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蚊取り線香は昔『水車』で作っていた...幕末の線香水車の復活へ「水車の音が思い出される。ナツカシイナー」孫を動かした祖父のメモ

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 日本の夏の定番アイテム「蚊取り線香」は昔は『水車』を使って作られていたのをご存じでしょうか。幕末に作られて紀伊半島で唯一現存する線香水車を復活するプロジェクトが進んでいます。

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 明治時代以降に蚊取り線香の一大生産地だった紀州地域。現在では定番となった金鳥の渦巻型もこの地で生まれました。その原料はタブ粉と呼ばれるクスノキ科のタブの枝葉や樹皮を粉末にしたもので、殺虫成分を混ぜるなどして作られています。現在は機械を使って製粉が行われますが、機械化前に動力として用いられていたのが水車でした。

見つかった貴重な線香水車

 和歌山県上富田町に住む井澗洸介さん(34)。4年前、和歌山大学の教授らが調査に訪れたことがきっかけで、所有する小屋に残されていた貴重な水車の存在を知りました。

 (井澗洸介さん)「そんな水車あるの?って聞いたら、うちのじいちゃんは、うん昔からのやつあるでって。今までこの小屋の存在は知ってたんですけど、中に水車があることは知らなかったんですよ」 
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 井澗さんの高祖父・井澗和三郎さんは1910年、この地で水車を買い受けて線香の製造を始めました。
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 当時、地域の人が原料となる木を集めて水車小屋に売りに来るなど、水車小屋は地域の中心地でした。

 (井澗洸介さん)「大人たちにとっては仕事の場であり、子どもたちが集まってお小遣い稼ぐ場でもあったし、地域のいろんな方が集まる場でもあったという感じですかね」

 約100年以上にわたり地域の産業を支えた水車でしたが、石油エネルギーへの転換などから事業は衰退していきました。

祖父のメモがきっかけで動き出した水車復活プロジェクト

 (井澗洸介さん)「これが祖父の写真です。祖父が最期、入院していたんですけれど、その時のメモが残っていまして」
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 【祖父のメモより一部抜粋】「水車の音が思い出される。ナツカシイナー ふるさと」
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 井澗さんは祖父の想いに背中を押され、朽ち果てていた水車を復活させることを決意。その後、井澗家に眠っていた水車は幕末(1864年)に作られたもので、紀伊半島で現存する最古のものだと判明しました。
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 (近畿大学文芸学部 藤井弘章教授)「昭和の初めくらいまでは何十基もあったようですけれども、現在では本当にここだけなので、大変貴重だと思います。それがもう一度、子孫の方々あるいは地域の方々の協力で動き出すというのは、とても意義があると思います」

 そして3年前、地元の人たちの協力により、水車復活に向けたプロジェクトが始まりました。復元作業を支えるのは40年以上にわたって水車の製造や修復を手掛けてきた水車大工の野瀬秀拓さん(72)です。朽ちた水車を分析してパーツを一から復元しました。
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 (水車大工 野瀬秀拓さん)「私も初めて見ました。ここに来た時、果たして再現できるのだろうかと。ただ形だけ真似するのは簡単なんですね。その時に棟梁さんがどういった考えでこういう方法を編み出したのか、またどういう当時の技術を使ってこの形を起こして計算して作っていったのか、そこが一番重要だと思うんですね」

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 水車には、杵が16本つながっていて、水車が回ると杵が動き、臼の中でタブの葉などをすりつぶすようになっています。
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 復元作業には井澗さんの甥・誠之介くん(11)も参加。井澗家の想いが受け継がれていきます。

 (井澗誠之介くん)「ひいおじいちゃんの時代に作ったので、ひいおじいちゃんも喜んでくれるかなって思いました」

ついに回り出す水車

 そして8月26日、山の中の水路から水車に水を運ぶための「とい」が取り付けられました。

 (井澗洸介さん)「やっとここまで、ボロボロだったものが、水車本体だけでも直ったのが、もう今泣きそうですもんね」
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 お酒でお清めして、いよいよ水車に水が流れます。この日は試運転のため、川からポンプでひき上げた水を少しずつ水車に流します。復元作業に3年をかけた直径約4.5mの大きな水車がゆっくりと回り出しました。

 (井澗洸介さん)「感動です。やっと水で回るところが見られました。この後、おじいちゃんのお墓にでも、やっと水車が回ったよっていう報告をしに行かないと」
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 井澗さんらは今後、県初となる国の有形文化財登録を目指していて、実際に蚊取り線香が作れるようになるまで水車を復元したいとしています。また将来的にはカフェを併設して地元の人や観光客が集える場所にしたいということです。

2023年08月28日(月)現在の情報です

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