2025年11月27日(木)公開
クマ出没で注目"大規模ハンター養成所" シカの食害に悩み"自らがハンターになる"決意したネギ農家「抵抗はあるが食べられた憎しみが...」 訓練を重ねて挑んだ初めての銃猟
編集部セレクト
連日クマの被害が相次ぐなか、対応するハンターの需要が高まっています。そうしたなか去年、全国に先駆けて兵庫県が“ハンター養成所”を開設しました。射撃やわな猟を学べる施設とは一体どんなものなのか。今年、猟銃免許を取り、施設で訓練を積み、自身が育てた農作物を守るためにハンターとなった新米ハンターの、初めての銃猟に密着しました。
今年初めて「緊急銃猟」を行った福井県 訓練のため兵庫県へ

50m離れた的に次々と弾丸が撃ち込まれます。
兵庫県三木市にある県立総合射撃場、通称「ハンターズフィールド三木」。山に入ってシカやイノシシなどを捕獲する“ハンターの養成施設”です。
11月22日(土)にやってきたのは、福井県の各自治体で有害鳥獣の捕獲を担当する職員です。
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(福井県エネルギー環境部自然環境課・國永知裕主任)
「福井県ではブナ、ミズナラといった樹木の実が不作でクマが大量出没している。技術の向上や後進の育成の観点から研修に来ました」
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福井県勝山市では今年10月、こども園にクマが侵入、銃で駆除する「緊急銃猟」を、今年9月法の改正後初めて実施しました。
その後もクマが出没していて、安全に駆除する技術を磨くためにきたのです。
甲子園球場20個分の広さ 巨大"ハンター養成所"

去年6月にオープンした「ハンターズフィールド三木」。総工費約35億円をかけて兵庫県が設置しました。
甲子園球場20個分(約80ヘクタール)の広大な敷地で射撃訓練やわなの使い方などを専門家に学べるほか、駆除した動物を食肉として活用するための処理方法の講座もあります。
(わな猟講習の受講者)
「ゼロから学べる。どうやっていいかわからへん状態から1歩進めるというのはすごくありがたい」
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さらに免許がなくてもできるビームライフルの射撃体験などもあり、狩猟が身近に感じられるようになっています。
農林業被害額は近畿で最も高い兵庫県 若手ハンターの育成が急務

全国でも珍しいという自治体による大規模な”ハンター養成施設”、なぜ作られたのでしょうか?
(兵庫県環境部自然鳥獣共生課・中川幸二鳥獣対策官)
「(シカなど)農林業被害が直近では4億円。農業される方からすると作ったものが動物に食べられるというのは営農意欲を低減されることになります」
兵庫県内のシカやイノシシなど野生鳥獣による農林業の被害額は4億1500万円。2013年は7億9400万円だったため以前よりは減りましたが、近畿で最も大きく高い水準が続いています。
一方で登録されているハンターの半数以上が60歳以上と高齢化が進んでいて、若いハンターを増やすことが急務となっているのです。
シカの食害に悩むねぎ農家の鴨谷康隆さん ハンターを目指す

朝来市で農業を営む鴨谷康隆さん(41)。父のあとを継いで専業農家になり、特産の岩津ねぎなどを栽培しています。
(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「葉っぱも白い根っこの部分も全部食べられるというのが『岩津ねぎ』の特長で、甘いし、とろけるような。1回食べたら皆さんリピートして買いに来られますね」
自慢のネギですが、頭を悩ませているのが「シカによる食害」です。
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(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「頑張って育てて、さあ取るぞっていうときに、一番真ん中のおいしい芯だけ食べるんですよ。『岩津ねぎ』は葉っぱも出荷するので、商品にならない」
そこで考えたのが自らがハンターとなってシカを駆除することでした。去年、わな猟をはじめ、今年6月には猟銃の免許も取得しました。
(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「(Q抵抗はなかった?)多少あったんですけど、正直野菜を食べてしまうということに対する憎しみというか、それもあったのでなんか複雑な感じでしたね。自分が猟師もなるってなってみんなもやろうやと友達にも声かけたんですけど、動物の命を奪うというのは『俺は無理やな』っていう子が多かった」
初めての銃猟に向け銃の命中精度とシカの処理方法を学ぶ

