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「巨大壁画」が危機!?40年間放置され...保管施設が閉館 作者の子孫は移設を求めるが滋賀県の対応は?

特盛!憤マン

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滋賀県の文化館に“ある壁画”が保管されています。専門家によりますと、非常に価値のある壁画だということですが、長期間、公開されることなくずっと眠り続けていました。そんな中、建物の老朽化で文化館は閉館されることに。壁画を描いた画家の子孫らは壁画の移設を求めています。これに対して壁画を管理する滋賀県はどのような判断を下すのでしょうか。

休館中の文化館に眠る「仏教壁画」

滋賀県大津市の琵琶湖のほとりにたたずむお城のような建物。2008年から老朽化のために休館となっている滋賀県立琵琶湖文化館です。この中に、その“壁画”が眠っているといい、取材班が現地を訪れました。
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(杉本太郎さん)
「あちらが祖父が描きました壁画です。(Q何という作品?)『舎利供養』です」
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仏教壁画「舎利供養」。
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「舎利」とはお釈迦さまの遺骨のことで、大勢の菩薩たちが楽器を奏でたり、舞を披露したり、仏教のシンボルである蓮の花びらを撒いたりして供養する場面が描かれています。
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壁画は中央の巨大壁画と左右の3面で構成されています。
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(杉本太郎さん)
「真ん中の白い円形になっているようなところがありますが、あれがお釈迦さまの遺骨、要するに仏舎利というものです」

当時の知事が依頼して滋賀県生まれの宗教画家が制作

この壁画を描いたのが杉本さんの祖父、滋賀県に生まれた宗教画家・杉本哲郎(1899~1985)です。杉本哲郎は、インドの古代仏教美術に影響を受け、独自の画風を確立。宗教をテーマにした壁画を描き、国の内外で個展を開くなど世界的に活躍しました。
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仏教壁画「舎利供養」は、1949年に当時の滋賀県知事が杉本哲郎に依頼し、県の産業文化館で制作されました。しかし、施設が武道場として使用されることになり、杉本哲郎が「平和の象徴である壁画に武道はふさわしくない」と主張。1961年に開館した今の琵琶湖文化館に移設されたのです。
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高さ3.7m・幅は12mあまりで、記者が真横に立つとその壮大さがわかります。しかし、この壁画はほとんど公開されてこなかったといいます。

(杉本太郎さん)
「僕も実はこの壁画を初めて見たのが今から5年前くらいのことなんですね。40年間閉ざされていましたので、見る機会はなかったです」

40年間も人目に触れられることはなく…その理由は? 

一体なぜ40年間も人目に触れず保管されていたのか。壁画を所有する滋賀県に話を聞きました。

(滋賀県文化財保護課 井上優主幹)
「元々琵琶湖文化館には2つの入り口がありまして、そのうちの1つが『舎利供養』のある別館だった。ただ、エントランスが2つというのはいろいろと問題がありましたので、1か所に集約するという中で、『舎利供養』については皆さんの目には触れないということになっています」
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1981年に別館の入り口が封鎖され、一般の人は立ち入れなくなりました。忘れられた存在となった巨大壁画。よく見ると、絵の具が剥がれ落ちたりシミが確認できたりと、十分な保全が行われていなかったことがうかがえます。そこまで価値がないものなのでしょうか。

「その大きさと迫力に驚く」大阪の寺院にも杉本哲郎の壁画

杉本哲郎の作品はホテルや寺院で展示されています。取材班は「舎利供養」と並んで杉本哲郎の代表作とうたわれる壁画があるという大阪市中央区の寺院・本願寺津村別院(北御堂)を訪ねました。そこには壁一面に描かれた荘厳な壁画ありました。「無明と寂光」という作品で、人々の苦悩と、釈迦がたどり着いた静寂の境地が表現されています。
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(北御堂 藤原慶人広報企画室長)
「杉本哲郎氏に依頼して、最終的には6年ほどの歳月をかけて昭和44年(1969年)にすべて完成した。北御堂にお参りに来て初めてこの壁画を見る人もいて、やはり立ち止まってその大きさと迫力に驚いたりしています」

過去の移設時には壁画の一部が失われる

人々を魅了する壁画。その一方で人知れず出番を待ち続けた壁画。「舎利供養」をめぐっては問題も起きていました。旧産業文化館に展示されていたころの壁画の写真を今の状態と比較すると、左右の壁画の下の「欄間」と呼ばれる装飾部分がありません。
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壁画が移設される際に欄間の部分だけは旧産業文化館に残され、3年前に建物ごと取り壊されてしまったのです。

(滋賀県健康福祉政策課 平田雅史課長補佐)
「後ろの部材ごと全部ガバッと重機か何かで取らないと(欄間を)残せなかったんだろう。結局、保存することはあきらめたと。私たちはたぶんその時点で、ご子息などそういう方がいらっしゃるということも認識していなかったので。当時、担当の者が知っていれば、そういう連絡はさせていただいていたと思うんですが、いかんせんそこまではいっていなかったというのが残念ですね」

子孫「このままではどういうふうにされてしまうのか」

元の姿を取り戻すことができなくなった壁画。さらに今、存続の危機に直面しているといい、杉本哲郎の孫である杉本太郎さんらは今年4月に緊急会見を開きました。

(会見で話す杉本太郎さん)
「『2027年度に(新しい文化館に)収蔵品は全部移しますから』ということだったのですが、よく聞いてみますと、『壁画だけはまだどうなるか未定です』と。できるだけ早急に行動を起こさないと、このままではどういうふうにされてしまうんだろうと」
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県は老朽化した文化館を閉館させて別の場所に新たな文化館を建設することを今年3月に決めました。壁画ごと取り壊されるのではないかと危機感を募らせる子孫たち。
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取材班は改めて県の担当者に「『舎利供養』は新しい文化館に移設されるのか?」を聞いてみると…。

(滋賀県文化財保護課 井上優主幹)
「新しい文化館に持っていくかということも、まだ決まっておりません。技術的に壁から無事に絵を傷つけずに引き離せるかどうか、まずそこから検討しないといけないということです」
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こうした県の対応について専門家は「文化財の保存を真剣に考えているのか」と疑問を呈しています。

(京都国立博物館 大原嘉豊保存修理指導室長)
「もうちょっと大事に扱ってあげていい絵だと思っていますので。枠に貼ったものは外せるというのが基本だと思います。私のように若干修理にも関わっている人間から言わせると、本当にそこまでの検討がなされているのかなというのは、よそごとながら心配になります」

40年の空白を経て注目を集める巨大壁画。孫の太郎さんらは県に壁画の修復や移設を求めています。

2021年05月11日(火)現在の情報です

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