MBS(毎日放送)

『あの外国人女性はどこに?』1970年万博パビリオンで忘れられない出会い 77歳男性の願い叶うか――  55年ぶりの万博で起きた奇跡に密着

編集部セレクト

SHARE
X
Facebook
LINE

 2025年10月13日、半年間にわたる大阪・関西万博が閉幕しました。その55年前に開かれていた1970年の大阪万博で「忘れられない出会い」をしたという一人の男性。当時一緒に撮った1枚の写真をあの人に届けたい――その願いは、大阪に再びやってきた万博で叶うのか。1枚の写真が2つの国、2つの万博をつないだ”奇跡のような4か月”に密着しました。

「ずっとそれだけは覚えていた」――55年前 大阪万博で出会った“あの人”との一枚

 山本龍彦さん、77歳。子ども3人はもう独立し、いまは生まれ育った京都で妻・加代子さんと2人で暮らしています。音楽バンドを組んでいて、ビートルズが大好き。

 そんな山本さんの手元には、55年前の大阪万博で撮った1枚の写真があります。その写真を撮ったときのことが忘れられないのだそうです。

(山本龍彦さん)「恋まではいかんやろうけど、憧れみたいなものやろうね」
4.jpg
 その写真に山本さんと一緒に写っていたのは、外国人の女性。名前まで覚えています。

(山本龍彦さん)「ずっとそれだけは覚えていた。間違っていないと思う。マーリス・ミューラー。マーリス・ミューラー……」

果たされていない約束――あの時の写真は渡せないまま

 高校を卒業後、食品関連のメーカーに就職した山本さん。22歳の時、大阪・千里で開かれた1970年の大阪万博に足を運びました。

 大阪万博のスイス館は「光の木」と呼ばれる高さ21mの彫刻が特徴で、人気を集めたパビリオン。山本さんは大好きなカメラを片手に訪れました。
8.jpg
(山本龍彦さん)「光の木、そこを見に行ったら、横にスイスレストランがあったと思う。そのあたりでうろうろしていたらきれいなお姉さんが来られて、『一緒に写真を撮りましょう』と。次に来るときは写真を持ってきますと言って別れたんです」

 スイスパビリオンでたまたまツーショットを撮影したのが、そこで働いていた「マーリス・ミューラーさん」。山本さんは「次に万博に来る時には写真を渡す」と約束をしてマーリスさんと別れました。しかし――

(山本龍彦さん)「次に行ったときはおられず、お休みかで、それっきりこれっきりなんです」

 SNSも電子メールもない時代。山本さんは万博を再訪したもののマーリスと再会することができず、写真はいまも山本さんの手元に残ったままです。

大阪に再び万博がやって来た――「スイスパビリオンにおられたマーリス・ミューラーさんはお元気なのか?」

 それから55年後。大阪に再び、万博がやって来ました。

 あの時渡せなかった写真を、今度こそマーリスさんに渡したい。山本さんの中に願いが生まれました。

(山本龍彦さん)「55年たって写真を渡したい。まあ死ぬ前にいろいろ考えとかんと。次の万博は見られないんやから、どっちに転んでも」

 その願いは、妻にも伝えました。
11.jpg
(妻・加代子さん)「ヤキモチ…。あと何年どうなるかわかりませんので悔いのないように、それだけです」

 万博が行われている今こそがチャンス。山本さんは今回の大阪・関西万博のスイス館に宛ててマーリスさんの消息を訪ねるメールを書き、返事を待つことにしました。

 週末はいつも仲間とバンドの練習をしていますが、練習中も気になるのはあの人のことです。

(バンド仲間)「1回きりですか?1回だけ会ったん?」
(山本龍彦さん)「うん、1回だけ」
(バンド仲間)「えー、と思ったな。写真を持っていることもびっくりやし、名前も覚えているんやと」
(山本龍彦さん)「あのお姉さんが(万博に)いる(いらっしゃる)かなと。いなくてもお元気かなと」

55年後の万博で 止まっていた時間が動き始める

 スイス館にメールを送って数日後。返事が届きました。そこには、「スイス館に来て欲しい」とのメッセージが。

(山本龍彦さん)「『館長一同お待ちしています』と返ってきたから、これは行かないかん」

 そうして山本さんは、バンド仲間とともに55年ぶりに万博を訪れました。何か手がかりが得られるかもしれない、という期待とともに。
15.jpg
 手には一冊のアルバム。当時の写真をスマートフォンのAI機能を使って鮮明にし、アルバムを作っていました。どうにかして、マーリスさんへあの時の写真を渡そうというのです。

 いざ、大阪・関西万博のスイスパビリオンへ。到着するやいなや、スタッフから「今からハイジカフェに上がって、ラクレットチーズを食べませんか」と提案がありました。

 思わぬ歓迎に胸は高鳴ります。パビリオンで待っていたのは、スイス館のカフェテリア・ハイジカフェを運営するフィリップ・モジマンさん。山本さんにこんな話を始めました。

(フィリップ・モジマンさん)「私の母がスイス館でスタッフをしていて、父がシェフで働いていた。だから私は万博ベイビーです。“マルリーズさん”は両親の結婚式の証人でした」

