 (Aさん)「ここは被害者宅からキャッシュカードを盗んでお金をおろした銀行です」

 Aさんは、被害者の家に出向いてカードなどを受け取る「受け子」と、そのカードを使ってATMで現金を引き出す「出し子」を掛け持ちしていたという。

 (Aさん)「(当時)耳元では指示役から脅されているし、被害者には申し訳ない気持ち、罪悪感がすごかったけど、今ここに来ても、その時の気持ちを思い出して嫌な気持ちにはなりますね」

 きっかけはSNSで「高額報酬」をうたうアルバイトの募集を見つけたことだった。

 (Aさん)「当時Twitterで『ネット関係の仕事』と書いてあったので、それに応募したのがきっかけですね。報酬2万円とか3万円という感じだったんで。当時お金がなかったので、どうしてもそういうのに飛びついちゃったっていうのはありましたね」

「やめたい」と連絡すると「断ったりしたら家を燃やしに行く」

 Aさんは、SNSを通じて身分証の画像などを送り応募したところ、仕事に使う書類が届いたという。

 (Aさん)「自分の顔写真と○○警察署、生活安全課とか書いてあって、偽名として書いてあったのが、『竹内豊』って名前だったんですよ。(偽造された身分証をみて)さすがにまずいんじゃないかと」

 これは闇バイトだと感じたAさん、「やっぱりやめたい」と連絡したところ、こう脅されたという。

 (Aさん)「親の連絡先とか家もわかるから『もし君が断ったりしたら家を燃やしに行く』とか『親どうなってもいいの』とか。親がどうのこうのって言われたら、もう逃げられないという感じではありましたね」
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 Aさんの話から浮かび上がってきたのは、末端の受け子や出し子の弱みを握り、特殊詐欺に手を染めさせていくグループの歪な構造だった。
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 結局、自分に指示を出していた人物の名前や顔も分からないまま罪を犯してしまったAさん。服役中に使っていたノートには、反省や後悔の念がつづられている。

 【服役中に使っていたノートより】
 「本当に申し訳ない」
 「忘れないで一生償う」

 (Aさん)「取り返しのつかないことをやってしまって本当に申し訳ないという気持ちと、もっと周りに相談して落ち着いて行動すればよかったんじゃないかとはやっぱり思いますね」

 一度足を踏み入れると抜け出すのが難しい特殊詐欺グループの実態。

被害者Bさん「もう魔法にかけられたみたいで」巧妙なだましの手口

 一方、被害にあった高齢者は、巧妙なだましの手口についてこう話す。

 「まさか自分がひっかかると思わずに。電話きたら遊んでやろうって思ってましたね。でも遊ばれました、すっかり」

 兵庫県内に住む70代のBさん。今年5月、市役所の職員をかたる男から「医療費の還付金が受け取れる」と電話があった。男は「受け取りに必要な書類は銀行で作成できる」などと説明。すでに申請期限を超えているので急いで手続きをするようせかしてきたという。

 (Bさん)「銀行に機械があるのですぐ来てくださいと。もう完全にスイッチが入ってまして、その人に操られるように行ってしまった」

 Bさんが銀行に行くと今度は銀行の職員を名乗る別の男から電話があり、書類を作成するためにATMを使うよう指示されたという。Bさんは疑問を感じながらも、言われるがままにATMを操作し、計約150万円をだまし取られた。

 (Bさん)「そこにあるのはATMなんだけど、これは市の機械なんだ。市の機械だから教えてもらわないと私は操作ができないんだというふうになって。本当にもう魔法にかけられたみたいで」

被害者Cさん「甘く考えてた私がひっかかった」甥を助けたい一心で冷静さを失い…

 神戸市内に住む80代のCさんも考える間もないままにだまされてしまったと話す。

 (Cさん)「バカみたいなことだけど信じてしまった」

 今年2月、甥をかたる男から「駅にカバンを忘れて中に入れていた会社のカードを止めてしまった。仕事で必要だから金を貸してほしい」と電話があり、40万円をだまし取られた。

 Cさんは「とにかく甥を助けたい」と冷静さを失っていたと振り返る。

 (Cさん)「甥は去年結婚したばかりだから、妻にも言えないんやなと思ったからね。『そんなもんに私がひっかかるわけないわ』と甘く考えてた。甘く考えてた私がひっかかった」

「『自分はだまされない』ではなく『自分はだまされる』とまず思うこと」

 詐欺や心理学などに詳しい立正大学の西田公昭教授は、被害にあった2人の状況について、特殊詐欺の手口全般に見られる共通点を指摘する。

 (立正大学心理学部 西田公昭教授)「焦らされて不安や恐怖の中で、あるいは甘い言葉の中で、とにかく急いで答えを出さなきゃいけない、どうしたらいいかわからない。そこに指示が与えられて、それに従うというものが構造的にある。『自分はだまされない』のではなく『自分はだまされる』というふうに自分のことをまず思うことがポイントです」

 年々深刻さを増す特殊詐欺の問題。加害者にも被害者にもならないために、冷静になって立ち止まる必要がある。

2024年09月03日(火)現在の情報です

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