2025年08月21日(木)公開
甲子園に出られなかった高3球児 "最後の夏"「公式戦で投げられなかった。不完全燃焼です」期待されるもケガ...強豪校の投手、最後のマウンドに密着
編集部セレクト
8月上旬、北海道で「もう一つの高校野球」が行われていました。地方大会で敗退、地震で被災した生徒など、様々な甲子園不出場の高校3年生が全国から参加しています。熱い思いを持った球児たちの最後の夏に密着しました。
「不完全燃焼です」様々な思いを持った球児
8月上旬、北海道で行われた「LIGAサマーキャンプ」。高校3年生の球児64人が4チームに分かれて、リーグ戦などを戦いました。集まったのは、“甲子園に出られなかった”選手たち。
(岡山の高校から参加)「2回戦で負けてしまって、燃え尽きることができなかった」
(京都の高校から参加)「足をケガしてしまって、春と夏に思うような結果が出なくて」
滋賀県から参加した八幡商業の大橋悠也くん。高校3年間、公式戦の出場がありませんでした。
(大橋悠也くん)「最後に公式戦で投げられなかったのがやり切れなかったです。不完全燃焼です」
小学4年生で野球を始めた大橋くん。中学時代はエースとして県大会準優勝。高校では2年秋に初めてベンチ入りを果たし、主力ピッチャーとして期待されていました。
しかしその矢先に右肩を負傷、思うようにピッチングができない日々が続き、結局、最後の夏のメンバーに選ばれることなく、スタンドで地方大会を終えました。大橋くんの両親は…
(父 良平さん)「1イニングでも打者1人でも、公式戦で投げられたら良かったなと思います」
(母 亜由美さん)「本人が一番悔しいかなと思って、それ以上は何も言えなかったです」
諦めきれない思いから「LIGAサマーキャンプに参加したい」と両親に相談したところ背中を押してくれました。
(大橋悠也くん)「家族に見せられなかった雄姿を全力で見せるんだという思いで取り組みます。まずは無失点で、チームを勝利に導けるようなピッチングをしたいです」
元高校球児が運営「もっと試合の機会を増やしたい」
サマーキャンプを運営する団体の代表・阪長友仁さん(44)は元高校球児。新潟明訓高校で甲子園出場経験があり、東京六大学の立教大で主将を務めた、いわば野球エリートです。阪長さんは青年海外協力隊として訪れたドミニカ共和国で、子どもたちが試合をする回数が日本の高校生に比べて圧倒的に多いことに衝撃を受けたといいます。
(阪長友仁さん)「日本はトーナメント制の大会が夏にかけてありますと。3600校が参加しますと言っても、1800校は1試合しかしてない。負けたら終わり。たった1回負けただけでプレーの機会がないというのは、その選手のことを考えたら損失だと思っています」
「日本でももっと試合ができる機会を増やしたい」そこで去年始めたのがLIGAサマーキャンプ。10日間、勝敗に関わらずリーグ戦形式で思いっきり戦える取り組みです。
大橋くんのいる「アギラス」は3位 この試合で勝てば決勝へ
8月2日、第2回のキャンプが北海道で始まりました。64人が4チームに分かれ、それぞれ8試合を戦います。試合数が多いので、選手全員に出場機会があります。
大橋くんのいる「アギラス」は、8日目を終え3位、ここで勝てば最終日にエスコンフィールドで行われる決勝戦に出場できます。
試合開始早々、2点を先制したアギラス!しかし5回、ノーアウト3塁1塁と、長打が出れば同点のピンチが訪れます。ここで大橋くんがマウンドにあがります。
1人目のバッターにフォアボールを与え満塁としますが、続く打者をテンポよく追い込むと…空振り三振を奪って1アウト!このあと内野ゴロの間に1点を奪われ、なおも2アウト3塁・1塁、一打同点のピンチ…。
セカンドライナー!仲間の好プレーに助けられ、見事に切り抜けました!大橋くんの活躍もあって接戦を制し、アギラスは決勝戦進出を決めました。
その夜、サマーキャンプ最終日を前に懇親会が行われました。
―――大橋くんの印象は?
(選手)「いろんな意味で肝が据わってますね。野球で言ったら頼れる対ピンチーピッチャー。ピンチに強いです」
まだ知り合って10日ほどですが、大好きな野球を通じてすっかり打ち解けた様子。大橋くんはムードメーカーとしてチームを盛り上げてきました。かけがえのない時間もあとわずかです。
「泣いても笑ってもあしたがラストなので。あした絶対勝ちましょう」
決勝の舞台で完全燃焼!無失点ピッチング
決勝の舞台は、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地・エスコンフィールド。大舞台に緊張しているチームメイトたちを、ムードメーカーの大橋くんがギャグで盛り上げます。
決勝戦が始まりました。序盤に先制点をあげたのは大橋くんのいるアギラス。最高の舞台で、はつらつとしたプレーが光ります。そして3回大橋くんの出番です。ひとりでも多くマウンドに立てるよう、登板はこのイニングだけ。高校3年間の思いすべてをここにぶつけます。
スタンドには、両親と2人の妹の姿が。
緊張のなか投じた1球目、幸先よく1人目のバッターを打ち取り、まずは1アウト!さらに2人目のバッターも、テンポよく2アウトを奪います!
続く打者にはヒットを許し3者凡退とはなりませんが、落ち着いて後続を抑え、高校生活最後の登板をエスコンフィールドのマウンドで、無失点で終えました。
それぞれが”不完全燃焼”の思いを抱えて集まった球児たち。存分に野球を楽しみます。試合は大橋くんのいる「アギラス」が勝利し優勝!マウンドにはキャンプに参加した選手全員が駆け寄り、勝敗に関係なく健闘を讃えあいました。
(チームメイト)「大学で野球しないの?」
(大橋悠也くん)「野球はする」
(チームメイト)「がんばれ!」
(阪長友仁さん)「それぞれ、いろいろな進路に進んでいくと思うし、自分の進みたい方向を信じてまっすぐ進んでいって、これをきっかけに人生切り開いていってくれたら、僕はすごくうれしく思います」
「みなさんで拍手で終わりましょう」
高校での野球はひと区切り、家族のもとに駆け寄る大橋くんの表情は晴れやかでした。
(滋賀・八幡商 大橋悠也くん)「高校3年間で1番いいピッチングができました。3年間やってきたことが出し切れた」
(父 良平さん)「本人の満足いくピッチングができて親としてもうれしいです」
(母 亜由美さん)「すごく楽しそうに投げていたので、私もうれしかった」
(大橋悠也くん)「高校3年間支えてくれてありがとう。3年間支えてくれたから野球ができたし、最後にこんないい経験をさせてもらえたしほんとに楽しかった3年間でした」
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