兵庫県のシカの狩猟解禁は11月15日。銃を使った初めての猟に向けて、命中精度を上げていきます。
(指導員)
「極端に動かすととんでもないところに撃つから。自分できれいなところ。気持ちよく揺れるところを探し出してもらうと」
指導員から身振り手振りをアドバイスをしてもらい、その後、的の中心付近に撃てるようなりました。
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猟の前日の11月15日は、シカの食肉処理の研修です。
(指導員)
「左手でお肉を押さえてもらって、べりべりとはがしていきます」
指導の下、鴨谷さんは肉の処理を行っていきます。
(指導員)
「これで肩甲骨を外すことができました。なかなか上手です」
駆除するのは人間の都合。奪った命を決して無駄にしないよう真剣に耳を傾けます。
(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「普段はもうちょっと雑に(お肉を)とっていたので、細かくとれる方法を聞けたのでよかったです。もったいなくないように。よい勉強になりました。あすとれるように頑張ります」
チームで行う初めての銃猟 結果は…

日本海に面した兵庫県香美町。11月16日、鴨谷さんが初めて銃を使った猟に挑む日です。
(兵庫県猟友会・上田剛平朝来支部長)
「みなさんおはようございます。きょうはグループでの初出猟ということで、安全第一でやっていきたいと思います」
同じ猟友会に所属する11人で、「巻き狩り」という方法で猟を行います。
メンバーは銃を撃つ射手(しゃしゅ)と、シカを追い詰める勢子(せこ)の二手に分かれます。
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勢子は犬と一緒にフンや植物を食べた痕跡などから、シカが潜む場所を見つけ、大声を出して射手が待ち伏せる場所へと追い詰めます。十分近づいたところで、射手が銃撃し、仕留めることができれば成功です。
初陣の鴨谷さんは、待ち伏せをしてシカを撃つ射手を担当します。
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(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「緊張しますね、めっちゃ。不安ですね」
いよいよ山へ。けもの道をたどり奥へと進みます。
(兵庫県猟友会・上田剛平朝来支部長)
「たけのこ。めっちゃ小さいやつやけど。イノシシが(食べた痕跡)。まだ新しいね。おそらくゆうべちゃうかな」
道中にはシカやイノシシの足跡がいたるところに。
その後も険しい山道を登り、鴨谷さんはポイントに到着。シカを待ち伏せる態勢に入ります。
(メンバーからの無線)
「西側、竹やぶの奥の方、何頭も何頭も上がっていくのが見えます」
ほかの場所で待ち伏せるメンバーから、鴨谷さんの方にシカが向かっているという情報、緊張が高まります。
近くで銃声が響き、鴨谷さんも猟銃を構えたそのとき…
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十数頭のシカの群れが走り抜けていきます。見つけてからわずか10秒ほど、引き金を引くのをためらっている間に射程圏外に去って行きました。
その後もほかのポイントからは銃声が響きますが、鴨谷さんの近くにはシカは現れません。
(メンバーからの無線)「待ち解除でお願いします」
鴨谷さんは猟銃に装填していた弾を回収します。
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(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「撃てなかったです。1頭目が見えてそれに気をとられて、後ろ全然見えなくて…」
初めての銃猟は悔しい結果に

この日は、午前と午後で2つの山で猟を行い、先輩のハンターらが約5時間の猟で10頭のシカを駆除しましたが鴨谷さんはゼロ、少し悔しい結果になりました。
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(鴨葱農園・鴨谷康隆さん)
「(Q猟に出て率直にどうでしたか?)緊張が結構あった。(シカが)ダダダダっと来たときの音で心臓もバクバクとなるし、見えたときパッと反応できなかったというのは悔しかったですね。(将来的には)有害駆除とかでしっかり活躍できるようにはなりたい。農業の方にも役立つと思うので」
(兵庫県猟友会・上田剛平朝来支部長)
「そのうち発砲するチャンスは絶対あるし、そのときに失敗することもたぶんあると思うけど、なんで失敗したんやろうと考えることが大事やな」
来年1月には2度目の猟に出るという鴨谷さん。数少ない若手ハンターとして期待に応えられるよう技術を磨きます。
2025年11月27日(木)現在の情報です
