2026年01月02日(金)公開
「強い欲求が覚醒剤にある。歯止め効かなかった」受刑者との面談で被害者遺族が提案した『自分の棚卸し』とは ――大阪・北新地クリニック放火殺人事件の遺族が選んだ道【後編:3部作】
編集部セレクト

2021年、大阪・北新地の心療内科クリニックで起きた放火殺人事件。院長だった兄を失った伸子さんはいま、被害者遺族の立場を超え「元加害者を支援する」という道も歩んでいる。 その根底にある思いと活動に迫った。
覚醒剤依存の男性と個別面談
2025年10月、伸子さんは再び刑務所へ、そこで個別に面談したのは、40代の男性受刑者だった。覚醒剤取締法違反と窃盗で服役中。覚醒剤の使用歴は約10年に及ぶ。
伸子さん「よく覚醒剤を使われていた方に話を聞くことがあるんですけれども、結構皆さん捕まってよかったって思う方がいる。やめたかった、やめられない、だからずっと苦しかったとおっしゃっていて、そんなことはなかった?」
受刑者「そういう気持ちもあるんですけれども、自由がなくなるのが一番辛いですね。」
伸子さん「やめられなかったのはなぜ」
受刑者「覚醒剤は欲求がすごい強いので、食欲とか睡眠欲と同じくらいの欲求が覚醒剤にはある。一度使い始めると、歯止めが効かなかった」
▼受刑者が振り返る薬物への依存
最初は好奇心だった。仲の良かった先輩が使っているのを見て、大麻から始めた。
「覚醒剤が一番依存度が高くて、やめられなかった」
伸子さんは、家庭環境を尋ねる。
受刑者「離婚して父親ひとりと住んでいた。中学生の保護者面談とかで、母親じゃなくて父親が来るのが恥ずかしかった」
伸子さん「(ここを)出てから、(覚せい剤を)やらない自信とやってしまう不安、どっちが大きいですか?」
受刑者「50パーセント、半々ですかね。出てから付き合いを断って、新しく仕事をして、違う環境でやり直す。そういうのに触れないこと」
すると伸子さんは、淡々と鋭く受刑者に問いかけた。
「きっかけがあればまた手を出してしまうと思う」
伸子さん「きっかけがあればまた手を出してしまうと思うんです。辛いことがあったとき、逃げ道を知っているから。ネットでいくらでも簡単に買えちゃうと思うのですが、手を出さないで済む方法って、何があると思いますか?」
受刑者「結婚とかして家族を作ったら、家族を守ることが大切になるので、そうしたらやめられるんじゃないかなと」
伸子さん「今、大切な人はいますか?」
受刑者「今は特にいないですね」
伸子さん「結婚できなかったら、どうされます?いずれはすると思いますけど、その間に何かあったら?」
受刑者「……多分、我慢できないと思います。どれだけ時間が空いても」
薬物をやめた、経験者のエピソード
伸子さん「違う人にどうやって薬をやめたんですかと聞いたことがあって、他のところに時間を費やせる仕事だったり、他のことで一杯になってくると、薬をやりたいと思わなくなると(言っていました)」
「時間がある、暇があると人間どうしても、退屈だからやってみようかなということになってしまう。そういうふうにならないように、例えば何か作業したりとか散歩するとかでもいいと思うんですけど、何かをすることに意識を向ける、やりたいと思わなくなるような生活を作るということが大事だと思うんですよね」
「何か行き詰まったときに、話せる人がいること。恥ずかしいかもしれないし、プライドもあるかもしれないけど、その人に頼ること。それでも(薬物を)やるかもしれないけど、でも、人がいるかいないかで変わると思うんです」
受刑者「本当にそうですね。時間はたくさんあるので見つめ合うじゃないですけど、自分で何か考える時間がたくさんあるので、そういうことに時間を費やしていきたいなと」
「喜怒哀楽をノート、何が多く何が少ない?」自分の棚卸し
伸子さん「ノートとかでもいいんですけども、自分の好きなことと嫌いなことを書いてみる。時間があると思うので、ノートに一度喜怒哀楽を書いてそれぞれの項目で思い出せること、何が多くて何が少ないか、見てもらってもいいですか?」
「自分の人生の中で、怒りは何だったか、悲しみは何だったか。どれが多くて、どれが少ないか。自分の中の棚卸しをすると、自分という人間が分かってきて、どう対処すればいいかが見えてくるかもしれません」
受刑者「やってみます」
面談の最後、受刑者はこう語った。
「薬物がなかった時期は、幸せだったなと思います」
▼面談を終えた受刑者「また話してみたい」
面談後、男性受刑者はインタビューに応じた。
「(クリニック放火殺人)事件が自分の中で衝撃的だったので、被害者の方と話す機会はなかなかないと思って、良い機会だと思って」
「全然知らない人に、自分の事件の事とかをアドバイスしてもらう機会がないので、とっても良かったなと思います」
記者「また機会があったら、話してみたいですか?」
受刑者「話してみたいですね」
遺族「なぜここにいるのか」を考えてほしい
いっぽう、面談を終えた伸子さんは振り返った。
「今なぜここにいるのか、もっと自分で考えていただきたいんです。振り返るということをなさっていない方が多くて、何かがあったからこそ今ここ(刑務所)にいるのがヒントかなと思う。そこを見つけられてないと(ここを)出ても一緒のことを繰り返してしまう気がしています」
「今まで歩んできた人生の中で何があったのか誰にもわからない。自分にしかわからないけど、その中に(犯罪に)つながる何かがあったはずなんですよね。時間的な問題もあるしなかなか話せないこともあると思うんですけど、そこを見つめ直す」
「自分で気づくということ。その時に辛かったんだ、嫌だったんだという感情も含めてご自身が気づくということ。そういった行動がまた生き直していくにはポイントじゃないかなと考えています」
「短い時間で何を伝えられるのか」
ほかに複数の受刑者との面談を終えて、伸子さんは今後を語る。
「北新地の放火事件で、事件を犯された方が再犯だったということが(加害者支援をする)大きな理由になるんですけれども、(この講演や面談で)再犯が防止できるとは決して思ってなくて、何かきっかけになったらいいなと。もっと確実なものにするためにどうしたらいいのかを、私自身も考えていかなければいけないと思っています。」
「次にお会いできるかどうかは決まっていない。会えない確率の方が高いと思っているので、本当に短い時間で何を伝えられるのか、もっと詰めていきたいと思っています」
被害者の遺族として、加害者側に講演をする活動は来年も続ける予定だ。1人でも多くに伸子さんの想いが届くことを願う。
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