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"深夜0時待ち"高速道路の料金所前でトラックが次々と停車の異様な光景 『30%割引』めぐり「交通ルールと労働時間の両立」に苦悩するドライバー

2022年11月04日(金)放送

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 コロナ禍で通販市場が拡大し「運送業界」の需要が増えています。一方で、燃料費が上がっているほか、競合他社が増えて過当競争ともいえる状況になっています。そんな中、取材班は高速道路の「深夜割引」をめぐりトラックドライバーたちを悩ませている実態に迫りました。

大型トラックが路肩を埋め尽くす…目的は「高速道路の深夜割引」

 10月14日の東名高速道路・上りの東京料金所。時刻は午後11時45分。

 (記者リポート)
 「いま1台トラックが路肩に止まりました」

 なぜか料金所の手前で大型トラックが減速し、路肩に停車しました。高速道路上での駐停車は道路交通法で禁止されていますが、その後も次々と停車するトラック。路肩をトラックが埋め尽くします。
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 路肩がいっぱいになると、今度は走行車線にも止まるようになりました。約10分後には同じようなトラックが次々と増えていき、あっという間に3つの車線を塞ぎました。そして…。

 (記者リポート)
 「トラックが動き始めました。先頭が動き始めました」

 日付が変わった午前0時。停車していたトラックが一気に動き出し、料金所を通過していきました。

 深夜の高速道路上で発生している異様な光景。その理由とは…。

 (トラック運転手)
 「やっぱり午前0時を超えるまで待機しているんじゃないの?ETCの割引が効くから」

 高速道路の深夜割引です。深夜0時~午前4時までの間に料金所を通ると、料金が30%割引(ETCのみ)になる制度です。

 (トラック運転手)
 「福岡を出発して埼玉まで行ったとしましょう。大型車で通常が約3万円なのが約2万円になるので、だいぶでかいですね」

 ほぼ毎日起きているという「深夜0時待ち」。これによって引き起こされている問題がありました。

運送業者『30%割引があるかないかでコスト負担が全然違う』

 和歌山市にある「鳥羽運送」。原油高による燃料費高騰などで深夜割引なしでは経営が成り立たないといいます。

 (鳥羽運送 鳥羽弘基代表取締役)
 「30%割引は、毎日のことですから、あるかないかでコスト負担が全然違います。割引がなかったら会社のコストがかかりますので、大きいですね」
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 ただ、この深夜割引を受けるために引き起こされているのが「労務管理」の問題です。国はドライバーが安全に運転するために労働時間を厳しく制限しています。一方で、荷物を取引先の希望時間に運ばなければならず、深夜割引を受けて労働時間を守る、この両立が難しくなっているというのです。

和歌山から埼玉へ向かうトラックに同行 「430休憩」にも一苦労

 実態はどうなのか。取材班はさいたま市の配送先に向かうトラックに同行させてもらいました。運転する「鳥羽運送」の加藤欣宏さん(52)はこの道16年のベテランドライバーです。
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 和歌山から埼玉までは総距離500km以上。目的地近くの東京料金所に深夜割引が適用される午前0時すぎに通過することを目指します。9時間にわたる長距離運転。ドライバーにとって景色を見るのも1つの楽しみです。

 (鳥羽運送 加藤欣宏さん)
 「好きな高速とか走りやすいところとかありますよね。北陸道とかは全体的に走りやすくて好きですね。日本海を見ながら走るのも気持ちいいですしね」
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 走り始めてから4時間が経過しました。

 (鳥羽運送 加藤欣宏さん)
 「4時間たったので30分休憩とりますね」

 実は、長距離ドライバーは4時間運転すると30分間の休憩をとらなければならないと法令で定められています。通称「430(よんさんまる)休憩」と呼ばれ、違反すると事業者が処分の対象になります。和歌山から埼玉までは運転時間が8時間を超えるため「430休憩」は2度必要になる計算です。
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 午後9時半、トラックは静岡県に来ていました。この時間、あたりを走るのはほとんどがトラックです。運転再開して3時間がたち、2度目の「430休憩」を早めにとろうとしますが、パーキングエリアにつながる道にも何台ものトラックが駐車されています。止められるスペースはありませんでした。

 (鳥羽運送 加藤欣宏さん)
 「(Qパーキングに入ってすらないですね?)そうですね、入る前から…。(トラックが止まっているのは)駐車枠ではないですね」
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 諦めて別のパーキングエリアへ向かいますが…。

 (鳥羽運送 加藤欣宏さん)
 「厳しいですね。ここでつっかえていたら止められないですね、空いていても」

 ここでも止めることができませんでした。
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 その後、5か所で休憩を試みるも駐車することはできませんでした。道路交通法を違反してまで止まるトラック。その多くが「深夜0時待ち」です。この日、静岡県内の駐車場はどこも混雑。このままでは交通ルールを破って駐車するか、労働時間を破るかのどちらかとなってしまいます。
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 駐車場を探し始めて1時間。「混雑」と表示されている神奈川県内のパーキングエリアへ向かいます。そして、運転し始めてからちょうど4時間たったところで、なんとか駐車できました。

 (鳥羽運送 加藤欣宏さん)
 「これは体に悪いですね、精神的に疲れるんで。これをちょっとでも癒すための30分休憩ですね」

 2度目の休憩を終えるといよいよ東京料金所へ。午前0時を過ぎるよう車を進めます。そして午後11時57分、東京料金所付近に到着。徐々に前方の車列のスピードが落ちていき、完全に停車。料金所は目と鼻の先です。多くのトラックがゆっくりとその時を待ちます。
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 そして午前0時、前のトラックが動き始めました。加藤さんのトラックも東京料金所を通過します。料金は1万230円。30%の割引も適用されました。

 約30分後、トラックはさいたま市へ。目的地近くの駐車場にトラックを止めます。運転時間は約9時間。加藤さんは車内で就寝して取引先の搬入時間を待ちます。労働時間を守りながら交通ルールを守る。この悩みは運転のたびに続いています。

トラック協会『労基法と道交法の板挟みというか打つ手がない』

 和歌山県トラック協会は「法令順守と労務管理の両立は厳しく、深夜割引の時間の拡大」を訴えます。

 (和歌山県トラック協会 横山郁芳副会長)
 「交通安全が守れて安全な輸送ができるところをきちっと担保できるようにがんばっていきたいんですけれども、(労基法と道交法の)板挟みというか、打つ手がない。深夜割引30%、できれば時間を拡大してもらいたい」

 国も事態を把握して見直しを検討している深夜割引。ドライバーの苦悩はいつまで続くのでしょうか。

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