2025年09月24日(水)公開
「犯罪だと思う。許せない」老後資金を投じた不動産ファンド『みんなで大家さん』 工事遅れ「分配金」の支払い止まる...運営会社代表は去年の直撃取材に「アメリカの投資会社が資金を出してくれる」と弁明も出資者らは集団提訴に踏み切る
特命取材班 スクープ
「老後のための資金を補いたい」と考えてある不動産ファンドに出資した人たちから、いま悲鳴が上がっています。そのファンドの名は「みんなで大家さん」。不動産の賃料収入から分配金を配るとして、全国の3万7千人以上から総額2000億円を超える出資金を集めています。 しかし、主力商品の分配金の支払いが2か月連続で遅れ、さらには「解約したいのにできない」と出資者たちが集団提訴する事態にまで発展してるのです。 MBSは約2年前からこのファンドを追跡取材しています。一体何が起きているのか、迫りました。
“虎の子”400万円を出資したのは「世界一の街をつくる」プロジェクト
(400万円を出資したAさん(70代))「自分のお金ですから。虎の子の。まだむこうの資金があるうちに返してもらえるなら」
お金を返して欲しいと訴えるのは、不動産ファンド「みんなで大家さん」に出資する70代のAさん。「年金だけでは老後生活に不安」と、400万円を“ある商品”に出資しました。
その商品は「世界一の街をつくる」というプロジェクトでした。
(Aさん)「完成図のビデオの宣伝なども見たんですけど、これは上手く成功するんじゃないかと」
客席数5000を超える青い球体アリーナに、外国からの観光客を迎える大きなショッピングモール。成田空港近くにある東京ドーム10個分(約45万平方メートル)の敷地に、新しい街「ゲートウェイ成田」をつくる大規模開発プロジェクトです。
Aさんはこの新しい街に出資したというのです。
「安心」「将来の不安を軽減」並ぶ宣伝文句
出資を募ったのは大阪市の不動産会社「都市綜研インベストファンド」。「みんなで大家さん」シリーズと銘打った不動産投資ファンドを運営しています。
「みんなで大家さん」の仕組みは…
▼出資者が「みんなで大家さん」がもつビルやホテルといった物件に出資
▼その物件に入るテナントなどが支払う賃料収入から、年間で出資額の7%を分配
というものでした。
そのシリーズの中で主力商品となったのが「ゲートウェイ成田」。ファンドの運営会社の代表が自著で「資産評価2兆円の街で2024年、日本は復活する!」と宣言した大規模開発プロジェクトでした。「2024年に新しい街をつくる」として2020年から販売をはじめたのです。
パンフレットには「安心できると思う不動産投資ナンバーワン」、「年金+分配金で将来の不安を軽減」などの宣伝文句が並び、Aさんは安心して400万円を出資したといいます。
(Aさん)「実際に2か月に1回配当が入って。これは年金プラスにちゃんと動いていくだろうということで(分配金を)毎月の生活費にあてていたんです」
行政から開発許可など取り付け 総額2000億円を超える資金を集める
また、「みんなで大家さん」は実際に成田空港公団から予定地の一部を借り、千葉県や成田市から開発許可なども取り付けていました。
1000万円を出資したという40代のBさん。「行政と連携している」と考え出資を決めたといいます。
(1000万円を出資したBさん(40代))「成田市と合同で成田市の許可をとってるという感じじゃないですか。『これはそれなら安心だな』っていうのが強くて。個別のマンションとかの物件だったら出資しなかったと思うんですよ」
こうして多くの出資者の関心を引いた「みんなで大家さん」シリーズは全国で3万7千人以上から総額2000億円を超える資金を集めたのです(2023年時点)。
「これはやばい」解約申請するも受け付けてもらえず
ところが、「ゲートウェイ成田」が完成する予定だった去年。記者が現地を訪れてみると…
開発予定地は原っぱのままで、工事は大幅に遅れていました。完成予定は延期を繰り返し、最終的には2027年末となっていたのです。
また、去年6月には街の計画内容を変更したのに、出資者への重要な説明を怠ったなどとして、営業許可を出していた大阪府から1か月の業務停止命令も受ける事態に。
こうした状況に多くの出資者が解約を申し込むようになり、1000万円を出資したBさんも解約しようとしたといいますが…
(Bさん)「2024年10月ごろにそれ(解約殺到)を知りまして、慌てて『これはやばい』と思って、解約の申請をしようとしたら『現在申請は受け付けていません』というメールが返ってきて。(Q解約申請は受け付けてもらえなかった?)そうですね」
記者が代表を直撃取材「アメリカの投資会社が資金を出してくれる」
出資金は返ってくるのか。MBSは去年11月、ファンドの運営会社の代表を直撃していました。
(Q解約に時間がかかりお金が戻ってこないという人がいるが大丈夫?)
(「みんなで大家さん」代表)「もちろん経営努力で頑張っております」
(Q出資金は返ってくる?)
(「みんなで大家さん」代表)「ちゃんと返すように経営しておりますので。『成田プロジェクト』も成功させるように着々と進めておりますから」
事業は問題なく進んでいて出資金も返せると話します。その根拠について尋ねると「アメリカの投資会社が資金を出してくれるからだ」と説明しました。
(「みんなで大家さん」代表)「今、それ(アメリカの投資会社の出資)を協議して契約の直前なんです。詰めているところです」
(Q2000億円ほど集めているが戻ってくる?)
(「みんなで大家さん」代表)「償還するのは義務なので。必ず償還するというのがわたくしどもの経営計画です」
代表は「資金繰りに問題はない」と繰り返しました。
突如送られてきた「分配金遅延」のメール
しかし、今年7月。突然、出資者のもとに「年6回出している分配金が遅延する」というメールが送られてきたのです。そして…
【8月下旬に出資者に公開された動画より】
(「みんなで大家さん」代表)「心配とご迷惑をおかけしていること、心から深くおわび申し上げます。最善の努力を続けており、(分配金を)『死守する覚悟』で取り組んでおります」
代表が2回にわたり出資者に説明をする動画を公表。分配金のもとになる賃料収入が滞っているものの、計600億円ほどの所有不動産の売却を進めているため、遅延は一時的だと説明しました。
また、「ゲートウェイ成田」の事業自体も引き続きアメリカの投資会社と出資について交渉するなどしており、問題ないと話しました。
出資者5人が運営会社を提訴
しかし、「みんなで大家さん」に老後資金の400万円を出資したAさんはその後も分配金が再開せず、解約もできない状況に納得がいきません。
(Aさん)「こんなものが横行していいのか。犯罪だと思いますよね。あれだけかき集めた資金はどこにいってるのか。本当に許せない」
Aさんら出資者5人は9月17日、「みんなで大家さん」を運営する大阪の不動産会社に対し、出資した金の一部6000万の返還を求める訴えを大阪地裁に起こしました。
MBSは改めて代表への取材を申し込んでいますが、「個別の取材には応じられない」と回答。提訴されたことについては「誠実に訴訟対応を行って参る所存です」とコメントしています。
一般投資家が急増している昨今、このような不動産ファンドに関するトラブルが続出しているといいます。その背景にあるのは何か…以下のような要因が考えられています。
1.「不動産特定共同事業法」の改正(2017・2019年)
インターネット経由での出資募集などが解禁
→勧誘がしやすくなった
2.事業を運営する会社の監督官庁
投資商品なのに金融庁ではなく国土交通省が監督
→チェック体制が甘い可能性
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