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「若い世代の患者が次々と...」感染第5波で直面した『大阪の医療現場』の実情

特命取材班 スクープ

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大阪府の新型コロナウイルスの重症・中等症を含めた病床使用率は52.5%(9月19日時点)で、非常事態の目安である50%近くにまで減少してきた。しかし、この数字をどうみるのか…。第5波の新規感染者数はピークアウトしたとも言われているが、いま医療現場がどうなっているのかを取材した。

第5波「若い世代の感染の伸びが大きい」

9月16日、大阪府の吉村洋文知事はシルバーウィーク期間中の自粛を訴えた。新規感染者数は減少傾向だが、大阪府の病床使用率は50%ほど(9月19日時点)と高水準が続いている

(大阪府 吉村洋文知事 9月16日)
「医療のひっ迫も少しずつ解消されていますけれども、(感染が)急拡大をするとまたひっ迫してきますので、不要不急の外出は控えていただきたいと思います」

感染の第5波で、吉村知事が度々口にしていたのが「20代、30代、若い世代の伸びが大きい」ということだった。今年3月からの第4波では重症者の約7割が60代以上の高齢者だったのに対して、第5波はワクチン接種が進み60代以上の重症者は3割ほどと激減している。若い世代の感染拡大。医療現場では何が起きているのか?
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9月7日、大阪・中央区にある『小畠クリニック』では体調不良を訴える電話がひっきりなしにかかっていた。

(電話対応する小畠クリニックの小畠昭重院長)
「熱は?…熱ないんか。検査受けようと思ったのはなんで?…味覚・嗅覚の異変か。なるほどね」
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(小畠クリニック 小畠昭重院長)
「とにかく若者が圧倒的に多いですね。それから学生も多いですね」
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これまでの感染拡大とは違い、第5波でPCR検査や抗原検査を受けに来るのは「症状が軽い」若い世代が多い。クリニック内は一般診療と発熱外来でフロアを分けていて、次々に検査を受けに来る患者の対応に追われている。
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【患者対応の様子】
(看護師)「テントの中にお入りいただきまして」
 (院長)「ワクチンは打ってない?」
 (患者)「ワクチンまだ打ってない」
 (院長)「まず喉をみせてもらうね。(原因は)へんとう腺じゃないな。この熱はひょっとしたらコロナかもしれん」
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喉の不調が続き、前日から熱があるというこの患者。抗原検査をすると、結果は…。

(患者に対応する小畠昭重院長)
「(検査キットに)二本線が出たらコロナですよということ。出ているな。やっぱりうつっているな、どこかで。家でそのまま待機してもらって」

1日に行う検査数は20件ほどが限界で、第5波の多い時は半数ほどが陽性判定になるという。

発熱症状を訴える中学校の女子生徒

9月13日、小畠クリニックにはコロナの感染者が出たことで休校中だった体調不良を訴える小学校の児童や、学級閉鎖中で発熱症状を訴える中学校の女子生徒が訪れていた。
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(女子生徒)「喉が痛いです」
  (院長)「喉痛い?喉みとくわな。全然へんとう腺腫れてへんな。(原因は)喉ちゃうな。いまは学校が大変やな」

女子生徒は、クラスメイトがコロナの感染疑いとなり、その後、自身も発熱したという。

(看護師)「遊びに行ったという感じではないですよね?」
 (母親)「そうですね」
 (院長)「きょうからの熱なので、PCR検査をして(結果は)お母さんにメールで連絡しますわ」

翌日、PCR検査の結果、女子生徒は陽性と確認された。街のクリニックでは緊迫した状況が今も続いている。
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(小畠クリニック 小畠昭重院長)
「一般の診療をしながら発熱の患者さんを診ていて。出来るだけ一般の診療の方、いつもうちにかかっている人に迷惑をかけないようにやろうとは思ってるんやけれども。早くワクチンをみんなに打ってほしいね、ホンマに若い人にもね」

自宅療養中に悪化した患者を搬送…肺炎の徴候が

大阪府は第5波で病床のひっ迫を回避するため、一時は感染が確認されても軽症などの場合は自宅療養が軸とされた。堺市にある邦和病院では9月6日、自宅療養中に悪化した20代のコロナ患者が搬送されてきた。邦和病院の和田邦雄院長が自ら患者の診察を行っている。

【患者と院長とのやりとり】
(患者)「毎晩夜中になったら熱が38℃、39℃まで上がる」
(院長)「味覚障害は?」
(患者)「全然味はしないですね」
(院長)「嗅覚は?」
(患者)「においもしないです」
(院長)「息切れは?」
(患者)「息切れは熱が上がったらします」
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患者は診察が終わるとベッドに乗せられて、すぐに肺のCT検査が行われる。検査の結果、肺炎の徴候が見受けられた。

(患者に対応する邦和病院の和田邦雄院長)
「白く、もやっとしているでしょ。これがコロナの肺炎。そんなに心配はない。俺が助けたるからな。ただ、きょう、あす3日くらいは山やって言ったら悪いけどね。大事なところや」

この患者はコロナ病床に入院することになった。

“重症患者の受け入れ“看護師らにより求められる専門知識

邦和病院では、第4波の今年5月からコロナの軽症・中等症患者の受け入れを始めたばかりだが、第5波から重症患者の受け入れも始めたという。

(邦和病院 和田邦雄院長)
「うちで第4波の時に中等症の患者さんが重症になって、大阪府は『中等症の病院でも、重症になったらそこで診なさい』と」

大阪府では、第4波で重症病床の使用率が100%を超えたため、中等症患者が悪化しても転院できなかったという。中等症患者用の病床を重症患者が埋めていることになり、事実上、重症病床の運用を始めることになったのだ。
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(邦和病院 和田邦雄院長 9月9日)
「モニターに赤く表示されているのがコロナ(患者用)の部屋。今は(入院中が)4人ですね。(Q重症病床には誰も入ってない?)入ってない。いつ来るか分からへん」

コロナ病床は、4人部屋を患者1人で運用している。その分、病床は稼働できなくなり、府からの補償で何とか持ちこたえている病院もある。
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さらに、こんな場面も。看護師らが集まって開かれたのは、重症患者の治療に用いられる血液純化装置「ECMO」の勉強会。"重症病床を持つ"ということは、"死に直面した患者を扱う"ことになるため、より専門的な知識が必要とされる。
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(邦和病院 和田邦雄院長)
「ECMOを着けて命が助かる患者は半分くらい。今はコロナの患者さんにきっちり対応して、治して。2年前まではこんなことみんな思ってもいなかった事態ですからね。その時々に最善のことを対応します」

専門家「宣言の基準は医療機関のひっ迫具合で判断することが大事」

第5波はピークアウトしたとされるが、今後も感染者は減り続けていくのか、感染制御学が専門の研究者に話を聞いた。

(大阪大学大学院 忽那賢志教授)
「ワクチン接種をしていない人もまだ大勢いますので、そういう意味で流行してまた(感染者が)増えてくるということは起こるだろうと思います。ワクチン接種をする人が増えれば、(感染の)波の規模は大きくなっても、そのなかで重症化する人は減ってくると思いますので、緊急事態宣言の基準を医療機関のひっ迫具合で判断するというのが大事なのかなと思います」

第5波になって重症病床の確保数は新たに6割ほど増えている。数か月後には来るとされる第6波に向けた戦いはすでに始まっているのかもしれない。

2021年09月21日(火)現在の情報です

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