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80年続く『巨大製油所』が突然の閉鎖を表明...「死ねというのと同じ」知事が抗議 市長や市民も『困惑』揺らぐ和歌山の街

2022年02月28日(月)放送

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ガソリンやジェット燃料などを長きにわたって製造してきた「ENEOS」の製油所が和歌山県の有田市の海沿いににあります。巨大企業の工場となると地域の雇用を生み出したり、地域と一体となって事業が行われています。そんな中、今年2月に「ENEOS」は2023年10月をめどに製油所の機能を停止すると突然発表しました。この発表を受けて地元からは怒りの声が上がっています。

ENEOSは「和歌山製油所」の機能停止を発表

海と山に囲まれた人口約2万5000人の和歌山県有田市。
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有田市で栽培されている「有田みかん」の生産量は日本一で、“みかんの町”。しかし、住民に話を聞くともう1つの顔が…。
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(有田市民)
「昔から有田と言ったらミカンとオイルの町」
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オイルの町。そう呼ばれる所以は、石油の元売り最大手「ENEOS」の和歌山製油所があるからです。甲子園球場64個分の広大な敷地で、80年以上にわたりガソリンやジェット燃料などを製造、日本の石油精製をリードしてきました。
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しかし、1月25日、ENEOSは、世界的な脱炭素の流れやエコカーの普及などで石油製品の需要が減少することを見込み、設備の老朽化や採算の悪化などを理由に和歌山製油所を2023年10月をめどに機能を停止すると発表したのです。

(ENEOS 大田勝幸社長 1月25日)
「和歌山製油所の精製製造および物流機能を2023年10月をめどに停止することを決定いたしました。和歌山製油所は当社にとりまして特別な事業所であることは間違いなく、製油所の機能を停止せざるを得ないことは本当に断腸の思いであります」

和歌山県の仁坂知事が『怒り』

この発表に怒りをあらわにした人がいました。ENEOSの発表の翌日、1月26日に東京のENEOS本社に抗議のために訪れた和歌山県の仁坂吉伸知事です。

(和歌山県 仁坂吉伸知事 1月26日)
「この話をおとといに知りましたので。唐突に聞いたということを怒っているわけではありません。だけどすごく怒っています。和歌山県にとっても売上高、製造品出荷額の20%弱があの工場なんですね。それから有田市は(製造品出荷額の)90%以上があの工場なんです。次の展望も示さないで『(製油所を)閉めます』というのは、その地域に『死ね』というのと同じじゃないですか」
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ENEOSの発表では、和歌山製油所の従業員約450人は配置替えなどで雇用は継続する方針は示したものの、地元の協力会社など約900人の雇用については明確にしていません。地元経済にとって依存度が高い製油所の停止は、“地域の死”を意味するとまで危惧されています。

市民や市長からは『不安』や『戸惑い』

地元の人たちに話を聞くとこのような声が聞かれました。

(有田市民)
「ちょっと急やったからショックかな。無くなったらどうなるんやろうと不安がいっぱいある」
「下請け業者も多いからね。やっぱり有田市にとっては(ENEOSに)いといてほしいよ」
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これまで製油所関連で大きな税収を得てきた有田市の望月良男市長も戸惑いを隠せません。

(有田市 望月良男市長 2月15日)
「(閉鎖方針が)いきなり来るんだなというね、大変なことになったという戸惑いというか。(Q製油所閉鎖は容認しがたい?)願いとしては1日も長く、国内のどこの工場よりも長く存続してほしいと根本にはあります。協力会社さん900人がいらっしゃって、そこには家族とか関係する方々がいらっしゃって。そこの課題に意識をもって我々は動かないといけないなと」

製油所閉鎖は和歌山で過去にも…「町の活気なくなった」

これまで共に歩んできた巨大企業の撤退。和歌山県ではこうした大規模な製油所が閉鎖されるのは初めてではありません。海南市の下津町。この町には約40年前までコスモ石油の前身である「丸善石油」の製油所がありました。
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当時を知る地元の商工会に話を聞くことができました。

(下津町商工会 若林睦弘専務理事)
「丸善石油の社員は1000人を超えていたでしょう。(製油所の)運動会の商品が1000万円(分)なんです。それが商工会に発注が来る。2t車で3杯ぐらいサンプルを持って行ってその中から選んでもらうんです」
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かつては昭和天皇皇后両陛下が視察にも訪れたという下津の製油所。活況だった頃、製油所の運動会は町をあげてのイベントで、白物家電など大口の景品発注などが町を潤していたといいます。
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しかし、1982年に製油所が停止。跡地には橋梁メーカーの工場などが建設されましたが地元の雇用は大幅に減り、1960年代には1万8000人いた人口も2015年には1万1000人ほどに減りました。
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(下津町商工会 若林睦弘専務理事)
「740くらいあった商工会員が現在は340くらいです。すなわち働き場がなかったら人は増えませんよ。(Q製油所閉鎖で町の雰囲気は変化した?)町全体の活気が無くなった」
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かつて“夜の街”として栄えた駅前の通りはシャッター街に姿が変わりました。
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さらに、製油所の従業員らが通ったバーは、閉鎖をきっかけにビジネス旅館に変わりました。
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(ビジネス旅館 泉 宮下恭子さん)
「今は歩く人も少ないですけど、昔は賑やかで、裏通りでも夜でもたくさん人もいて、みんなわいわい言いながら通っていました」

栄枯盛衰、有田市も同じ道を歩んでしまうのでしょうか?

2月25日、ENEOSと和歌山県や有田市などが製油所の跡地について話し合う初会合を開きました。

(有田市 望月良男市長 2月25日)
「私たちは未来に向けても、ENEOSさんが和歌山県、有田市と何か一緒にここでチャレンジしたい」

ENEOSは新たな製品の製造や企業誘致などを検討していますが、具体化はまだまだこれからです。

コロナの影響でJR西日本「特急くろしお」を大幅減便

和歌山県を巡っては、さらに逆風が吹いています。JR西日本が、新型コロナウイルスの影響を理由に京都・大阪と和歌山を結ぶ「特急くろしお」を2月21日から大幅に減便させました。
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(JR西日本 長谷川一明社長 2月16日)
「やはり経営が成り立つということも必要でございまして、それが持続的な鉄道輸送サービスの提供にもつながるわけでございます。地域の皆さん、ご利用の皆さんのご理解を賜りつつ、ご不便をおかけすることについては誠に申し訳ないなと思います」

元々、1時間に1本だった特急が2時間に1本になる時間帯も。観光地・白浜の「アドベンチャーワールド」に訪れた観光客にも影響が出ています。

(東京からの観光客)
「電車が無い。しょうがないから遅らせて(東京を)出て、暗くなってから白浜の駅に着いた」

地元の旅館「公共交通機関が減るのは非常に苦しい」

地元の旅館も…。

(紀州・白浜温泉むさし 女将 沼田弘美さん)
「JRさんは年末までは本数も元に戻しつつあったんですけれども、その頃はたくさんご利用者がいらっしゃたんですが、公共交通機関が減ってしまうのは非常に苦しい状況ではあります」
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仁坂知事はJR西日本に対してダイヤを戻すよう要望していますが、JR側は当面の間減便を続ける方針です。

巨大企業と共に歩んできた小さな町。企業側も難しい経営の舵取りが続いていますが、その判断で、地域経済が揺らいでいます。

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