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【スーダン戦闘】在留邦人退避で「改めて自衛隊法を見る」戦闘が激しかった場合、乗り込んで『輸送』『保護』はできたのか  黒井文太郎氏解説

解説

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 戦闘状態が続くアフリカ・スーダンの首都ハルツームから邦人45人の退避が完了しました。今回の邦人退避について軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏は「今回はあくまで『輸送』だが、戦闘が前提となる『保護』だと自衛隊は邦人の救出活動はできない」として自衛隊法の「縛り」に言及します。(2023年4月25日MBSテレビ「よんチャンTV」より)

黒井文太郎氏(軍事ジャーナリスト 専門は日本の外交・安全保障・国際紛争 ソマリア内戦など紛争地の現地取材も)

疑問「邦人退避作戦は、成功した」と言えるのでしょうか

―――政府はこれまでに58人の日本人とその家族が退避したと発表しています。その中でも45人の退避経路というのがわかってきました。45人は首都ハルツームから陸路車両で、ポートスーダンに向かいました。自衛隊の護衛なしで向かい、ポートスーダンで自衛隊と合流し、日本時間の24日深夜、C2輸送機で、自衛隊の拠点があるジプチに向かい、25日未明に到着したということがわかっています。

疑問「邦人の退避の作戦はうまくいった成功したのでしょうか?」

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黒井文太郎氏: そうですね。アメリカやサウジアラビア、ヨルダンなどもっと早くできたところもありますが、他の国々と日本はほぼ同じぐらいのタイミングでできたと思います。

―――今回の邦人退避は、今までと比べて「特有の状況にあった」と黒井氏は話します。一つはスーダンの国際空港が首都の中心部にあり、そこでも戦闘があったこと。もう一つは停戦していたものの、あてにならないことだということです。ハルツーム国際空港が首都にあるということで、本来なら自衛隊はこの空港を使いたかったということです。

自衛隊に限らずいろんな国が使いたかったのですが、空爆・爆撃されたりして、先に退避できたアメリカも、大使館に直接ヘリコプター乗り付けてそこから運ぶようなことをしていました。日本は、ポートスーダンが戦闘地域ではなく、安全ですからそちらに行って、日本だけじゃなく、ほとんどの外国人の方がやはりポートスーダンまで陸路で逃げてきたということです。

―――停戦があてにならない、とは、何が起きているのでしょう。

黒井文太郎氏: 軍事政権トップナンバー1と別の民兵組織を率いているナンバー2の主導権の争いで、長い間の確執があって今までも停戦の合意あったのですが、それが守られてこなかったということです。

―――今回はハルツームからポートスーダンまで自衛隊の護衛なしに無事移動できたのですが、もし現地の戦闘が激しくて、護衛が必要だった場合に、自衛隊はハルツームに乗り込んで、日本人を安全な場所に輸送したり、現地で保護したりというのはできるんでしょうか?自衛隊法の規定をみましょう。

―――在外邦人等の「輸送」と、警護や救出もできるという「保護措置」、この二つの規定があるんですが、保護措置はかなり条件が厳しくて、その国の当局が安全秩序を維持していて、戦闘行為がないという条件が含まれるんです。黒井さんは今回の状況を見て「輸送の前提であれば可能だが、保護なら難しいのでは」ということですが。

黒井文太郎氏:「保護」の場合は、戦闘が前提ですからなかなか難しい。憲法に「海外で武力行使ができない」という規定があるので、それの兼ね合いです。けれど「輸送」ということであれば、戦闘が前提でないということですから、例えばアフガニスタンで飛行機を飛ばしたってことがありましたが、あのときは「安全に輸送できる」という条件がついていたんです。

その後、自衛隊法が改正されて、「安全」というのが外れて、「予想される危険及びこれを避けるための方策を講ずることができれば輸送できる」というふうに変わりましたので、戦闘を前提としない、ガード・警護をしながらの輸送は可能になりました。

―――今回は被害がないという報告が伝わってきていますが。

黒井文太郎氏: 今回ぐらいであれば、おそらく自衛隊が(輸送のため)ハルツームに入っていくことは可能だったとは思います。たまたま国連のミッションがあったので、そちらでいけるだろうという判断だと思うんです。

ただ将来的に、もっとひどいような状況になったとき、例えば日本人が囚われて救出が必要になる。それも無政府状態というようなこともあり得ないわけじゃないので、その場合は、なかなか自衛隊で動けないということになります。

「イスラエルの仲介は難しい、やはりあの国が動かないと...」

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―――今回のスーダンの戦闘は収まるのか。イスラエルメディアによりますと、イスラエルは両組織の指導者を招き、和平に向けた仲介を目指すとしているんです。ただ一方、黒井氏の見立てでは、「イスラエルの影響力は他の大国ほどではない。仲介役ができるとしたらやはりアメリカではないか」と指摘しています。

黒井文太郎氏: イスラエルとスーダンは国交なかったのですよね、イスラムの国ですから。国交回復について、まだ回復してないんですけれども、その話し合いをちょうどやっているため、イスラエルの政府はスーダンの上層部とコネクションがあるので、名乗り出たのですが、おそらく実際やるとすればアメリカ。つい先ほど何時間か前に、さらに3日間の停戦という合意が発表になりまして、これはアメリカ政府が仲介したということです。やはり、アメリカの仲介に期待ということだと思います。

―――日本にできることは。

黒井文太郎氏: 戦闘部隊を送るのは難しいとは思います。日本人は帰って来れましたが、現地で苦しむ人がこれからもいて、紛争は続きますから、国際社会と協力して、何とか現地の人を助ける活動に積極的に参加したいなというふうに思います。

2023年04月25日(火)現在の情報です

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