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奈良公園のシカが食料危機に!? "ドングリの木"伐採進める県に「シカ目線で見ていない」憤る研究者 山下知事は「生態には全く影響ない」意見割れる

特盛!憤マン

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 連日、大勢の観光客で賑わう奈良公園。お目当てはもちろんシカです。鹿せんべいをやったり、くつろぐシカの横で写真を撮ったり、奈良公園は野生のシカと人間が共存する、世界的にも珍しい場所です。ところが今、シカの生態が脅かされかねない問題が起きているといいます。

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 北海道大学・文学研究院招へい教員の立澤史郎さん(65)。長年、奈良公園周辺に生息するシカの研究に取り組んできました。そんな立澤さんが最近気になっていることが「切り株」です。

 (北海道大学 立澤史郎招へい教員)「これは新しいですね。枯れてるからじゃなくて、生きている状態で切られたわけですけど。奥とか右側の切り株は伐採されているんだと思います」

「誰もシカ目線で見ていない」伐採に憤る研究者

 公園内には木の切り株が至る所にあるのです。あちこちに、最近切られたとみられるものが目立ちます。これらは奈良県が伐採したものです。中でもドングリの木が伐採されていることに立澤さんは憤っています。

 (北海道大学 立澤史郎招へい教員)「(シカが)かなり真剣にドングリだけ狙っている感じですね。ドングリ自体が秋から冬にかけてのシカの主食ですから、食べ物を供給するという点で一番、ドングリの木の伐採は問題になってくる。『誰もシカ目線で見ていないな』というのは非常に思いました」

 シカにとって、ドングリは貴重な食料で食べられなくなると冬の生存率に大きく影響するといいます。また食料として以外にも冬を乗り越えるうえで必要なものだといいます。

 (北海道大学 立澤史郎招へい教員)「奈良は冬の底冷えが結構厳しいんですけど、そういうときはたいてい、大きなドングリの木の下に集まっている。落ち葉がたまった所に乗っかってみんなで寄り添って寒さをしのいでいるんですけど、照葉樹のドングリの大木の根元は、シカにとっては冬を越せるかどうか非常にクリティカル(深刻)なポイントになる環境だと言えます」

奈良県がドングリの木を伐採する理由

 なぜ奈良県はドングリの木を伐採するのでしょうか?理由は、2012年に県が策定した「奈良公園植栽計画」にあります。

 1880年、明治時代に開園した奈良公園。その美しい景観が評価され、1922年には「国の名勝」にも指定されました。ところが、時が経つにつれ公園の木々が大きく成長し景観が損なわれたとして、県は適切な樹木管理として木を伐採し、マツやサクラに植え替えていくことを決めたのです。

 県はこの計画に基づき2019年から本格的に伐採を始め、これまでに280本の樹木を伐採。このうち40本近くがシラカシやイチイガシなどのドングリの木でした。

食料不足による“人とシカのトラブル”懸念

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 奈良公園のシカは今、別の問題も抱えています。春夏の主食である「芝」が減ってきているのです。急激に増えた観光客が踏んでしまうことで芝が根っこから切れてしまっています。修復を試みた場所もありますが、3年前の写真と見比べても、変化は一目瞭然です。

 立澤さんは、こうした食料不足は「シカだけの問題ではすまされない」と指摘します。

 (北海道大学 立澤史郎招へい教員)「自然の食べ物が減った分、人間に食べ物を依存する。人間に対する『食べ物をくれ』という要求が強まってきて、場合によっては非常に攻撃的になることが考えられます。もうひとつは、食べ物がないんだから、平たん部にいても仕方がないということで、農地の多い公園の外側へ出ていく個体が増える可能性がある。そちら側に出て行ったシカは農作物被害を起こす可能性が高くなると思います。いずれにしても、人とシカの間のトラブルがより強まる可能性があると思います」
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 市民からもシカの食料不足を懸念する声があがっています。ドングリの木の伐採中止と芝地の回復を求めて市民団体が署名運動を開始。1か月足らずで約2万5000人の署名が集まり、5月、奈良県の山下真知事宛てに要望書を提出しました。

奈良県は「急激に食料危機に陥ることはない」

 計画を進める奈良公園室の担当者に話を聞くと…

 (奈良県・観光局奈良公園室 奥田篤室長補佐)「ドングリの木は確かに切っているんですが、伐採木の1割ちょっとの本数です。奈良公園には非常にたくさんドングリがなる木があるので、急激にシカが食料危機に陥ることはないと」

 シカの数は伐採が始まった2019年以降も減っておらず、食料が不足しているわけではないと主張しました。そして…

 (奈良県・観光局奈良公園室 奥田篤室長補佐)「当然シカも大事なんですけど、それと同時に奈良公園の景観、これは『名勝』なので文化財で、実は同じくらい重いものです。それをシカだけの考えで進めるのは難しいのかなと」

山下知事「シカの生態には全く影響ない」

 ドングリの木の伐採について奈良県の山下知事は、5月30日。

 (奈良県 山下真知事)「(ドングリの木)約1000本のうち(伐採するのは合計で)58本なので、それくらい切ってもほとんど影響がないと思いますけど、仮に微々たる影響があったとしても、奈良公園の外側の山に行ってドングリの実を食べればいいということなので、シカの生態には全く影響がないと認識しております」

 一方、北海道大学の立澤さんは、例え1割でもドングリの木が減るとシカに影響があり、人がやる鹿せんべいに依存するシカも出てきているといいます。

 (北海道大学 立澤史郎招へい教員)「今は鹿せんべいを持っていると(シカが)どっと来ますから。保護が成功したから今のシカの姿があるんですけど、増やした責任は人間にあるので、これからどうするかを人間が責任を持ってうまくバランスをとってやらないといけない」

 1000年以上、人とシカが共生してきた奈良。景観を重視する県とシカの専門家の間で意見が割れています。

2025年06月03日(火)現在の情報です

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