2025年04月08日(火)公開
「何もなくなってしまうのはさみしい」兵庫の"赤字ローカル線"存続をかけ自治会長が奮闘!地元を巻き込む『まちづくり』に密着【JR加古川線(西脇市~谷川)】
編集部セレクト
人口減少や地方の過疎化などの影響で各地に存在する“赤字ローカル線”。兵庫県を南北に走るJR加古川線は一部区間が赤字となっています。地元の自治振興会は存続させようと奮闘。沿線地域を盛り上げるため、地元住民を巻き込んだイベントを開催しました。
「廃線になったら困る」利用客は約35年で4分の1に
JR加古川線は加古川駅から丹波市の谷川駅までを結ぶ路線で、そのうち『西脇市駅~谷川駅』は1両編成で運行しています。この区間は利用客が年々減少していて、1kmあたりの1日の平均利用者数(輸送密度)は、国鉄から民営化された1987年以降、4分の1にまで落ち込みました(1987年度:1131人→2023年度:275人)。収支は3年平均(2021年度~2023年度)で2.5億円の赤字です。
(乗客)
「病院に行くために乗っている。車を持っていないので、ありがたく使わせてもらっています」
「職場まで通勤で使っています。景色もいいですし、毎日乗っていても好きな電車です。廃線になったら困るというのはすごく感じています」
そんな中、今年2月、JR西日本は“ある発表”をしました。
(JR西日本 長谷川一明社長)「今年は万博があります。多くの方が関西に一番お越しになる時に、どれくらいの潜在能力を発揮できるのか」
4月13日に開幕の大阪・関西万博。博覧会協会は延べ約1200万人が近畿以外から来場すると見込んでいます。JR西日本はそのタイミングで西脇市駅~谷川駅の列車を1日に上下2本ずつ増発するほか、谷川駅で福知山線の特急列車の一部を停車させるなどの実証実験を行うと決めました。
(JR西日本 長谷川一明社長)「私たちの最大の努力は増便するということ。観光でお客さんを呼び込むことが重要なので、その辺については地元の相当な努力が必要ではないかと」
一方で、利用の増加に向けた勢いが認められない場合には、今後のあり方について議論を開始する方針です。
「これはえらいことになる」廃線を危惧する沿線地域…レンタサイクルで観光客を呼び込む作戦
丹波市内の久下自治振興会で会長を務める清水邦泰さん(72)は、このままでは廃線になってしまうのではないかと危惧しています。
(久下自治振興会 清水邦泰さん)「これはえらいことになるということで、地域が盛り上がっていかないといけないという話に」
いわゆる“赤字路線”の区間がまたがる丹波市・西脇市の人口はこの20年で計約1万8000人減少。住民の3割以上が65歳以上の高齢者です。
(清水邦泰さん)「高齢化になって車の運転が不安になってくる人も多い。できるだけ鉄道は残したい。何もなくなってしまうのはさみしいということもあります」
実は、清水さんは、電車を利用して地元を訪れる観光客を増やそうと、半年前から“ある取り組み”を始めていました。折り畳み式自転車を貸し出し、サイクリングしてもらおうというものです。
(清水邦泰さん)「加古川線で(ここまで来て)いろいろなところに自転車で行って、帰りは電車に乗せて帰ってきてもらうと楽なんです」
常勝寺(最寄り駅:久下村駅)など、周辺には四季を楽しめる名所や旧跡が揃っていると清水さんは感じていて、特に桜のシーズンには多くの利用を期待しています。一方、貸し出し開始から約半年が経ちますが、自転車を借りた人はまだ数人です。
清水さんは事態の打開を図ろうと、加古川線沿線の2つの自治会と合同の協議会を結成。この日の会議では、議題の1つとして、苦戦しているレンタサイクルの改善案が話し合われました。
(清水邦泰さん)「サイクリングは去年企画倒れに終わっていますので、今年本格的にやっていこうかなと」
ここで他のメンバーから提案が出されました。
(協議会のメンバー)「(例えば)黒田庄の自治会館で借りて黒田庄で返すとなると非効率なので、比延・久下の自治会館で乗り捨てしてもらうと」
現状は、レンタサイクルで観光をした後、自転車は借りた自治会に返さなければいけません。それが原因で利用客数が伸びていないとして、3つの自治会のどこでも返却できるように協力しようというのです。
(清水邦泰さん)「万博にあわせて、加古川線増便も言われている。できるだけ早く取りかかったほうがいいと思う」
「地域の人に元気がついてきよる」熱燗・豚まん・とろろ焼き…地元グルメで賑わう『夜市』
清水さんは今年3月、JR久下村駅前で、地元の県民局と協力し、賑わいを取り戻すためのイベントを開催しました。
(清水邦泰さん)「加古川線の利用促進を狙って、お客さんに来てもらう。みんなで集まって食べて飲んで話ができるのがいいなと」
電車の利用客を長期的に増やしていくには地元住民の意識も変える必要があると考えていて、近所の人でも電車に乗って気軽に参加できる「夜市」を開催するといいます。今回で3回目となる、この夜市。金曜日の夜、仕事終わりに来てもらえるようにと、日本酒やビールなどの酒類を充実させたり、電車で来た人には抽選で景品や値引き券をプレゼントしたりするなどの工夫をしています。
(清水邦泰さん)「先ほどまで雪もありましたけど、雪もとけましたし、太陽も出たので良かったなと。(来場者)1000人を超えたらいいなと」
午後4時半。いよいよ、夜市のスタートです。普段は数人しか降りてこない久下村駅ですが、この日は次々と人が降りてきます。この日の気温は約7℃。地元の酒造会社の熱燗や、丹波産・山の芋を使用したとろろ焼き、地元の栗を食べて育った豚を使った豚まんなど、地元グルメが来場者の体を温めます。
参加した地元の人は…
「とても良いことだと思う。こういうのを機会に、子どもたちも(電車に)乗るいい機会になる」
「(孫は)うちに来てはこの電車に乗って、1歳の時から『線路は続くよどこまでも』を歌って拍手をもらっていた。大好きなんですよ、電車が」
「(地元が)生き返るような機会。地域の人に元気がついてきよる」
駅前は多くの人の笑顔と団らんで温かい空気に包まれました。
(あいさつする清水邦泰さん)「たくさんの方にお越しいただき、大変感謝しています。一人一人の力で、こんなに大きな夜市をすることができました。本当にありがとうございました」
午後8時すぎ。ほろ酔いの来場者たちを乗せた電車が久下村駅を後にしました。この日の来場者は、目標を超える1115人。普段は1日に数人しか乗車しない駅を、夜市の時間だけで186人が利用しました。
(清水邦泰さん)「加古川線を存続させなければいけないという気持ちを持っていないと、いつなくなるかも分からないので。みんなも慣れてくると、より盛り上げ方も変わってきますし。あくまでも夜市はきっかけづくり。続けていきたいと思います」
万博期間中に与えられたチャンスと課題。地元住民はまだまだ挑戦を続けます。
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