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宿泊税は『別のサイフ』!?京都市が「最高1万円」に引き上げるウラにある事情...1万円は高い?安い?「透明性の確保が必要」「観光投資をもっと広いエリアで考えるべき」指摘する専門家も

解説

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 1月14日、京都市は市内のホテルや旅館などの「宿泊税」について、最高額を1万円に引き上げる方針であることを発表しました。この「1万円」という金額は高いのでしょうか?安いのでしょうか?そもそも宿泊税がどんな税なのかも含めて、東洋大学国際観光学部・徳江順一郎准教授とJTB総合研究所・山下真輝主席研究員への取材などをもとにまとめました。

最高額は現在の10倍に!?

 京都市は「宿泊税」について、来年3月の引き上げを目指しています。現在は、1人あたりの宿泊料金に応じて200円・500円・1000円の3段階で設定されていますが、新たな案は200円・400円・1000円・4000円・1万円の5段階に区分されます。

 宿泊料金が10万円以上の場合の宿泊税は、1000円→1万円と現在の10倍の金額となります。

 「1万円は高いのでは?」と思うかもしれませんが、10万円以上の宿泊料金を支払うのは全宿泊者の0.43%ほどで、そのうち約6割は外国人客だそうです。

 宿泊税の引き上げで宿泊客が減少するのではと思われますが、専門家によると海外で宿泊税の導入により宿泊客が減ったという事例はあまりないとのこと。宿泊税を引き上げることでオーバーツーリズムの対策費用にあてていきたいというのが京都市の考えです。

オーバーツーリズム対策には「別のサイフ」が必要!

 京都市の2024年度予算では、税収見込みは48億円であるのに対して、オーバーツーリズムの年間対策費は110億円で、62億円足りません。

 京都市には観光客が大勢来ているため、財政は潤っているのでは?と思う人も多いかもしれませんが、実は、京都市の財政事情は「ある事情」で決して良くありません。
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 東京都以外の全ての自治体は、住民税など市に直接入る税収で足りない分は国から交付金をもらいます。しかし、財源の上限が決まっているため、自治体の税収が増えた場合、その分、国からの交付金は減ります。つまり、観光客が増えて自主財源が増えても、トータルは変わらないのです。

 しかし、観光客が増えれば増えるほど、ゴミの処理や警備などオーバーツーリズム対策で費用負担は重くなります。そこで必要になるのが「別のサイフ」、それが宿泊税です。

 宿泊税は「法定外目的税」というものにあたるため、上限が決まっている財源の制度にカウントされないのです。

『定率or定額?』世界と日本の宿泊税

 宿泊税を導入している自治体は全国に12あります。そのうち11の自治体では、税額は定額です。

 ・北海道ニセコ町 100~2000円
 ・東京都 100円~200円
 ・熱海市 200円 ※徴収は今年4月から
 ・金沢市 200円~500円
 ・常滑市 200円 ※1月から
 ・京都市 200~1000円 ※来年3月目標で200円~1万円
 ・大阪府 100~300円
 ・福岡県・福岡市・北九州市 200~500円
 ・長崎市 100~500円

 北海道俱知安町のみ定率制(定率2%)を導入しています。
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 ちなみに、東洋大学国際観光学部・徳江順一郎准教授とJTB総合研究所・山下真輝主席研究員によりますと、世界では「定率」が主流だということです。

 【定率制を導入している国の例】
 ベルリン 5%
 ハワイ 10.25%
 アムステルダム 12.5%

 そのほか、ニューヨークでは定率制と定額制を組み合わせていて、「定額5.875%」+「定額0.5~2ドル」となっています。
(※京都市資料などより)

 望ましい税の3原則は公平・中立・簡素とされていますが、公平・中立を重視するなら定率制が望ましいです。一方で、簡素を重視するなら計算しやすい「定額制」。世界では公平・中立を優先した定率制が主流だということです。

 徳江准教授と山下主席研究員は「公平性の観点からは『定率』が理想」だとしたうえで、日本国内の多くの自治体が「定額」を選ぶ理由はシステム化の導入が遅れているためだと指摘しています。

自治体で導入されている独自の”観光税”とは!?

 宿泊税は「法定外目的税」にあたると説明しましたが、法定外目的税はほかにもあり、自治体で財源にする動きがあります。

 例えば福岡県太宰府市では「歴史と文化の環境税」という税があります。これは、市内の一時有料駐車場を利用すると50~500円課税するというもので、史跡地のライトアップや文化財の保存整備などに使われています。
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 また、大阪府泉佐野市では「空港連絡橋利用税(関空橋税)」が車1台につき1往復あたり100円かかります。これは橋の耐震工事や空港消防の運営費にあてられていて、「法定外普通税」に該当します。

「宿泊税」どうあるべき?専門家の見方は

 宿泊税などの導入について、東洋大学国際観光学部・徳江准教授は「観光立国を目指すうえで宿泊税などの導入は賛成」とした上で、「集めた税金の透明性の確保が必要」だと言います。
 
 また、JTB総合研究所・山下主席研究員は「観光都市が国際競争に勝つためには投資が必要。宿泊税などの対策をもう少し広いエリアで考えるべきなのでは」と指摘しています。

2025年01月17日(金)現在の情報です

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