2025年09月05日(金)公開
「進退は同友会に委ねる」新浪剛史氏の判断に専門家「辞めれば経済界全体に影響か」「潔白が証明されればサントリー復帰もあり得る」 そもそも経済同友会とは?
解説
サントリーホールディングスの会長を辞任し、9月3日に会見を開いた新浪剛史氏。新浪氏は会見で、サプリメント購入をめぐり一貫して潔白を主張しました。新浪氏が代表幹事を務めている「経済同友会」とは一体どんな組織なのか。そして、自身の進退を同友会に委ねた新浪氏の判断を専門家はどう見るのか。企業リスクに詳しい桜美林大学・西山守准教授と、財界研究が専門の都留文科大学・菊池信輝教授への取材を含めまとめました。
新浪氏の会見に「サプリ購入プロセスなど疑問が残る」専門家の見解
【新浪剛史氏(66)の経歴】
1981年 三菱商事入社
2002年 43歳でローソン社長に
2014年 サントリーホールディングス社長就任(創業家以外では初)
2023年 経済同友会代表幹事就任
今年3月 サントリーホールディングス会長就任
9月1日 サプリ購入めぐる捜査を受けサントリーホールディングス会長を辞任
9月3日、新浪氏の会見で、▽アメリカ出張でCBDサプリメント(大麻草由来・適法)を購入▽目的は時差ぼけ対策▽日本で買うよりもアメリカの方が安い、と説明。その上で、▽日本国内で所持も使用もしていない▽私は法を犯しておらず潔白である、と主張しています。
この会見について企業リスクに詳しい桜美林大学・西山守准教授は、「サントリー会見の翌日に説明したのは、迅速で評価できる」といい、「批判が避けられない会見で、ネガティブ評価を抑え賛否両論にとどめた点は一定の成果」とプラスの評価。一方で、「ロジカルで説得性のある説明だったが、サプリ購入プロセスなど疑問が残る」とも指摘しています。
西山守准教授は、サントリーはサプリも開発しているため、知識がある人がなぜこういったことになってしまったのか、日本の配送の仕方などには疑問が残るということです。
「本人は葛藤や忸怩たる思いがにじんでいた」
新浪氏は今年4月、CBDサプリを購入。ニューヨークの知人が日本に持ち帰り、新浪氏の自宅に送ったということです。ただ、新浪氏の家族の中では差出人が不明なものなどは、封を開けないというルールになっているということで、廃棄したのではないかという認識だということです。
また8月、CBDサプリをニューヨークの知人が、その知人の弟に「新浪氏の自宅に送って」と依頼。しかし大麻由来の成分「THC」が含まれている疑いが浮上し、知人の弟は逮捕されました。その捜査線上に新浪氏が浮かび上がり、今回捜査が行われたということです。
疑惑が出たことで、新浪氏はサントリーホールディングス会長について辞任の判断となりました。西山守准教授は、「違法性が確定していない段階での辞任は、本来、望ましくないが、残留すると企業イメージを悪化させるため不可避だった」と指摘。一方で「本人は葛藤や忸怩たる思いがにじんでいた」ということです。
生活にも影響?「経済同友会」とは
“経済3団体”と呼ばれる、日本経済発展のための3団体があり、都留文科大学・菊池信輝教授によると、それぞれ以下のような特徴があります。
■日本経済団体連合会(経団連)…「調整役」
会社・団体(大企業が中心)が所属
各省庁と密接に関与、業界全体に影響
■日本商工会議所(日商)…「保護主義」
会社・団体(中小企業が中心)が所属
中小企業の意見を政府に伝える
■経済同友会(同友会)…「革新的」
経営者個人(中堅・ベンチャーも)が所属
政治的な利害に縛られず政策提言
この3団体の中で最も影響力を持っているのが、経団連。政府に対して、提言を行い、それを実現するうえで大きな影響力を持っています。労働者の9割が中小企業で働いていると考えると、多くの意見が集まる日商も大きな団体と言えます。
これまで3団体は、三公社(現JRの国鉄・現NTTの電電公社・現JTの日本専売公社)の民営化や雇用環境改善などに大きな影響を与えてきたということです。
この中で新浪氏が代表幹事(現在は自粛中)を務めているのが経済同友会。終戦直後1946年に設立され、経団連が動く前に提言を打ち出す「先導役」を担っています。
菊池信輝教授曰く、財界人の育成の場にもなっていて、“一流”になったと社会的評価を得られるほか、代表幹事の個性や方針が団体全体に色濃く反映される組織だということです。
新浪氏が社会に与えた影響
新浪氏が与えた影響・功績としては「賃上げ」が挙げられます。他団体が控えめな賃上げを唱える中、サントリーは7%程度の賃上げを実施。「最低賃金1500円を払えない企業は駄目なんですよ」と厳しい言葉で提言していたということです。
他にも、「国際感覚を重視」していたということで、旧ジャニーズ事務所問題を「児童虐待」と断じて広告出稿停止を促し、国際的信頼や経営の方向性を示したということです。
さらに、「経営者像を刷新」した人物とも言えます。複数の企業を渡り歩き「プロ経営者」として成果を出し、若い世代に「経営者像」の新しいイメージを与えているということです。
「進退は同友会に判断を委ねる」専門家はどう見る?
新浪氏は経済同友会における進退について、「同友会に判断を委ねる」と会見で話しましたが、その判断について専門家2人に見解を聞きました。
西山守准教授は、「自粛して判断を委ねるのは適切ではないか」といいます。「潔白を主張する中で辞めると逆に疑念を抱いてしまう。潔白が証明されれば、サントリー復帰もあり得る」としたうえで、「今後、経済同友会は新浪氏の実績とは切り離し、組織のルールに則って判断し社会に示すべき」と指摘します。
菊池信輝教授は、「国際的な面からも即座に辞めるべきだろう。辞めなければ政界に対して強く言えない」との見解。そのうえで「新浪氏が辞めれば同友会の影響力は低下していく。経済界全体にも影響が及ぶ可能性がある」といいます。
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