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入管法改正しても「帰らない外国人は帰らない」大阪入管現役職員が激白 外国人を"管理"する立場から感じる「政財界の圧」

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 6月9日、非正規滞在の外国人の送還ルールなどを見直す、出入国管理法(入管法)の改正案が、参議院本会議で可決・成立した。国会審議の中でも、決して全てが明らかになったとはいえない入管内部の事情を、現役の大阪入管職員がMBSの取材に応じ、約2時間にわたって語った。

  前編では、刃物を持つ外国人に対し、素手で挑む「摘発」業務の実態や、入管収容者への医療体制が改善されない根本原因などが赤裸々に語られた。後編では、入管法改正案に対する職員の受け止めについて触れていきたい。

「ほとんどの人は帰る」送還を拒む人は「事情がある」

 入管法改正案の目的の1つは、「長期収容の改善」とされている。入管庁の資料によると、強制送還を命じられても送還を拒み続け、難民認定を求めるなどして日本にとどまろうとする外国人がおり、こうした人たちを速やかに本国に帰らせる必要があるという。

 では、現役職員の目から見て、この状況はどう映っているのか。

(大阪入管の現役職員)
「ほとんどの方が帰ります。捕まったらしゃあないなって帰ります。帰れない方は何かあるんですよ、事情が。それはもう個別なんで、言っちゃいけない」

 入管職員が送還を拒む人を5~6人がかりで押さえていて、中には荒々しく見える手段で押さえつけている様子が、SNS上などで拡散されているが、収容者に対して強い口調や実力を行使する場面は、実際にあるのだろうか。

(大阪入管の現役職員)
「もうそういうのをする必要がない。強く言う必要がないので、帰りたい人は帰りますし、帰らない人は帰らない。昔は帰らない人はもう是が非でも帰そうという時代はあったんですけど」
「私ら棒も持ってませんし、拳銃もないですし、素手でやるんですけど、押さえるだけなんですよ。だから殴る蹴るとかももちろんしてないでしょ。殴りたくもないし、蹴りたくもないし。できたらもうそんな暴れんといてほしいんです。映像出てますけど、最近。切り取りかなと思いますよね。実際押さえてるのは押さえていると思います。押さえるしかないんで、暴れたら。わざと暴れる人もいてますから」

 前編では、パワハラ気質な組織体制を語っていた職員。職場のストレスを収容者に“ぶつけている”という実態はないのか。問うてみたところ。

(大阪入管の現役職員)
「良い仕事ができなくなりますよね。ストレスを受けたから収容者にあたるということは無いと思いますけど、収容者のために何かもう一歩できるようなことは、たぶんできなくなっちゃうんじゃないかなと思いますね」

改正案に職員「どうでもいいかな」「帰らない人は帰らない」

 こうした中で、自身の仕事内容にも大きな影響を与えるはずである「入管法改正案」。どう受け止めているのか尋ねると、あっけらかんとした答えが返ってきた。

(大阪入管の現役職員)
「どうでもいいかなって感じです。(現場は)何も変わらないです」
「(強制送還を)やられたくない人は、2回だろうが3回だろうが関係ないんですよ。飛行機の中でワーッって大きな声出せば当然搭乗拒否になりますから、変わらないです。入管法の改正になって3回目(の難民申請)以降は相当な理由、あろうがなかろうが帰らない人は帰りません。抵抗しますよ。抵抗するだけの理由があるんですよ、本人には。個人によって違います。背負っているものも違いますから。でも帰りたくない人は帰らないです」

 また、大きな改正点の1つ、収容者を仮放免する際に本人を監督する「監理人」制度についても、冷ややかな反応だ。

(大阪入管の現役職員)
「入管としては、もう収容が長引くのは叩かれるからその人に押し付けてしまえ的なところじゃないんですか。押し付けたところでということですよね」

「政財界の圧」…「出」だけでなく「入」も見るべき

 法改正しても、何ら根本的な解決にはならないと見込む職員。では、日本の入管政策はどう舵を切ればよいのだろうか。現役職員は「外国人の移民政策とセットで考える必要がある」と自身の考えを次のように話してくれた。

(大阪入管の現役職員)
「ベトナムの難民の定住センターを作ったときから、今も刑務所出たり入ったりする方もいれば、ものすごく頑張ってる人、二極化してますよね。その後バブル期、たくさんの人を入れましたけど、バブルが終わったと同時に、企業はバンバン切っていって、もう厄介払いですよね」
「都合が悪くなれば、景気悪くなれば、その人たちから切られていくわけですよ。日本人、外国人に限らず、やっぱり弱い人が切られていくじゃないですか。日本人にはセーフティネットがあり、地縁血縁、どこかに頼るところがありますよね。外国の方は頼るところが少ないです。そしたら、犯罪に行く人だっていますよね。」
「(一方で、)今技能実習制度をやってますけど、月に5万とか6万の手当があるわけですよ。これを一生懸命やっている人もおれば、一緒に来た人が逃げて、すぐ隣の居酒屋で働けば、月30万もらえるわけですよ。だからギャンブルですよね、(逃げれば)捕まりますよ、(逃げなければ)捕まりませんよ。(でも)うまくやれば全然違う(収入の)額になるんですよ。うまくいく人もたくさんいますから、そっちに流れる人が多いのは仕方ないですよね」

技能実習制度は、日本での待遇の悪さがこれまでも問題視されている。待遇の悪さから犯罪に手を染めてしまう技能実習生も後を絶たないが、待遇の改善なく「正規の在留資格で生活しなさい」という政府。こうした状況を、職員はこう表現した。

「これは入管の政策ですけど、政財界の圧ですよね」

「入管に洗脳」とつぶやく職員 これからの入管の在り方は

 約2時間のインタビュー取材で語られたのは、これまであまり表に出ることの無かった、職員の苦悩だった。もしも、こうした現場の意見が、入管法改正案の審理の場に少しでも出ていたら。公にすることができない話もあることは重々理解した上で、入管庁にはさらに積極的な情報発信が必要だったはずだ。その上で、賛成派・反対派お互いがきちんと耳を傾けて、改正案の審議をもっと尽くす必要があったに違いない。

 ただ、入管庁はあくまで「出入りを管理する」役所である。現役職員から語られる意見も、「管理する」立場から見たものである。そこを念頭に置いて考える必要はあるだろう。

 取材後、男性職員はこう私につぶやいた。

 「私も入管に洗脳されていますよね」

2023年06月11日(日)現在の情報です

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