2026年01月02日(金)公開
受刑者に響いた遺族の声「まだ僕たちは見捨てられていない」「涙が出るほどうれしかった」 ――加害者を支援 大阪・北新地クリニック放火殺人事件の遺族が選んだ道【中編:3部作】
編集部セレクト

2021年、大阪・北新地の心療内科クリニックで起きた放火殺人事件。院長だった兄を失った伸子さんはいま、被害者遺族の立場を超え「元加害者を支援する」という道も歩んでいる。 その根底にある思いと活動に迫った。
受刑者たちの声
「報道番組で(事件の)特集を見ました。話を聞けて良かったです。これから人生を歩んでいく人たちに寄り添っていただけること――僕も出所してやりたい活動があり、本当に勉強になりました、ありがとうございました」(受刑者)
「普通なら、加害者に怒りや憎しみがあるのに、逆に僕らにそういうことをやっていただけると聞いて、逆に僕らは何を返せるのかなと考えさせられました」(受刑者)
ある受刑者は、「加害者への支援に回るきっかけや、心の変化は何だったのか聞かせてほしい。目指すところはどういうものなのでしょう」と伸子さんに直接質問した。
(伸子さん)「同じ事件を起こしたくないというのは当然だが、自分に何ができるだろうと考えたとき、人の話を聞くことはできる、と思いました。通わせていただくうちに、被害者も加害者もなく、どうやったら目の前の人が幸せに生きていけるのかを考えること、それが私がやることかなと思っています。社会から犯罪者がいなくなることはないと思っています。でも、一人でも二人でも犯罪や再犯が減ればという思いでやっています。」
女性受刑者「加害者と被害者の立場は変わっていたかもしれない」
ある女性受刑者は、家族に危害を加えようとした相手に対して、自身が先に手を出してしまった傷害事件をきっかけに服役していると話した。
「手を出したのは悪いけど、言葉で喧嘩を売ってきたとか、モラルに反することを言ってきたことが法律にかからないのは良いことなのかな?と思っていますし、でもきょうの話では、被害者とか加害者とか関係なく、自分のことを大切にしてほしい、自分の幸せを追い求めてほしいと言われたことが、すごく響きました」
この女性受刑者は、「あのとき一つ違えば、加害者と被害者の立場は変わっていたかもしれない。しかし受刑者になった今、言い分を発せられる立場にない(と感じている)」と話す。そんな背景があるゆえ、伸子さんの、被害者も加害者も関係ないという言葉には、「涙が出るほどうれしかった」と話した。
男性受刑者「相手の目を見て、実際に目の前で聞くのは響く」
窃盗罪で服役中の男性は、こう振り返った。
「録音教材で聞くのと、生の声を聞くのでは、響き方が全然違います。相手の目を見て、どういう思いでしゃべっているかというのは、実際に会って目の前で聞くのが一番響きました」
彼は、今後の生活についてこう語った。
「刑務所から出たから許された、とは思っていない。まず犯罪をしないというのが前提です。犯罪被害者の声を聞いた上で、軽はずみでやってはいけないと感じ、もう二度としたらダメだなと強く感じました」
別の機会に、伸子さんと個別に話をしたいかどうか、と聞くと。
「自分の罪を話したうえで、今自分が持っている考えはこうだけど、外に出て大丈夫なのかとか、被害者の家族からみて『その考えはダメなんじゃないの』っていう点など、細かいところを相談できたら一番いいと思います」
男性受刑者「まだまだ僕たちは見捨てられていないんだな」
「人の財産を奪いましたし、周りにも迷惑かけた」と話すのは、詐欺罪で服役中の男性。
「二分の一がまた刑務所に戻ると教わっていますが、それを三分の一、四分の一、ゼロにするのは難しいけど、減らそうという考えを聞き、(自身も)強い意思で考えて行動して行きたいと思った。寄り添って行動してくれることに心を打たれました。まだまだ僕たちは見捨てられていないんだな、というのが一番。だからこそ応えて行かないといけないと思った。」
「幸せは人それぞれだと思いますが、しっかりした生活をすることがいま一番の幸せだと思うので、その幸せに慣れないように、慣れると幸せが変わってしまうので、その心だけは忘れないようにしようと思います。」
この講演会の約半年後、伸子さんに面談を申し込む受刑者が現れた。伸子さんは再び刑務所に向かうことになる。
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