2025年10月12日(日)公開
万博・閉幕後に新たな危惧 「解体工事」めぐる"未払い"...業界団体が「絶対起きる」と指摘するそのワケは? 博覧会協会が発注の工事で"費用の未払い"発覚 協会に相談するも「立ち入れるものではない」との返答
特命取材班 スクープ
大阪・万博をめぐっては海外パビリオンの建設工事費の未払いが問題となっています。工事費については、11の海外パビリオンで30以上の建設業者が未払いを訴えていて、中には裁判に発展しているケースも。 そんな中、「閉幕後にも問題は絶対に起きると思う」と業界関係者が指摘。“新たな未払い問題”を取材しました。
昼夜を問わず力を合わせ作業 開幕ぎりぎりで完成したマルタ館
「たった1年でこんな状況になってしまうっていうのは、本当に悔しくて残念で仕方ないです」
こう嘆くのは京都府内で建設業を営むAさん。万博で地中海の島国「マルタ共和国」のパビリオン工事を1次下請けとして担当しました。
参加する国が独自に建てるパビリオンの中で最後に着工したマルタ館。Aさんは何とか開幕に間に合わせようと、昼夜を問わず作業を続け、開幕ぎりぎりで完成させました。
(マルタ館建設・1次下請け Aさん)「工事やってるときはすごく寒かったんですよ。ベンチで夜通し凍えながらみんなで力を合わせてやりましたね」
しかし、元請け業者の「GLイベンツジャパン」から、工事費用の一部が支払われていないといいます。理由は「工期の遅れなどによるペナルティが発生していて、支払える金額は残らない」などと説明されました。
AさんはGLイベンツジャパンに対し、「不合理な苦情を述べて工事費用を支払わない」などとして、契約金の一部と追加工事費用、計約1億2000万円の支払いを求めて東京地裁に訴えを起こしました。
提訴から約4か月。苦しい経営状態が続くなか、従業員が1人、また1人と辞めていき、これまでと同じ規模で工事を受注することも難しくなっています。
(Aさん)「われわれにとってはこれは本当に災害と同じ、大きな事故に巻き込まれた。最低限、今を乗り越えるための力を貸していただきたい」
10月6日、Aさんは未払い問題の調査で大阪にやってきた与野党の国会議員に対し、窮状を直接訴えました。
(衆議院・経産委員会 宮崎政久委員長(自民))「ご自身の実情などを、率直なところでお聞きしたので、困窮の度合いが高いということについては理解をした」
(Aさん)「これはものすごく大きな社会問題。これからの日本の建設業を守っていくためにも、お金ももちろん大事ですけども、それ以外に根本的なことを解決していく、これに(国会議員には)全力を注いでほしい」
博覧会協会はこうした未払い問題について、「民間同士のトラブル」だとして、立て替え払いや資金繰りの支援などをすることはできないとしています。
博覧会協会が発注した建設でも未払い…協会「協会が立ち入れるものではない」
そんななか、その博覧会協会が発注した工事でも未払いを訴える声が上がっていることが分かりました。
山口県内で建設業を営むBさんは、博覧会協会が発注した2か所の休憩所の工事を3次下請けとして担当しました。しかし、壁面の仕上げが変更になったことに伴う追加工事などの費用が未払いになっていると訴えます。
(休憩所工事・3次下請け Bさん)「400万円くらいです。人のいい下請けさんに『すいません』と言って(支払いを)待ってもらっています」
Bさんは追加工事の費用を2次下請けを通じて1次下請けに請求しましたが、支払いはできないと伝えられました。工事の発注元である博覧会協会にも相談しましたが「協会が立ち入れるものではない」と言われたということです。
Bさんは今年7月、追加工事費用など400万円あまりの支払いを求めて1次下請けなどを相手取り、山口地裁に提訴しました。
(Bさん)「結局、税金を使った仕事じゃないですか、この分(休憩所の工事)は。どういう(お金の)使われ方をしているのか皆さんに知ってもらいたい」
MBSの取材に対し1次下請けの会社は「不当な未払いはしておらず、工事費用は全て支払ったと認識している」としています。
一方、協会は「訴訟になっていることから個別の案件には答えられない」とコメントしています。
閉幕後に懸念される“解体工事の未払い”
さらに閉幕目前のいま、”新たな未払い問題”が起きる可能性が取りざたされています。
それはパビリオンの”解体”です。博覧会協会は、来年4月までの半年間で海外パビリオンの解体を終える計画を立てていて、すでに複数の事業者がパビリオン側と「解体工事」の契約手続きに入っているとみられています。
大阪府内のCさんの会社にも、いくつかの海外パビリオンの「解体工事」依頼が来ましたが、提示された費用の見積もりや、想定する工期の短さなどに不安を感じ、契約は踏みとどまっている状況です。
