2025年12月03日(水)公開
"勤務中は8時間以上トイレ行けない"重度障がい者の就労阻む壁「ヘルパーを利用しにくい」 国の支援事業導入の自治体は全体の「5%未満」...背景に予算不足や事業の認知不足
編集部セレクト
「働きたいのに…」重度障がいがある人の就労の壁を阻む“ヘルパー利用のしづらさ”。滋賀県大津市に住む脳性麻痺の深田澪音さんも、悩む一人です。 ヘルパーの利用については、日常生活では国などの助成金が出ますが、仕事などの経済活動においては原則、助成の対象外で、障がい者の就労を阻む高い壁となっています。こうした状況を受け、国は各市町村の判断で仕事でのヘルパー利用に助成金が出る仕組みを作りましたが、当事者を密着取材すると、制度の利用が広がっていない現状が見えてきました。
脳性麻痺で体を自由に動かせない 仕事をする上での苦悩

滋賀県大津市に住む深田澪音さん(22)。脳性麻痺で体を自由に動かせません。母・由季代さん(55)が身支度を手伝います。
澪音さんは今年4月から滋賀県庁にある県の教育委員会で事務職員として働いていて、主にデータ入力を担当しています。
(深田澪音さん)「最初は自分から何をしたらいいか分からなくて、作業とか言われ待ちしていたんですけど。最近はできそうなことがあったら、『これもプラスでやっておいていいですか』と聞いたり、4月よりは主体的に動けるようになったかなと思います」
そんな澪音さんですが、仕事をする上で大きな苦悩を抱えています。
「職場でのヘルパー利用」は助成の対象外…月約40万円の負担

澪音さんは大津市内の短大に通っていました。パソコン操作は職員の手を借りたりタッチパネルを使ったり、できる方法を探りながら学んできました。そして去年6月、就職活動を始めました。
しかし…
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(深田澪音さん)「音声入力とかタッチパネルのパソコンとかが使えると、時間がかからずに(作業)できるかなというのはあるんですけど」
(採用担当者)「そういった器具を使って、よりやりやすい環境があれば良い。なかなか市役所がそこまで、難しいところはあるんですけど」
(深田澪音さん)「そうですよね」
「職場に車いすが入れない」「外に出て対面で働くのは難しい」などと言われ40社近く落ちました。特に外で働く上で問題なのが「仕事中にヘルパーが利用しにくい」ことです。
重度障がい者が日常生活でヘルパーを利用する場合、国などの助成があるため、最大で月約3万7000円の自己負担ですみます。
ところが、仕事など経済活動を行う場合は原則、助成の対象とならず、月約40万円を雇用主や利用者が負担しなければなりません。
就労を阻む制度の壁。それでも澪音さんは社会で働くことを望みます。
(深田澪音さん)「私は健常者の人とすごく関わってきたと自分では思っているので、障がい者のコミュニティーに縛られることなく、いろんな人と生活できるようになったらいいかなと思うので。その中でやっぱり一般企業だったり、県だったりで働きたいなというのは思いました」
「公費を使う政策を作るのはなかなか難しい問題なのかなと」

卒業間際の今年3月、滋賀県教育委員会から内定をもらうことができました。しかし、澪音さんはヘルパーを利用せずに働こうとしていました。勤務中は8時間以上トイレにもいけません。両親は体を心配して職場に相談すべきだと諭します。
(母・由季代さん)「(ヘルパーを)使えないと分かってて、使わんといこうと思ったわけやん。思ってたんやんな?それでも働こうと思ったんよな?だけどずっとそれってつきまとうことやしさ、黙っておくことじゃないから」
高額なヘルパー代を払うことはできない。職場にその負担をお願いすることも難しい。結局、ヘルパー代の相談はしないことに決めました。
(深田澪音さん)「例えば通勤で(ヘルパーを)使うことができれば生活的にはだいぶ楽になるとは思うんですけど。そこに(公費を使う)政策を作るのはなかなか難しい問題なのかなと思います」
職場でのヘルパー利用 支援の動きも

そんな中、いま一部の自治体で職場でのヘルパー利用を支援しようという動きが始まっています。
藤村光さん(24)は、おととしから島根県松江市にあるデザイン制作会社で正社員として働いていて、3Dプリンタで作られるフィギュアの制作に携わっています。
(藤村光さん)「お客様から入稿された3Dデータのデータチェックをしています。CTスキャンみたいな感じで、中が詰まっているかというのを確認しています」
藤村さんは幼い頃、全身の筋力が低下する脊髄性筋萎縮症を患い、今も身体が不自由です。職場でも移動や痰の吸引などで介助が必要ですが…
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手元にあるボタンを押すと職場で待機しているヘルパーが藤村さんの元へ来てくれます。
ヘルパーが交代しながら勤務中ずっと見守っています。
島根県松江市は当事者の声を受け「就労支援特別事業」を導入

藤村さんが利用しているのは国が2020年に始めた「就労支援特別事業」です。各市町村の判断で導入できるもので、国や自治体などがヘルパー代の多くを負担してくれます。
松江市はおととし、藤村さんらの要望を受けてこの事業を導入。ヘルパーの手を借りて仕事に専念できています。
今では会社のSNSの運用も任され、70人ほどだったフォロワーを約2400人にまで増やし、仕事の受注にも繋がっているといいます。
(トレンド・専務取締役 徳田翔太さん)「SNSとかの投稿もそうですし、短期で結果が出ないことに関して、光さんはこう愚直にやってくださっているので」
(藤村光さん)「恐縮です」
(藤村光さん)「目に見える形で社会貢献ができているっていうのは、自分の中ですごく(生きる)モチベーションになっていますし、もし働けていなかったら、社会とのつながりをどういうふうに作っていたんだろう思うと、結構怖いですね」
導入している自治体は全体の5%未満 厚労大臣の見解は?

しかし、藤村さんのようにヘルパーの支えを受けて働ける人はごくわずかです。
というのも、就労支援特別事業を導入している自治体は全体の5%にも達していないのです。
国などが行った調査によると、市町村が予算を割くことが難しいことや、そもそも福祉の担当者が事業を知らないことが背景にあるといいます。また、公務員は対象外といった制約もあります。
仕事でヘルパーが利用しにくい今の制度を改善することはできないのでしょうか。厚生労働大臣に聞くと…
(上野賢一郎厚労大臣)「この課題を本当にわれわれも重要な問題だと認識しておりますので、国としての対応をこれからどうするか、調査結果も踏まえて十分に検討していきたいと思います。(Qヘルパーを就労まで使えるようにしない?)これから調査結果を踏まえて、さまざま考えていきたいと思っています」
「障がいがある方が殻に閉じこもらないでいい社会になれば」

滋賀県の教育委員会で事務職員として働いている深田澪音さん。この日は、母の由季代さんが仕事の合間を縫ってトイレの介助をしに職場へ来てくれました。
大津市は就労支援特別事業を導入しておらず、そもそも公務員は対象外のため、いまもヘルパー無しで仕事を続けています。
介助があれば、もっと可能性が広がると感じています。
(深田澪音さん)「仕事のことに関しては、職場の方に頼みつつ、そういうプライベート(トイレなどの介助)については、気軽に頼めるヘルパーさんなり助けてくれ人がいる環境になればと。障がいがある方が殻に閉じこもらないでいいような社会になればいいですね」
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