2022年04月04日(月)公開
『陽性者数を一の位まで把握するのはナンセンスじゃないか』デジタル化や業務フロー効率化に成功した「豊中市保健所」所長が語る第7波対策
編集部セレクト
大阪府の新型コロナウイルス第6波の特徴は、全国で最も死者数が多く、また感染者数の計上漏れの問題が起きたことでした。そんな中で独自の対策を打ち出してきたのが大阪府の豊中市保健所です。3月30日までのデータでは、人口10万人あたりの累積陽性者は、豊中市は8146人で大阪府全体の8989人より1割少なく、累積陽性者1万人あたりの累積死亡者数も豊中市は40人で、大阪府全体の59人より約3割少ないという状況です。今回、毎日放送の大吉洋平アナウンサーが豊中市保健所の松岡太郎所長に会い、第7波に向けた対策を深掘りして取材しました。
落ち着きを見せる“第6波のピーク越えた現場”
(大吉洋平アナウンサー 3月28日)
「『まん延防止等重点措置』の解除から1週間が経ちました。北新地のあちらの検査センターなんですが、以前は長蛇の列がよく出来ていたんですね。今日は混雑している様子はないですね」
(担当者)
「(Q以前は長蛇の列ができていたのが印象的だったが?)今は本当に空いているんですね。1日200人前後いかないくらいですかね」
コロナ禍で迎える3度目の春。第6波のピークを越えた現場の最前線は落ち着いていました。
(大吉洋平アナウンサー)
「こちらが『豊中市保健所』の中です。全ての電話がひっきりなしに鳴っているという状況ではありません。殺伐とした様子は今はなくて、やはり感染状況が落ち着いてきているのかなというのも、この保健所の空気からも伝わってきますね」
(豊中市保健所の職員)
「ピーク時に比べると全然比べ物にならないくらい負担は少ないです。(Q一番大変だった時はどんな状況だった?)一番大変だった時はもう涙が出るほど大変でした」
「高齢の方はどうしても重症化していく人たちがいるなというところで。入院させたいなという人でも病床がいっぱいなのでなんとか施設でみてもらったりとか、そういうお願いをしないといけないのが心苦しかったりしましたね」
豊中市保健所・松岡所長の決意『真似される保健所へ』
第6波では感染者数の急増から大阪府では2つの点が問題となりました。1つ目は高齢者の死者数の増加、2つ目が大阪市で起きた感染者数の計上漏れです。
こうした問題に独自の対策を打ちだしたのが「豊中市保健所」の松岡太郎所長です。
松岡所長は元々は小児科医で、2012年に豊中市が中核市になり自前の保健所が誕生するタイミングで所長に抜擢されます。
2015年5月の公衆衛生関係の専門誌で、松岡所長は“期待の若手”の欄で記事を執筆し、「真似する保健所ではなく真似される保健所へ」と決意を表明していました。
(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「豊中方式として、場合によってはよそから真似されるような、あんまり周りを気にするなと、自分たちで考えてやっていこうと。その辺は大事にしたと思っています」
デジタル化や業務フロー効率化で保健所業務を大幅軽減
そんなアイデアマンが第6波でとった対策は次のような内容でした。
(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「(Q以前はホワイトボードにいろんな情報が書いてあった映像がありましたが今はちょっと違いますね?)以前はデジタル化をする余裕もなかったので全部手書きでやっていたのですが、全てそれをデジタル化することができました」
豊中市は1人30分以上かかっていた電話での聞き取りをやめました。代わりに患者やその家族が基礎疾患の有無や症状などをスマートフォンなどで自分で打ち込むことで保健所の業務を効率化しました。
さらに、従来は発熱者のPCR検査などを担当した医療機関が、保健所に連絡し、保健所が陽性者に連絡をしていました。しかし、担当した医師が保健所を介さずに直接連絡して、そのまま療養方針を決めるよう迅速化しました。普段の診療と似た仕組みに変えたのです。
豊中市の陽性者1万人あたりの累積死亡者数は3月30日時点で大阪府全体と比べて3割ほど低くなっています。
(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「(Qこれまで保健所が担っていた業務を医師が担っていくような形になっていくと?)一部自宅にいていいような軽症あるいは無症状の方に関しては先生方にフォローをお願いすると。保健所としてはその一部、それでも混ざってくるであろう重症になられる方、ケアの必要な方に専念したいということですね。(Qこれは保健所にとっても大きいですか?)保健所にとっては非常に大きいです」
『新規陽性者数を一の位まで把握することがもうナンセンス』
中国・上海ではロックダウンが始まりました。封鎖された小学校の中で一夜を明かした児童たちや、ジムで運動中に封鎖されて閉じ込められた人たちもいます。このまま中国は従来通りの“ゼロコロナ対策”を貫くのでしょうか。
一方、日本は第7波に向けて従来通りの対策でよいのでしょうか。
(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「(Q来るかもしれない第7波に向けて保健所のあり方や保健所がやるべきこと、ここに対する改善というのは?)新規陽性者数を一の位まできっちり把握しているっていうことが、もう既にナンセンスなんじゃないかなっていう気が私はしています。(Q街中のみんなが濃厚接触者だよと。それを特定するのに意味があるかっていう話ですよね?)そうですそうです。もう極端なことを言えば、住民さん皆さん濃厚接触者なので気をつけてくださいと。『豊中市だけやめます』っていうわけにはいきませんのでね。その辺はやっぱり上の方から号令をかけて、『はい、疫学調査開始』『はい、疫学調査やめ』っていう号令を出してほしいなと思います」
また、松岡所長は大阪府の特定健診の受診率が全国最低レベルであることに触れ、第7波を前に一人ひとりの健康チェックを呼びかけました。
(豊中市保健所 松岡太郎所長)
「基礎疾患いわゆる持病ですね。これをどのぐらいコントロールしておくかというのが、特に第6波になってからの死亡された方にかなり関係していると思うんですね。第7波、第8波、来るべきものに備えるという意味では、やはりもう一度、波の谷間の間に皆さんしっかり健診なりを受けて、しっかりいわゆる基礎疾患や持病のコントロールをするべきじゃないかと思っています」
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