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注目の次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」最大のメリットは『歪みに強く、薄くて軽い』その開発での脅威は「中国の量産力」安定性が強みの日本に求められるスピード感

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 大規模な太陽光発電は、環境破壊のリスクがあるとして、各地でトラブルが発生しています。そんな中で大阪の企業が開発をリードしてる次世代の太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」が注目されています。

メガソーラー事業で問題視される「大規模な森林開発」

 緑豊かな山を切り開き、2023年6月から売電が始まった山口県岩国市のメガソーラー。約118ヘクタール(東京ドーム25個分)に太陽電池を設置しています。
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 しかし、開発工事中だった2021年7月に土石流が発生。事業用地から土砂が流出し、近隣の水田に流れ込む被害がありました。
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 (近くに住む廣兼輝雄さん)「そこを越えた水がここへ出たんだよね。(Q本当に家の目前まで迫ってきた?)ここはもうすごかったですよ。引っ越そうかと思うときもありましたよ。もうここにはいられないと思ってね」

 近隣住民は、開発により山の保水力が下がっているのでは?、と憤っています。
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 (近くに住む中村光信さん)「メガソーラー自体は『自然環境に非常に優しいエネルギー発電所ですよ』と言われるけれども、そのために自然破壊して森林を伐採して開発するのは問題。力のない弱いものはもう泣き寝入りしかない」

 現在普及しているシリコン系太陽電池は、設置場所が限られるため、メガソーラーが必要になり大規模な森林開発を伴う場合が多いのです。

町民ら約1000人がメガソーラーを提訴する動きも

 周辺住民とメガソーラー、事業者との衝突は関西でも起きています。奈良県平群町、住宅街からほど近い山に5万枚のパネルを設置するメガソーラー建設計画ですが…
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 【2020年に行われた住民説明会の様子】
 (住民)「なんの説明もなんの告知もなんにもなしに、こんな失礼な交渉ないで」
 (町の職員)「(全住民の)同意は必要ありません。必要とは書いていないんですよ」
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 平群町の町民ら約1000人は事業者に対して、災害発生の可能性が高まるなどと建設の差し止めを求める訴えを起こしています。

歪みに強く、薄くて軽い…設置場所も選ばない「極薄の太陽電池」

 こうした状況の打開を期待されている太陽電池があります。その名は「ペロブスカイト太陽電池」。軽量で設置場所を選ばないため、自然や周辺環境への負担が大きいメガソーラーは不要。ビルの壁面やトラックの荷台、ブラインドなど様々な場所で設置・発電が期待されています。
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 従来の太陽電池は割れやすいシリコンウエハを覆うため重い強化ガラスが必要ですが、ペロブスカイトは不要です。極薄のフィルムに発電層を塗り、結晶化して作ることができます。歪みに強く、薄くて軽いのが最大のメリットです。
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 国内で開発をリードしているのは大阪・島本町で研究を行う「積水化学工業」です。

 (積水化学工業 森田健晴さん)「(Q曇っていても発電できている?)はい、シリコン系よりは発電はしやすいですね」

 弱い光でも発電効率がいいため、曇っていても夕暮れ時でも発電できるといいます。
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 (積水化学工業 森田健晴さん)「向こうから送り出してきたフィルムがここへ出てくるんですけれども、このフィルムを…企業秘密なので塗工のところは映像として出しにくいですが、ここで塗ります。ずっと送られてきまして、ここから巻き取っていくと。こういう形で出来上がったものは真っ黒の太陽電池になります。結局、効率を追求していくと全ての光を吸うので黒くなるんですよ。こんな感じになります、ペラペラなんですよ」
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 現在、開発中のペロブスカイト太陽電池は、耐用年数10年・発電効率は15%(シリコン系の発電効率は約20%)。2023年8月から本社ビル壁面を用いた実証実験も始めていて、2025年度中の実用化を目指しています。

 2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博の会場にも設置される予定です。

ライバルは中国『彼らは非常にスピードが速い』

 ペロブスカイト太陽電池を発明したのは、桐蔭横浜大学の宮坂力教授の研究チームです。

 (桐蔭横浜大学 宮坂力教授)「設置も簡単ですし使いやすい。間違いなく今のシリコン系太陽電池が全部ペロブスカイトに変わるようなときが来ると思います」

 大きな期待を寄せていますが、脅威となるのが…

 (桐蔭横浜大学 宮坂力教授)「中国ですね。たくさんの会社が今、事業化を図って手をあげている。工場まで作って。彼らは非常にスピードが速い」
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 中国・江蘇省にある企業「大正微納科技」は、2021年4月に工場を稼働させ、ペロブスカイト太陽電池の量産化に向けた準備を進めています。
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 (大正微納科技 馬晨董事長)「当社の柔軟で軽量なペロブスカイトは世界最大の大きさで、現在は0.7m×1.2mに達しています」

 耐用年数は10年ほど、発電効率は13%~15%と、日本製品と同等のスペックだといい、暗い部屋の壁に反射するスクリーンの光だけでも発電が可能だとアピールします。現在、工場の雨よけで電動キックボードに給電する実証実験を行っていて、今年中には市場販売を開始したいとしています。
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 (大正微納科技 馬晨董事長)「将来的には日本に工場を作り、日本でも製品を販売できることを願っています」

宮坂教授『品質が高いものを出すスピード感では日本は負けていない』

 中国企業が量産化では一歩先を行きそうですが、安定して良い製品を製造できるのは日本企業ではないかと、宮坂教授は語ります。

 (桐蔭横浜大学 宮坂力教授)「結晶化の技術はものすごくマニュアルな世界で、日本は非常に高い技術を持っています。品質が高いものを出すスピード感は日本と海外とどっちが速いかっていうと、日本は負けないと思いますね」

 市場のゲームチェンジャーとなり得るペロブスカイト太陽電池の覇権を日本は握れるのか?今後、数年が勝負となりそうです。

2024年01月29日(月)現在の情報です

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