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「あの目を見て、命なので、受け入れがたい」乳牛を食肉処理すれば補助金...減産方針に酪農家困惑「牛乳輸入は減らせない?」国に聞いてみると

2023年02月28日(火)放送

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 北海道のとある牧場では今、毎日1.75トンの生乳を廃棄していて、その量は金額にして17万円です。背景にあるのはコロナ禍に端を発した生乳余り。さらにエサ代も高騰しています。そんな中、国が推奨していたからこそ『ロボット牛舎』で事業を拡大したのに、一転しての減産方針で苦悩する関西の牧場を取材しました。

150頭の牛を飼育する京都の牧場

 京都府南丹市にある「谷牧場」。夜が明ける前から牧場の1日は始まります。
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 ここでは約150頭の牛を飼育していて、早朝からすでに慌ただしい様子を見せていました。
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 従業員2人で手際よく搾乳をしていきます。約3時間のこの作業は1日に2回行われます。
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 (谷牧場 谷学さん)
 「(搾乳量は)1頭で1日に平均30kg。(牧場全体で)あわせて約4トン出荷しています。牛は1日2回搾らないと乳房炎という病気になっちゃうので、必ず1日2回、朝・晩を365日。それは必ずですね」
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 搾乳のほかにも、合間を縫って寝床の掃除や牛の体調チェックなど、世話は1日も欠かせません。

エサ代高騰・需要減少「この情勢が5年続いたら残れる人は少ない」

 そんな中で今、頭を悩ませているのがエサ代の高騰です。ロシアのウクライナ侵攻による物流コストの増加や円安の影響でエサ代は約1.5倍に。光熱費も高騰するなど、苦しい経営を迫られています。

 (谷牧場 谷学さん)
 「一番の問題は円安によるエサ高。草食動物なのでしっかりとお腹いっぱい食べさせてやるというのは牛の健康を維持する上では必須なんです」

 エサ代の高騰に加えて、さらに経営を圧迫しているのが生乳の需要減少です。新型コロナウイルスで休校が相次ぎ学校給食の回数が減ったことや、飲食店などでの消費量も減り、供給が需要を大きく上回りました。
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 余った生乳は、乳業メーカーが保存のきく脱脂粉乳にして調整していますが、農林水産省の統計によりますと、2021年度はその在庫が約9万8000トンと過去最高の水準になったのです。

 (谷牧場 谷学さん)
 「このままの情勢が5年続いたら、たぶん酪農業界に残れる人は数少ないと思います」
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 今年2月14日には、全国から集まった150人以上の酪農家らが東京・永田町で集会を開き、国に窮状を訴えました。

 (北海道の酪農家)
 「廃棄は罪です。やっちゃいけません。ただ(引き下げられた)生産目標のためにやっているに過ぎないんです。今、灯が消えようとしている酪農家を何とか支えていただきたい」
 (千葉県の酪農家)
 「自分の足場もままならない、そんな状況で、仲間がゆっくりと奈落に落ちてゆくさまを見ていても助けられないんです。それどころか自分がまだ続けられることに安堵してしまうんです。何なんですか、この地獄は」

一方で年間13万トン超を海外から輸入

 国内での在庫が増えている一方で、国は1993年に妥結した協定に基き、毎年度13万7000トン(生乳換算)の乳製品を海外から輸入し続けています。

 これに専門家は『国内の生産量を減らす前にまず輸入量を減らすべきだ』と指摘します。

 (東京大学・大学院(農業経済学) 鈴木宣弘教授)
 「輸入を減らせばいいわけですよ。何が国際的な信頼関係ですか。このように14万トンもの減産を北海道だけで要請されて、『牛を殺せ』『牛乳を捨てろ』と言いながら、14万トンを無理やりに、やらなくてもいいものを輸入しているんですね。海外の値段の方が高くなっているんですよ」

輸入量は減らせない?国の担当者に直接聞いてみると

 農家から悲痛な声が上がる中、国は3月1日に新たな政策をスタートさせます。在庫対策のため、酪農家が生産抑制に協力して乳牛を早期に食肉へと処理した場合、1頭につき15万円の補助金を交付するというものです。
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 (農林水産省・畜産局・牛乳乳製品課 大熊規義課長)
 「大切に育ててきた牛を減らさないといけないというのは非常に苦渋の決断だと十分共感しているところでございます。当面、今の生乳需給の緩和に対する支援ということで、そこはご理解いただきたいと思っております。(Q輸入量を減らすことはできない?)13万7000トンというのは、WTO(世界貿易機関)で約束した数量でございまして。改めて変えようとすれば全加盟国の合意を得る必要があるということで、事実上かなり困難ではないかというふうに考えております」

これまでは『正反対の政策』牛の増頭・牛舎拡充に補助金

 生産の抑制を進める一方、国はこれまで正反対の政策を行っていました。2014年にバターが不足したことから、国は生乳生産量の引き上げを推奨。牛を増やすことや牛舎の拡充などに対して補助金を交付していました。

 京都の酪農家・谷さんも、この補助制度を利用して事業を拡大した1人です。

 (谷牧場 谷学さん)
 「去年5月に完成して稼働している『ロボット牛舎』です」

 24時間稼働するロボット牛舎。牛に取り付けられたセンサーで個体を識別して、搾乳のタイミングになるとゲートが開き、搾乳機に牛を誘導。自動的に搾乳ができるのです。自動化により、頭数を増やしても少ない人員で効率的に牛の飼育や搾乳ができるようになりました。
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 (谷牧場 谷学さん)
 「ここの牛舎全体で2億円くらい。うち9000万円弱くらいが助成金です。(Q残りの約1億円は?)借金ですね。今は貯金を切り崩しながら返しています」

机の上で簡単に『頭数減らせば牛乳減る』は酪農家としては受け入れがたい

 返済を抱える中での増産から減産へという突然の方針転換。京都府では現状、生産抑制を回避できそうだといいますが、政府の方針に谷さんは『はしごを外されたようだ』と困惑しています。

 (谷牧場 谷学さん)
 「(牛の)あの目を見て、国の政策で『淘汰を推奨していますよ』と言われても、やっぱり命なので。机の上で鉛筆をなめて簡単に『頭数を減らしたら牛乳減るね』とか『また足りなくなったら頭数を増やそうね』とか、そういうのはちょっと酪農家としては受け入れがたい」

 二転三転する政策に翻弄される酪農家たち。3月1日に始まる減産政策で酪農業界の未来はどう進んでいくのでしょうか。

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