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街に接近するクマの脅威「ここまで来たか」 一方、かつてクマ被害に悩むも今は『14年連続で人身被害ゼロ』の場所...安全を支える秘策「ベアドッグ」とは?

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 今年7月、北海道で新聞配達中の男性がクマに襲われ死亡しました。クマによる被害は関西でも2024年に比べて出没数が急増していて、今まで例がなかった街中での目撃も相次いでいます。なぜクマと人の距離が近づいているのか、私たちにできる対策とは何かを取材しました。

男性が死亡する事態も… 全国でクマ出没相次ぐ

 響き渡るシカの鳴き声。首元に激しく噛みついているのはヒグマです。7月、北海道羅臼町の多くの車が行き交う国道で撮影されました。

 北海道では福島町でも7月、ヒグマが市街地に度々出没。新聞配達中の男性が襲われて死亡する最悪の事態が発生しました。
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 一方、本州では民家の敷地の中をゆうゆうと歩いたり、高校に侵入して校庭を走り回ったりと、ツキノワグマの目撃が相次いでいます。

「1人で家の外に出るのは怖い」クマの脅威は関西でも

 そして今、クマの脅威は関西の街にも迫っています。

 7月15日の早朝、奈良県五條市でツキノワグマが出没。女性(82)が自宅の玄関を出たところクマと鉢合わせ、顔を引っかかれるなどし重傷を負いました。女性を襲ったクマは今も見つかっていません。

 クマの出没は他の場所でも。ドライブレコーダーに残された映像には車道を右へ左へ走る黒いクマが映っています。車に気づいたのか森の中へと走り去ります。映像は今年5月、奈良県天理市で撮影されました。

 運転していた男性は最初、クマとは思わなかったといいます。

 (車を運転していた男性)「なんかピョコピョコ走っているな、あれ何やろと。クマなんているわけないと思っていた」

 撮影されたのは市街地から約1km離れた国道で、天理市内でクマが目撃されたのは今回が初めてだといいます。

 さらに、今年6月には奈良市内の畑でもクマの目撃情報が寄せられました。すぐそばには小学校や民家もあります。奈良市でもクマの目撃は今年が初めてで、しかも今年5月以降、20件もの目撃情報が寄せられているといいます。
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 (周辺住民)「おっかないですね、この辺まできましたかという感じです」
 (周辺住民)「1人で家の外に出るのは怖いという気もしますね」

 奈良市の担当者も急な変化に驚いています。

 (奈良市・農政課 笹本祐課長)「これまで県の南部に限られていたクマの目撃情報が奈良市でもありまして、非常に重要な問題だと捉えています」

 県や奈良市によりますと、クマの生息地域は県の南部を流れる吉野川より南とされています。しかし、今年に入って川の北側にある奈良市や天理市など少なくとも5つの市や村でクマの目撃情報が寄せられているのです。

 なぜ、クマが街へと近づいているのでしょうか。実はツキノワグマは地域によっては絶滅の恐れがあるため狩猟が禁止されるなどしています。

 クマの生態に詳しい専門家は、狩猟や捕獲が減りクマの数が増えたことで生息エリアが拡大し、若いクマが新たな生息地を求めて移動している可能性を指摘します。
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 (野生動物保護管理事務所 中川恒祐さん)「若い個体というのは人に対しての警戒心が低く、人がいる前にふっと出てきてしまうことが特徴としてある。移動していく中でいろんな所で目撃をされる状況が発生していると思われます」

 奈良県内で目撃情報が寄せられた市では、住民にクマ鈴を配布したりオリや看板を設置したり、急遽の対応に追われています。

クマの人身被害「14年連続ゼロ」の場所

 人間とクマの距離が近づく中、どうすれば被害を防げるのか。取材班が向かったのは長野県軽井沢町。1990年代から2000年代前半まではクマによる被害に直面してきましたが、2011年以降、人の生活エリアでの人身被害は14年連続でゼロだといいます。

 「実被害はないですね。(Qゴミが荒らされたりとか?)昔はね。今はゴミ箱にカギがかかるようになっているので」
 「被害はあんまり聞かないけどね。『あの人たち』が管理してくれている。だから軽井沢はクマの被害はない」

 街の安全を支えている『あの人たち』、それは「ベアドッグ」によるパトロールです。ベアドッグはクマの匂いや気配を察知するために特別な訓練を受けた犬。パートナーの指示に従い大きな声で吠えクマを追い払います。

 実際にクマと遭遇した際の映像には、パートナーが前方を指し示しながら「ベア!ベア!バーク!(クマだ!クマだ!ほえろ!)」と叫び始める様子が。ベアドッグが大声で吠えると、クマは木からおりて森の奥へと逃げていきました。
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 このベアドッグを訓練しているのはクマとの共存を目指すNPO法人「ピッキオ」。ピッキオは捕獲されたクマの一頭一頭に発信器などをつけて個体管理をしていて、その情報をもとにパトロールをします。

 (NPO法人ピッキオ 井村潤太さん)「クマの位置を特定しているスタッフがいて、『きょうはよくない場所にいる』と連絡があれば、そこに行って森のほうに追い返す」

 対策は「追い払い」だけではありません。軽井沢町では1990年代までは年間130件ほどクマによるゴミ箱荒らしがありました。クマが生ゴミを求めて人のいるエリアに近づいてきていたのです。

 そこで行ったのが「クマ対策ゴミ箱」の設置です。
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 (NPO法人ピッキオ 井村潤太さん)「構造としてはカバーがありまして、内側にレバーがありまして人であれば指も長いので奥まで入れてレバーを引くことで開閉ができる」

 今ではクマによるゴミ箱荒らしはほとんどありません。

 追い払いをするだけではなく、そもそも街へ呼び寄せている原因を断つことが人間とクマの共存のためには大事だといいます。
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 (NPO法人ピッキオ 井村潤太さん)「駆除が必要なクマもいるかもしれないが、必要ないのであればわれわれの頑張りによってお互いが命をつなぎながら共に同じ地球で生きるというのは非常に重要だと思っています」

クマと遭遇しないために…

 街中に出没するクマの数が増加した理由としては、クマの数自体が増えたことが考えられます。その要因は天敵が少ないことや、狩猟・捕獲に制限があることで生息範囲が拡大したためです。

 クマの危険から身を守るために個人ができる対策は次の2点です。

■対策(1) 街へ呼び寄せない

・家庭やキャンプ場で出る生ごみを放置しない
・木に実った柿や栗を放置しない

■対策(2) クマに遭遇したときは…

クマに背を向けず、クマを見ながらゆっくり後退 大声を出すことはNG

2025年08月07日(木)現在の情報です

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