 フィリップさんの話に突如として登場した名前。この“マルリーズさん”こそ、山本さんが55年前に出会ったスイス館の女性。名前は山本さんの記憶違いで、マーリスさんでなく、正しくは“マルリーズ・ミューラーさん”でした。

 フィリップさんの両親とマルリーズさんは、1970年の大阪万博・スイス館でともに働き、それ以来の親友だといいます。

 フィリップさんら現代のスイスパビリオンのスタッフが、山本さんからのメールを受け、スイス・チューリッヒで暮らしているというマルリーズさんの連絡先を探してくれることになりました。

(フィリップ・モジマンさん)「とても心が揺さぶられます。たくさんの愛情を一緒に見つけて、受け入れて、お互いの文化の違いを乗り越えます。それがまさに万博だと思います」

 フィリップさんは、マルリーズさんに連絡を取り、山本さんお手製のアルバムを渡すことを約束してくれました。

「生きていてよかった」55年の時を超え 9000kmの距離を超えた"再会”

 それから3カ月、マルリーズさんとつながることはできたのか――。

 自宅を尋ねると、AI翻訳を駆使してメールを書いている山本さんの姿がありました。アルバムがマルリーズさんに届いたのです。

 山本さんの願いは、55年越しに叶いました。さらに、マルリーズさんから返事が届き、二人は文通を始めていました。やり取りは、もう2か月以上続いています。
23.jpg
(マルリーズさんのメール)「親愛なる山本様、素敵な写真と和菓子のプレゼントをいただきました。面白く予想外だった6か月、たくさんの思い出が1970年のスイスパビリオンにはあります。残念ながら、私や当時働いていた友人たちはもう訪れることはできません。あまりにも遠く、長旅で私ももう飛行機に乗れなくなってしまいました」

(山本龍彦さんのメール)「マルリーズさんへ、思いもよらないつながりでマルリーズさんに写真をお渡しできて幸せです。私ももうスイスまで行く体力はありません」

 マルリーズさんからは当時の写真も届きました。

(マルリーズさんのメール)「私の写真で1970年を思い出してください。万博が終わったあと日本を旅して九州へ行って、長崎や広島も訪れました。原爆の恐ろしさに心が震えたのを覚えています。日本の美しさは、私にとっての癒しになりました」

 55年前の写真とともに最近撮った笑顔の写真も添えられていました。

 今はひとり、チューリッヒで暮らしているマルリーズさん。電話でこの“再会”への思いを取材班に話してくれました。
24.jpg
(マルリーズさん)「驚いたのは、彼が私を探して、見つけ出したことです。奇跡ですよね?これから、お互いにどんな人生を送ってきたか、語り合うつもりです。私はいま81歳、彼は多少若く、家族がいて仕事もしてきて、いま意見の交換ができるのはすばらしいことです」

 国が違うからこそ知り合えた喜び、つながりが今なお人生を照らしてくれる。55年ぶりの万博が教えてくれました。

(山本龍彦さん)「この歳になって外国の人と、それも9000km離れた国の人と友達になれたのがウソみたいで、すごくうれしい、ウキウキしています。生きていて良かった――。今回、つくづく思いました。会うべくして会っている。人と人とのつながりに偶然はないね」
25.jpg

2025年10月17日(金)現在の情報です

今、あなたにオススメ

最近の記事

報道被害を受けた遺族が「被害にあわれたあなたへ」取材対応リーフレットで支援 それでもマスメディアにかかわり取材を受ける"メリット"とは...【附属池田小事件 被害者支援part4/全4回】

2025/12/07

「なぜ娘は死ななければならなかったのか」答えなき永遠の問いかけ "ホミサイドサバイバー" アメリカ訪問で知った早期支援【附属池田小事件 犯罪被害者支援part3/全4回】

2025/12/07

「怖かったよね、痛かったよね」現れた鮮やかな幻影に声かけた 血だまりと小さな手形に娘の最期の思いを知った日【附属池田小事件 犯罪被害者支援part2/全4回】

2025/12/07

「ご父兄ですか?何か一言を」無神経にマイク向けるマスコミへ怒り 「助かる見込みはありません」医師の非情な宣告 附属池田小事件で娘奪われた遺族が『超混乱期』振り返る【犯罪被害者支援part1/全4回】

2025/12/07

【大阪みやげの新定番】たこ焼き×サクサクパイの意外な組み合わせで大ヒット 花がモチーフの「大人かわいい」商品は地道な活動とSNSが追い風に みやげ店内での"場所取り"にもヒミツ

2025/12/06

ワイン造りに情熱捧げる滋賀のブドウ農家 目指すは地元食材を生かした料理と一緒に楽しむワイン いずれは世界へ...初めて挑んだ醸造のゆくえは?

2025/12/05

【カツめし】創業60年 親子2代ドライブイン洋食 京都・八幡「レストラン百花園」

2025/12/04

ひたすら試してランキング『あったか靴下』下着美容研究家と冷え性が悩みだというギャル曽根が選ぶ "しあわせなはき心地" 老舗のこだわりがつまった注目の1足とは?【MBSサタプラ】

2025/12/03

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook