2024年11月06日(水)公開
「消費されて終わったなと...」川で溺れた小中学生を助けようとした夫が死亡『美談』の報道に違和感覚えた妻は研究者の道へ『どうすれば事故を防げるのか?』
編集部セレクト
2012年、大阪府茨木市の川で溺れた小中学生を助けようと、通りかかった男性が川に飛び込み、小学生は無事に救出されましたが、中学生と男性は死亡しました。 事故の後、亡くなった男性の妻・岡真裕美さんは研究者となり、川の危険や事故防止、子どもの行動などについて研究。講演や出版など、啓発活動に取り組んでいます。なぜ事故は起きてしまったのか、どうすれば未然に防げるのか...。自分と同じような思いをする人を1人でも減らすため、岡さんの活動は続きます。
「この川で私の夫が死にました」
(岡真裕美さん)「実はこの川で私の旦那さんが死にました」
(小学生)「えーっ!」
(岡真裕美さん)「びっくりやろ。私もびっくり」
大阪府内の小学校で、児童に向けて、つらい出来事を明るい口調で話す岡真裕美さん(44)。
(岡真裕美さん)「川ってめっちゃ怖いから、みんなは簡単に遊びに行ったりしないようにしてください。行くときは大人と一緒に行くこと。あと、ライフジャケットを着てください」
伝えたいのは「身近な川の危険」。こうした活動のきっかけとなったのは、12年前の事故でした。
2012年4月、大阪府茨木市の安威川で、川遊び中に溺れた小中学生を助けようと、通りかかった夫の隆司さんが川に飛び込みました。小学4年の男の子は無事に救出されましたが、男子中学生と隆司さんが命を落としました。
現場となった安威川は、今は草が生い茂っていますが、当時は地域の人が利用する身近な河川敷だったといいます。
(岡真裕美さん)「日常的に犬の散歩とか、対岸までわたって帰ってくる人たちもいたので、本当に憩いの場でした。(注意喚起の看板は)夫が亡くなってから当時の茨木市長がたててくださった」
“美談”になって終わり…事故の報道に違和感「消費されて終わったなと」
ジョギングが日課で、よく河川敷を走っていた隆司さん。水泳も得意でしたが、救助に入った川で深みにはまってしまったとみられています。当時34歳。2歳と5歳の子どもを残して、突然いなくなりました。
(岡真裕美さん)「泣きたいけど、泣いたら子どもが悲しむんですよ。特に5歳の息子が『お母さん泣かんといて』って怒るんですよ。あかん泣いたら、子どもたちの前で泣いたらダメって思って、泣かないようにして…」
事故は大きく報じられましたが、岡さんはその内容に違和感を覚えたといいます。
(岡真裕美さん)「『優しい人だったんでしょ』とか『正義感強い人だったんでしょ』と言われることが多いですけど、本当にごく普通のお父さんという感じでした。若いパパが、よその子どもを助けて亡くなったというので、“すごくいい話”、美談になって、終わりだったんですよ。水難事故予防とか、事故の再発防止に関して報道してほしいと思いました。葬儀が終わったら(取材が)ぷつっと無くなって、消費されて終わったなと思ったんです」
「なんであんな冷静な人が助けに行ってしまったのか」
事故はなぜ起き、どうすれば防げるのか。岡さんが選んだのは研究者の道でした。
(岡真裕美さん)「なんであんな冷静な人が助けに行ってしまったのか。ずっと謎やったし、事故のことを勉強しよう、勉強すれば何か見えてくるかもと」
岡さんは隆司さんの母校でもある大阪大学の大学院に入学し、安全な行動についての研究を始めました。レスキュー隊員などに聞き取りを行い、最新の研究に触れるなかで、人が溺れている場面に遭遇したときの対処法についても自分なりの答えを見出しました。
(岡真裕美さん)「絶対に(川に)入らないで、陸上からできる救助をする」
川は急に深くなったり流れの変化があったりと、予測できない危険があります。安易に川に入らず、ロープや浮くものを投げ入れ、救助隊などの到着を待つべきだと言います。
(岡真裕美さん)「やっぱり一番にできるのは通報、119番。海だったら118番。もし沈んでしまうところがわかったら、その場所を覚えておいて、ここで沈んだというのをチェックして、救急が来た時に『あそこらへん』と言うと探しやすくなる」
子どもに『気を付けて』は通じない
また、そもそもの事故を防ぐためには、子どもの行動の特徴を知ることが重要だと考えるようになったといいます。岡さんが今年初めて出版した本には、子どもによくある行動と注意点が詳しく解説されています。
例えば、「子どもに『気を付けて』は通じない」。具体的に、何にどう気を付けなければいけないのか、理由を説明しなければ子どもには伝わらないと言います。親子で読んでもらえるよう、フリガナを付け、漫画を織り交ぜました。
(岡真裕美さん)「子どもって好奇心が先に行ってしまうので、保護者が『飛び出したらあかんで』って言っても、『はーい』って言いながら飛び出す生き物。一緒に行動している時に、『ここはこうだから、ここが危ない』とか常々言うのがいいと思います」
岡さんは研究を続けながら年に80回ほど学校などに出向き、講演活動をしています。この日は、滋賀県の幼稚園の職員や保護者に、子どもの視野の狭さについて解説しました。小学校低学年くらいまでの子どもの視野は、大人の7割以下しかないとされています。「チャイルドビジョン」というメガネをかけて、子どもはどう見えているのか体感します。
(岡さん)「園長先生、今から私が後ろから通ります。『見えますか』と随時聞きますので、見えたら『見えた』って言ってください。…見えますか?」
(園長先生)「見えないです」
(岡さん)「では、少し前に進みます。見えますか?」
(園長先生)「あ!ちょっとこのへんに」
子どもは目の前のことしか見えていないと分かれば、声のかけ方も変わってくると言います。さらに、見通しの悪い道路の渡り方についても指摘。
(岡真裕美さん)「(子どもは)『見通しが悪い』の意味を知りません。なので、『見通しが悪いところでは…』と漠然と言うのではなくて、『この道のここでは…』というふうに普段は言ってあげるのがいいと思います」
参加した保護者は…
(5歳児の保護者)「『気を付けて』とか『よく見て』とか、すぐとっさに出てしまうので、具体的にそこで止まるとか、具体的な声かけを心がけていけたらいいのかなと思いました」
(6歳児と7歳児の保護者)「車の指示器とか教えていなかったし、それはわからないなと。改めて一から子どもたちの安全と車の動きとかを教えていかないと」
「人の命も大切だけど、自分の身を守ろうという考え方につながってほしい」
危険性を知っていれば事故は防げる。自分と同じような思いをする人を1人でも減らすため、これからも啓発を続けます。
(岡真裕美さん)「人の命ってかけがえのないものだし、それぞれ生活があって、家族がある。その人が亡くなって良かったという人なんかいない。人の命も大切だけど、自分の身を守ろうという考え方に、もっとつながってほしいと思います」
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