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時枝穂さんに聞く当事者の想い『LGBT理解増進法施行』トランスジェンダー女性はこの法律をどう評価しているのか

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6月23日、「LGBT理解増進法」が施行されました。理解増進法に関しては、2021年に超党派の国会議員連盟が作成した法案の国会提出が見送られて以来、事実上の棚ざらしになっていました。しかし、今年2月の荒井元総理秘書官の差別発言がきっかけで、急遽法案提出から成立まで進んだという背景があります。そのため、国会での審議は異例の短さでしたが、その短い議論の中でしばしば取り上げられたのが「トランスジェンダー女性と自称する男性が女湯に入ってくることを拒めなくなる」「トランスジェンダー女性が女子トイレに入ると混乱が起きる」といった論点でした。しかし、LGBTQへの理解を進めようという法案の審議で、トランスジェンダー女性に特化し、しかも根拠が明確にされていないこの論点が繰り返されました。

この点について、トランスジェンダー女性であるLGBT法連合会代表理事の時枝穂(ときえだみのり)さんに受け止めを聞きました。

――6月16日にLGBT理解増進法が成立しました。まずは当事者としてどう捉えているのかお聞かせください。

法案が成立したことは、誰しも持っている性的指向やジェンダーアイデンティティが多様であるという理解を進めていくということで、何も悪いものではないんですね。理念法ということで誰か特定の人の行動を制限したり、既存のルールを変えるものではありません。法律ができた事を前向きな見方もできるんですが、当事者が求めていたのは差別禁止なので、当事者の声に寄り添った法律だとは言えないですね。

現在、自分がLGBTQだとカミングアウトできない人が大半です。カミングアウトしてもちゃんとその人が守られる法律を作らなければいけないというのが本来で、今回の理解増進法という理念法でそれがどこまで担保できるのかという懸念があります。この法律で救われる当事者ももしかしたらいるかもしれない。ですが、そう捉える当事者は非常に少ないのではないかと思います。

――懸念とはどういったものですか?

理解っていうのはもちろん大事なんですが、その前に少数派の人権が全く守られていないというところです。法の下の平等が憲法で定められていて、差別禁止とかヘイトスピーチ禁止などの法律があったうえで、ようやく当事者は安心してカミングアウトができたり暮らしたりできるようになると思います。しかし、国会の質疑や答弁で「(むしろLGBTQ当事者たちのほうが)多数派に配慮する」という言葉が何度も出てきて、そういう言葉がしんどいなと感じる人が多いという感覚です。

――LGBT理解増進法案の議論の中で、たびたびトランスジェンダー女性にまつわる「女風呂」「女子トイレ」が論点になっていました。

トランスジェンダーに関しての理解が圧倒的に乏しいと感じます。性自認について「性別を自称できる、つまり(自分の意思で)コロコロと変えることができる」という誤った説明が広まって、「自分の心が女性であると主張すれば身体が男性でも女湯に入れて、それを止めると差別になる」という言説が主張されるようになりました。

性自認・性的指向は自分では決められません。例えばトランスジェンダー女性は「男性から女性に変わりたい人」と言われたりすることがあります。間違いではないですが、「出生時に割り当てられた性別で生きていくことが苦しいと感じる人」または「自分の本来の性自認に近づけていきたいという認識を持つ人」と言いかえることもできます。トイレ利用については「女子トイレに入りたい人」ではなく、「男女どちらのトイレを使えばよいか躊躇したり、男性トイレを使うことに精神的苦痛を感じたりする人」ということです。

また、トランスジェンダーといっても多様です。幼少期からはっきり(性別違和の)自覚がある人もいれば、徐々に自覚していく人もいて、その度合いには強弱があります。例えば、大人になって結婚して子育てが一段落してから、やっぱり自分らしく生きたいと性別移行する人もいます。そもそも日本では性自認・性的指向についての正しい教育が広がっていないので、性別に違和感を抱えていても「自分がおかしいんじゃないか」と思ってしまう。男性なのか女性なのかとモヤモヤすることは変ではないとちゃんと知っていれば、本人の自己肯定感も変わってくると思います。

戸籍上も性自認も女性、いわゆるシスジェンダーの女性は、日ごろから「私は女性です」と公言しなくても社会の中で問題なく生きていけますよね。でもトランスジェンダーの場合はそうはいきません。例えば、戸籍変更をしてないトランスジェンダーが、事故にあったなどで身分証明書の提示を求められる時や、病院で問診票に女性特有、男性特有のチェック項目に回答しなければならない時に戸籍上(出生時)の性別を伝えなければならない。周囲から「男性か女性かわからない人が受診に来ているんですけど」という会話が聞こえてきたりすることもあるかもしれません。そんな時に洗いざらい自分のことを話さなければならないのは精神的に苦痛です。もちろん、すべてのトランスジェンダーが、このような困難を抱えているわけではありません。

国会審議やSNSなどで言われている「トランスジェンダー女性を装って女子トイレや女風呂で盗撮や性暴力をする」という言説ですが、もし実際にそういうことが起きたらそれはその都度きちんと罰していくべきです。でも、その懸念はLGBT法案とは直接的には関係のないことだったはずです。そうした議論で不安や恐怖を煽っていることが問題で、そこを皆さんに気付いて欲しいと思います。

――6月14日には「LGBTQ+への差別・憎悪に抗議するフェミニストからの緊急声明」が出されました。「女性の安全がトランスジェンダーの権利擁護によって脅かされるかのような言説は、トランスジェンダーの生命や健康にとって極めて危険なものになりかねません」と女性側からも発信しなければならないほどトランスジェンダー女性にバッシングが集まってしまうのはなぜなのでしょうか。

トランスジェンダーは人口の1%にも満たない、LGBTQの中でもマイノリティと言われています。より脆弱な立場なのでバッシングしやすいのだと思います。

――法律が施行されても現状が変わっていくのはまだまだこれからです。

私はトランスジェンダーも含めいろんな方が自分らしく生きられる社会に向けてこれからも活動していくつもりです。LGBTQ当事者たちは、日々暮らしている社会の中で偏見や差別的な言説などを見聞きして、それがどんどん自分の中に刷り込まれていって、自己肯定感を持ちづらい状況です。そこをなんとか変えていけたらと考えています。

トランスジェンダーについては、一般の方には性別に違和感があるとか性別を変えたいという感覚はわかりづらいと思います。でも、実際には性別移行するのはものすごく大変で、戸籍の性と見た目の性が一致していないことは様々な場面でハードルとなります。なので、そういった経験やストーリーを当事者だけでなく周りの人たちが語っていく、親とかきょうだいとか友達が当事者の辛さや苦しみを語っていくことが大切だと思います。

2023年06月23日(金)現在の情報です

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