2025年08月26日(火)公開
「10年で12倍」急増する"直美"の医師 その一方、加速する人手不足で疲弊する保険診療 救急科で働く27歳医師の「24時間以上の当直勤務」に密着すると...
編集部セレクト
若い世代を中心に美容医療ブームが起こる中、医師としての2年間の初期研修を終えたあとに美容医療の道へ進む「直美」(ちょくび)の医師が急増しています。その一方で、保険医療では、医師が流出し人手不足が深刻化。いま病院で何が起こっているのか、その実態に迫りました。
「美容外科医以外は考えたことがない」直美の医師
大阪市内の美容クリニックで院長を務める木家佑理子さん(33)。いわゆる、「直美」の医師です。
(RIVER CLINIC大阪院 木家佑理子院長)「患者様に喜んでいただくというのが一番のやりがい。中学生ぐらいからファッションとかメイクとかに目覚めて。美容外科医以外は正直、本当に考えたことがないぐらいです」
直美とは、2年間の初期研修を終えたあと一般的な内科や外科などを経由せずに、美容医療の道に飛び込む医師を指します。
大学病院の過酷な労働環境を見て…直美を選んだ医師
東京都内の美容クリニック「MK CLINIC」の院長・石田雄太郎さん(31)も直美のひとりです。2年間の初期研修を終えた後、2023年に大手美容クリニックに就職。それからわずか1年で開業に至りました。
じつは石田さん、大学在学中は小児科志望でした。しかし、初期研修の際に、大学病院の過酷な労働環境や厳しい上下関係などを目の当たりにして、考えが変わったといいます。
(MK CLINIC 石田雄太郎院長)「最初の数年、長ければ5年くらいは、本当に“下積み生活”というか。医師じゃなくてもできるような仕事、書類管理とか。奴隷のように扱われることもありますから。メンタルが病んでしまって辞めていった先輩・同級生もいっぱい見てきた」
「過酷な労働環境」や「診療報酬の伸び悩み」などを背景に保険診療が敬遠されるなか、美容医療(自由診療)に進む医師が増えています。
2022年に国が行った調査では、直美の医師は全国で198人に上り、10年で約12倍に増加しました。
今年新たに5人、直美の医師を採用した大手美容外科の院長は。
(東京美容外科 麻生泰統括院長(53))「東大医学部卒とか、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒とか、普通では採れないような人材が僕らの業界に流れてきて。クリニックの発展を考えたときに優秀な人材を採れるなら採っておこうというのが、経営者としての目線」
競争が激化する美容医療 SNS発信に注力する医師も
ただ、直美の医師が急増するなかで、業界内での生き残りをかけた競争は激化しています。現在、東京で2つの美容クリニックを経営している辻大成さん(38)。
(Tokyo Tensei Clinic 辻大成統括院長)「できるクリニックの数だけ畳むクリニックもたくさんある。友達のクリニックが潰れちゃったというのはよくある話なので」
「新たな施術は全て自分の身体で試す」という辻さんがいま、特に力を入れているのが、SNSでの発信です。
(SNSで発信する辻統括院長)「僕も骨切りやっていますが、すでにここの神経が死んで、感覚がまったくありません。たらこパスタとかを食べると口の下がプラネタリウムみたいになってしまったり」
自身の経験も交えながら連日、投稿しています。
(辻大成統括院長)「どこを見てお客様が『このドクターにしたい』って思うかというと、先生の人となりだったりしゃべっている雰囲気だったり」
インスタグラムのフォロワー数は20万人を突破。来院する人のうち95%がSNSを見てやってくるといいます。
(辻大成統括院長)「僕は美容を選んでよかったと思っています。先生のおかげで前向きに生きられるようになった、ありがとうと言われるだけで涙が出るほどうれしい。美容医療の見方や価値観が少しでも変わればうれしいと思います」
一方で…救急科で働く27歳医師の「当直勤務」
美容医療が盛況の一方で、保険診療では医師の流出が大きな問題になり始めています。
岩手医科大学附属病院の佐藤莉和医師(27)。初期研修を終え去年からこの病院の救急科で働いています。救急科は長時間労働になりやすいため避けられる傾向が強く、慢性的な人手不足に陥っています。
取材した日、佐藤さんは当直勤務。翌日の朝まで24時間以上業務にあたります。
出勤してからわずか30分の午前9時ごろ、スズメバチに刺された女性がドクターヘリで運ばれてくるとの連絡が。
女性は腕の痛みと呼吸の苦しさを訴えます。
(患者に声をかける佐藤医師)「いま痛いの右手だけですか?左も痛いですか」
処置を施すと女性が訴えていた呼吸の苦しさは落ち着きました。運ばれてくる患者の容体を瞬時に見極め、初期対応にあたるのが救急医の役割です。
ひと仕事終えた佐藤さん。ですが、息つく間もなく、次の患者がやってきます。
仕事は患者対応だけではありません。合間を縫って研修中の医学生に検査の方法を指導します。
そして午後5時前。ここから病院に泊まり込んでの勤務が始まります。「地域の人たちに安心してもらいたい」と迷うことなく地元の病院で勤務することを選んだ佐藤さんですが時には弱音も…
(岩手医科大学附属病院 佐藤莉和医師)「やっぱり忙しいのが続くとちょっと疲れたなとは思いますね。すべてを忘れて電話も置いて、どこか遠くに出かけたいと思います。ハワイとか。行ったことないけど」
学会に向けた準備中にも患者が
午後10時。当直体制が始まると今度は学会に向けた準備に取り掛かります。この日、佐藤さんが取り組んでいたテーマは、奇しくも「東北の救急医不足」でした。
(佐藤莉和医師)「いいアイデアが思い浮かぶまでちょっと考えたり、どうしても無理だったら、ベットでゴロゴロします」
と、そのとき、佐藤医師の電話に着信が。
昼夜を問わず、運ばれてくる患者。結局、全ての処置が終わったのは日付をまたいで午前3時半でした。
(佐藤莉和医師)「じゃあ寝ます。おやすみなさい」
そして午前7時40分ごろ。
(佐藤莉和医師)「おはようございます。(Qいつもと比べて忙しさは?)いつもと同じくらいかなと。そこまで多くもなく少なくもなく」
これが、救急科の“普通”なのです。そのまま患者の回診に向かいます。
勤務開始から27時間がたった午前11時40分。ようやく帰路につきました。
「個々の病院が努力してなんとかできるレベルではない」
佐藤さんが働く岩手医科大学附属病院の副院長は、「働き方改革で改善は進んでいるものの、特定の科の医師に大きな負担がかかっている現状がある」と話します。
(岩手医科大学附属病院 櫻庭実副院長)「長時間の時間外労働が生じるような診療科は敬遠される。そもそも医師が足りていないのに、入ってくる人も少ないので、(さらに)医師不足になる。個々の病院が努力してなんとかできるレベルではない。早急に対応しないとまずいんじゃないかなと思います」
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