(大阪府内・解体工事業 Cさん)「どの海外の方も一緒なんですけど、まずコストが優先的に出てくる。そのコストはどこで調べたのかというと、一般的なネットで調べたかたち。『予算組みをしてしまっている関係上、今からこれ以上の金額は捻出できないので、木造(家屋)の解体(の坪単価)でできるはずだから、この解体(費用)できるはずです』と。同じ価値観でできる国を探すのが先決なんでしょうけど、リスクがあるかぎり積極的に(契約を取りに)いこうとも正直思わない」
解体工事のトラブル「絶対起きる」業界団体が危惧
解体工事の業界団体もトラブルを危惧しています。
(大阪府解体工事業協会 名和祥行代表理事)「(Q解体費用の未払いの問題は起きると思う?)もう絶対起きると思います」
大きな理由として挙げるのが、解体で出る産業廃棄物を処分する場所の不足です。
(大阪府解体工事業協会 名和祥行代表理事)「いま産廃(処分場所)が飽和状態で、持っていっても受け取れない。そうなってくると、だんだん現場が進まないので、それで工期が遅れる。遅れたら『工期守っていないからお金払いませんよ』と。そういう問題があるのではないかと危惧しています」
また解体工事で未払いが発生すれば、費用の回収は建設工事よりさらに困難になると懸念しています。
(大阪府解体工事業協会 名和祥行代表理事)「建築であれば、そのまま(建物が)建ってそれが担保的なものになるんですけど、解体は終わってしまえば何もなくなるので、そのまま例えば逃げられたりとかすると、もう追えない(回収できない)ですよね」
業界団体は9月26日、博覧会協会に対し産業廃棄物の処理場が満杯になっている現状を説明し、海外各国と解体工事を行う会社との協議が円滑に進むよう支援することなどを要望しました。
(大阪府解体工事業協会 名和祥行代表理事)「万博の成功は、解体工事が完了するまでだと当協会は思っているので、現在の未払い問題であるとか、施工条件の明確化など、懸念材料がないようにすることをお願いした」
“解体工事でも未払いが起きる”と指摘する声が出ていることに対し、博覧会協会は・・・
(博覧会協会 石毛博行事務総長)「参加国に対して法令順守を徹底して求めてきています。どういう業者に発注をしているのかについて、しっかりチェックするのは、参加国の役割でもありますので、しっかりやってくれということはいろんな機会を捉えて発信しています」
建設時の問題を抱えたまま、6か月間の会期を終える万博。解体でさらなる問題が起きないよう、協会や国、大阪府などは適切に対応することが求められます。
求められるのは博覧会協会の柔軟で踏み込んだ対応か
ーーーパビリオンの建設で未払い問題が発生し、今度は解体でもトラブルが起きるのではないかという指摘。万博協会の対応はどう見ていますか?
(清水貴太記者)「博覧会協会というのは、この問題に関しては一貫して『民間同士のトラブル』というスタンスで割り切っています。そのため博覧会協会から何か支援するであったりとか、何か融資をするであったり、そういった動きは正直ない状態です」
ーーーいわゆる自前で建設された「タイプA」の解体期限は来年4月13日までで、半年間ということですが、解体は間に合うのでしょうか?
(清水貴太記者)「この半年の間に、大屋根リングの中のパビリオンは全て解体して更地にしてくださいということになっています。ということは一斉にここの解体が行われるということなので、産業廃棄物が出てくるタイミングも一緒になってきます。一方で受け入れる場所というのは不足をしているので、そこが詰まっていて、結局この中の解体も進まなくなってしまうというところが業界団体の懸念の1つです」
ーーー考えられるのはその工期がちゃんと進むのかどうかというところ
(清水貴太記者)「やはり受け入れが進まなければ、当然その分工期も後に後に伸びていってしまうので、果たしてこの半年で間に合うのか」
ーーー懸念点として解体ならではの事情もあるということですね?
(清水貴太記者)「未払いのように何かしら金銭的なトラブルが起きた際に、建設の場合であれば、パビリオンなり建物を担保として、これがあるからきちんとお金払ってくださいという交渉ができる材料があるんですけども、解体の場合は、更地にしてしまうということなので、担保となるものが残らない。この点が解体で未払いが起きた場合に、業者の方とすると回収の交渉に非常に時間がかかってしまうというところがもう1つの懸念のポイントです」
ーーー今後の見通しはどうなっていますか?
(清水貴太記者)「博覧会協会は事務方トップの石毛事務総長が会見のなかで、『参加国に対して働きかけをしています。呼びかけをしています。ちゃんと法律、法令守ってくださいというふうに呼びかけしているんです』と。国土交通省も例えば書面での契約を徹底するようにということで通達も出しているという話はありましたが、博覧会協会どこまでいっても、民間同士のトラブルだ。民間同士の契約の延長ですよねというスタンスを崩していない。やはり今回こういうふうに解体の業界団体からも指摘があるのであれば、解体の期限を柔軟に遅らせる。トラブルになりそうなところはもう少し待つなど、柔軟な対応や踏み込んだ対応が求められると思います」
2025年10月12日(日)現在の情報です