MBS(毎日放送)

神戸の想定震度は「5強」か「6」か― 防災学者の反省「過去の最大は必ずしも『最悪』ではない」地下に潜む地震リスクの警鐘(2)【阪神・淡路大震災から30年】

編集部セレクト

SHARE
X
Facebook
LINE
  

阪神・淡路大震災が起きる21年前、神戸市が地震学者らに依頼した調査報告書が「神戸と地震」だ。1974(昭和49)年に発行されたその結論は、断定的で明瞭だ。「将来都市直下型の大地震が発生する可能性はあり、その時には断層付近でキ裂・変位がおこり、壊滅的な被害を受けることは間違いない」。

その4年後の1978(昭和53)年、人口の多い都市が地震に襲われた。宮城県沖地震だ。最大震度5を観測した仙台市の死者は16人。うち11人がブロック塀の倒壊によって亡くなった。住宅の全半壊は4385戸、ライフラインが停止するなどした。宮城県沖地震は、人口50万人以上の都市(当時)が初めて経験した「都市型地震」とされている。

その5年後、1983(昭和58)年に神戸市は「地震時における建物倒壊・出火・延焼危険度に関する調査研究報告書(神戸市震災対策調査)」を発行。1986(昭和61)年には「地域防災計画地震対策編」を策定し、地震被害の想定などを進めていく。
報告書のタイトル接写.jpg
「神戸市震災対策調査」を担い、「地域防災計画地震対策編」では委員として議論に参加したのが、当時助教授だった神戸大学の室崎益輝名誉教授(80)だ。
報告書を広げる室崎名誉教授 テロップ入り.jpg

「予算も知らんくせに震度6なんて言うな」

神戸市の最大震度想定は、過去に発生した地震に基づいて議論が行われた。山崎断層地震や枚方断層地震などによる「震度5強」か―。「震度6」である「六甲山断層」とすべきか―。意見が分かれた。
PJ.jpg
会議には神戸海洋気象台(現・神戸地方気象台)の稲浦昴測候課長(当時)も出席していた。1996年の取材時に稲浦氏は「兵庫県内では、過去に豊岡で震度6が2回もある。当然想定を震度6にすべきではないか、神戸市として。そういうことを強調した」と。しかし、神戸市の担当者から「神戸市の予算も知らんくせに震度6なんて言うな」との発言があったと証言している。
稲浦さん 過去素材.jpg

垣間見える“地震対策の思想が不十分だった時代背景”

「震度6」を想定すると、対策に費用がかかりすぎるということで、結局想定震度は「5強」とされた。取りまとめを担ったのは室崎氏だ。

なぜ高い震度の想定にしなかったのか―。

当時の考え方をこう説明する。「まずは震度5クラスに耐えられるような街にして、何年か経って見直しをする。次は震度6や震度7に耐えられる街にするという考え方でどうだろうか」と。

先述のとおり、1978(昭和53)年の宮城県沖地震の最大震度は仙台市の「5」だった。また、神戸市の地域防災計画には、地震についてほとんど書かれていない時代だ。

「震度5強でも取り組んでいただけるのかどうかと思っていた」と室崎氏は答える。そして、その答えには、地震対策や防災の思想がまだ不十分だった時代背景が垣間見える。
室崎さん 過去素材.jpg

『震度7』を経験した反省「起こりうる可能性への検討が弱かった」

しかし、阪神・淡路大震災で神戸が襲われた震度は「7」。室崎氏は最大想定をできていなかったと振りかえる。「震度6の想定でさえも、あくまで過去に兵庫県内で発生した地震。過去だけでなく起こりうる可能性に対しての検討が弱かったというのが反省」と。

気になった点を質問した。「神戸市の最大想定を震度7にする考えはなかったのか」と。

「震度7の想定を提起したとしても、対策が進んだかどうかは今でも分からない」と室崎氏は答えた。

「想定する最大地震は過去の地震だけではいけない」

「考えうる最大想定を」

阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大災害を経験した現在なら何の違和感もなく受け入れられる考え方だ。いつか起きる次の災害での「想定外」を減らすため、考えられる限りの想定と対策を行う“思想”が必要だ。


◆取材・文 福本晋悟
MBS報道情報局 災害・気象担当デスク。「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」特別研究調査員。阪神・淡路大震災発生時は滋賀県在住の小学3年生。震災で両親を亡くし転校して来たクラスメイトと過ごした。

2025年01月16日(木)現在の情報です

今、あなたにオススメ

最近の記事

【京都の観光公害】外国人増加で潤う一方"日本人離れ"も「インバウンド多いから...」"ぎゅうぎゅう詰め"市バスの混雑緩和対策は焼け石に水「なんとかして」

2025/11/08

「ヘルメット装着は最強の防具」自転車のマナー向上を呼びかけるイラストを高校生が作成 大阪・淀川区の英真学園高 大阪府警の「Safety Bicycle 推進校」プロジェクト

2025/11/08

「悲しみと怨念の深い闇の中で、一生生きていく」父親が悲痛な叫び 大型トラックを酒気帯び運転 自転車の20代男性をひいて死亡させた罪に問われた男(61) 勤務後に「発泡酒と焼酎水割り」 1~2時間ほどだけ寝て、再びハンドル握る...

2025/11/08

石破前総理「緊張状態MAXから戻れた」生出演で語ったコメ政策や日米関係 「アメリカはああ見えて非常に冷徹。イエスと言うことが素晴らしい同盟関係とは思っていない」【全文まとめ】

2025/11/08

【カツめし】行列!肉汁"吹き出す"ハンバーグ  大阪・北区「ニクサングルマン」

2025/11/06

「仕事してない。窓際族みたいな感じ」障がい者就労支援で給付金の過大受給疑惑...現役利用者らが語った内部実態 障がい者1人を1か月雇用で"全国平均30倍"600万円の給付金 専門家「これは就労支援ではない」

2025/11/06

弾丸は「時速720km」ベニヤ板4枚貫通...発射実験から見えた山上被告の手製銃の威力「人や動物を殺傷する能力がある」【安倍元総理銃撃事件 第6回公判】

2025/11/06

ひたすら試してランキング『冷凍チャーハン』東西のミシュラン一つ星のシェフが選ぶ 「これぞチャーハン!」プロに極めて近いふわパラ食感を実現した1位の商品は?【MBSサタプラ】

2025/11/06

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook