2025年03月13日(木)公開
地震リスクか日常か...お盆直撃の『南海トラフ地震臨時情報』で混乱生じた和歌山・白浜町 海水浴場閉鎖で宿泊業の損失5億円超「大変心苦しかったが必要な判断だった」
編集部セレクト
東日本大震災の発生から3月11日で14年となりました。今回は甚大な被害が出たこの震災をきっかけにできた『南海トラフ地震臨時情報』。去年8月に初めて発表されましたが、各地で対応が割れました。当時どのような判断がなされ、どのような影響があったのでしょうか。
ビーチから人が消えた 初の『南海トラフ地震臨時情報』
和歌山県白浜町。白い砂が美しい白良浜には、 毎年14万人以上の海水浴客が訪れています。しかし去年8月、このビーチから人の姿が消えました。
【2024年8月8日放送 JNN地震特別番組より】
「南海トラフ巨大地震に繋がる可能性があるか、この調査が始まったという情報が入ってきました」
『南海トラフ地震臨時情報』。去年8月8日、宮崎県の日向灘を震源とするマグニチュード7.0の地震が発生。これを受けて、初めて発表されたのが臨時情報です。
臨時情報は、南海トラフ巨大地震の想定震源域内でマグニチュード7以上の地震が発生した場合などに、巨大地震への注意・警戒を促す情報を発表する仕組みです。
(気象庁 束田進也地震火山技術・調査課長 ※去年8月8日)「新たな大規模地震が発生する可能性は平常時と比べて高まっていますが、特定の期間中に大規模な地震が必ず発生するとお知らせしているものではございません」
国は、普段通りの生活を続けたうえで1週間程度、防災用品や避難経路など地震への備えの再確認を求めました。
東日本大震災の2日前「宮城県で最大震度5弱を観測」
臨時情報がつくられた背景となったのが、14年前の2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。この2日前、東北の三陸沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生。宮城県で最大震度5弱を観測していました。
東日本大震災を受けて、2014年までの100年あまりの間に世界中で起きたマグニチュード7以上の地震を国が調べたところ、1週間以内にさらに大きな地震が起きたケースが6件存在していました。
■世界で発生したマグニチュード7.0以上の地震(1904年~2014年):1437回
■1週間以内に発生したマグニチュード8.0以上の地震:6回(東日本大震災を含む)
→発生確率:約0.4%
こうした万が一の際の被害を少しでも減らそうと、2019年、現在の臨時情報が定められたのです。
お盆を直撃した臨時情報 JR西日本の対応は
そして去年8月8日に発表された臨時情報。『巨大地震注意』への対応は1週間続き、お盆休みを直撃しました。
(JR西日本・近畿統括本部・安全推進部 佐脇知広さん)「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を受けて、特急『くろしお』は、ふだん(大阪方面から)新宮駅や白浜駅までの運転ですが、和歌山駅までの運転と変更させていただきました」
JR西日本は『巨大地震注意』が出た場合、津波からの避難が難しい区間を走る特急は運休にすると、あらかじめ決めていました。そのため特急『くろしお』は、和歌山駅より南での運転を8日間取りやめました。
(JR西日本・近畿統括本部・安全推進部 佐脇知広さん)「特に大きな混乱もなく対応ができたと考えています。(Q再び臨時情報(巨大地震注意)が発表されたら?)基本的な変更はありません。特急『くろしお』も津波避難が困難な地域については、一部区間の運休を検討しています」
「大変心苦しい判断だったが…」和歌山・白浜町は海水浴場を閉鎖
一方、臨時情報への対応で、混乱が起きた場所もありました。和歌山県白浜町は、臨時情報『巨大地震注意』の発表を受け、白良浜海水浴場などを閉鎖、名物の花火大会も中止しました。かき入れ時の観光業にとって大きな痛手となりました。
(紀州・白浜温泉むさし 女将 沼田弘美さん)「こちらが当館で人気の白良浜が見える部屋です。臨時情報発表後はキャンセルとなってしまい、非常に残念でした」
温泉旅館『紀州・白浜温泉むさし』では、例年お盆の時期は予約でほぼ満室ですが、臨時情報発表を受けて約6割がキャンセルになったといいます。旅館組合に加盟する町内の旅館・ホテルの損失は5億円を超えました。
(白浜町・観光課 川脇研太係長)「時期的に地域経済に対する影響が非常に大きいと想定されたので、大変心苦しい判断ではありましたが、安全・安心を第一に考えてこのような決定を行いました」
白浜町は臨時情報が出た際の具体的な対応について事前に決めておらず、町長や経済団体の代表などが緊急会議を開き、海水浴場の閉鎖を決めました。
(白浜町・観光課 川脇研太係長)「こちらで海水浴場閉鎖の判断について対応を協議しました。(Q最終的に海水浴場閉鎖を決めたのは?)町としての判断。(Q最後は町長?)はい、町長になります」
国は観光施設の閉鎖やイベントの中止などは求めていません。そのため、旅館組合は「海水浴場の閉鎖まではする必要がない」と反対しましたが、決定は覆りませんでした。
(白浜温泉旅館協同組合 沼田久博理事長)「倒産するところも出てくる。町のなかで非常に厳しい状態が起こるので、(海水浴場閉鎖は)『やめてください』と申し上げました。最終的には町長の判断でされることはもう分かっていましたから、『その後のフォローを必ずやっていただけるか』とお聞きしたら、『やりますよ』とは言っていただきました」
その後、町は宿泊割引クーポン事業など、計5100万円あまりの観光支援策を決めました。海水浴場の閉鎖などは必要だったとして今後も同様の対応をとることにしています。
和歌山県は『県独自のガイドライン』を来年度末までに策定へ
また、和歌山県は自治体ごとに判断が違うことによる混乱を防ぐため、県独自のガイドラインを来年度末までに策定する方針を示しています。
(和歌山県 岸本周平知事)「内閣府が作らないのであれば、少なくとも和歌山県内の市町村がバラバラだというのはやっぱり困りますので。市町村や観光協会などと意見をすり合わせないといけない」
万が一に備えるための南海トラフ地震臨時情報。最大限、生かせるよう絶えず議論を続ける必要があります。
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