東京・三鷹に小学生を中心に高校生まで400人が通う“勉強を教えない”塾がある。受験勉強も成績アップも狙わない、ただ子どもの好奇心に火をつけることのみをポリシーとしている「探究学舎」には、春夏冬の特別講座ともなると全国各地、さらには海外からも子どもが通ってくる。一体何が彼らの心をつかむのか。3月17日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、代表を務める宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)に密着し、子どもを虜にする魔法の授業の秘密を聞いた。
成績アップや受験合格は一切無視!「目指すは教育のディズニーランド」
宝槻が代表を務める「探究学舎」のポリシーは驚く程明快だ。
算数や国語などの教科は教えないし、受験勉強も成績アップも狙わない。ただ、子どもの好奇心に火をつけることのみを目的とし、6人の講師たちが独自に作り上げた「戦国英雄編」「人類進化編」「宇宙編」「経済金融編」などのカリキュラムでひと枠90分の授業を行っている。
(塾代表・宝槻泰伸)
「成績とか合格とかを一切無視して、子どもたちの"やりたい""知りたい"好奇心に火をつける。教育のディズニーランドを目指しています」
このところ、文科省や経産省の専門家と並んで教育の未来を考えるシンポジウムの講演を依頼されることも増えて来た宝槻。常識を打ち破るような指導法は、同業者からも注目の的となっている。
(学習塾経営者)
「学力を上げるとか受験で成功することがその後の人生にどれだけ意味のあることなのか我々も疑問を持っています。能力開発ではなく興味開発という言葉が胸に刺さりました」
3000人が熱狂する魔法の授業に潜入!
春夏冬の特別授業ともなると全国から3000人もが集まる「探究学舎」。教室にはお祭りのような熱気と興奮が渦巻いていた。
子ども「静岡から来ました!」
子ども「青森から来ました。こんな塾があったらいいなぁと思ってたので...」
子ども「誕生日プレゼントにこの塾の授業受けたいとお願いした」
この日の授業のテーマは「元素」
聞くだけで頭が痛くなる大人の方も多いかも知れないが、宝槻が最初に子どもたちに与えたミッションは、「カルタ取り」だった。
宝槻が出すヒントから当てはまる元素を選ぶのだが、ゲーム感覚で楽しめるとあって子供たちのテンションは最高潮に。しかし、これはあくまでウォーミングアップに過ぎず、真骨頂は盛り上がった後だった。
(宝槻)「名付けて~タララン♪分子を作ってみようー!イエーイ!!」
子どもたちに配布されたのは穴の開いた小さなボールと棒。原子に見立てたボールを棒で繋いでいき「化学式C6H6(ベンゼン)の分子構造」の模型を作り上げる。
(宝槻)「行くぞ!5分だぞ!」
C6H6は炭素原子6つと水素原子6つが結合してできている。
合計12個のボールを棒で繋いだ模型を作ることで、分子構造が直感的に理解できるという。
2人の女の子が手を挙げた。答えが分かったようだ。
宝槻が駆け寄って確認すると...
(宝槻)「これは美しくない!もっと美しい形になる方法を探して」
不正解。2人はがっかりした様子だが"美しい"とは一体どういうことなのかと自ら考え始める。
この"美しいかどうか"というヒントこそが、宝槻の真骨頂だろう。
ようやく1人が正しい形にたどりつく。
(宝槻)「これが正解!どう?雪の結晶みたいで美しいでしょ?美しいと思う人~!」(生徒)「ハーイ!!」
元素が作る分子構造は美しい。そのことを子どもたちに体感させると、宝槻のトークは一気に熱を帯びていく。
(宝槻)
「皆さんが毎晩夜空で見ている無数の星々の光は、実は"元素"を作り出す時の光なんです。星たちは一秒も休むことなく星を作り出している。だからあの輝きは元素を作り出す"努力の輝き"なんです。
そうやって星たちが生み出した元素が地球にやってきて、その力を借りて私たちは生きている。言うなれば、私たちは"星の子供"ってことなんです」
(子ども)「すごいなー」
壮大な元素の物語を肌で感じ、子どもたちの目も光り輝く。難しいテーマでも、いざない方ひとつで好奇心の種を撒くことができると宝槻は言う。
父親の家庭教育で3兄弟は京都大学へ進学
1981年に東京で生まれた宝槻は3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもとに育った。学校になじめずに高校を中退したが、父親独自の教育法で京都大学に合格。同様にして弟2人も京大に進んだ。
卒業後、受験や成績アップを請け負う学習塾を開くが、ふと立ち止まり自問したそうだ。
(宝槻)
「俺、いつまで"勉強"教えるんだろう?って。究極的に言うと、勉強で成果が出ることに対して自分は関心が無いってことに気づいたんですよ。目の前の子が『東大行きました!』って言っても『うん、良かったね』としか思えない。その一方で、小学生たちが"信長"とか"宇宙"とかの授業の方が面白いという声を聞いて、今に続くビジョンが音を立てて形になっていったんです」
盛り上がった後に何が残るか?
「探究学舎」の授業は口コミで人気に火がつき、最近では希望者の求めに応えてオンライン授業もスタートした。
だが、授業の在り方については試行錯誤を繰り返しており、この日も保護者や塾に賛同する外部スタッフを交えての反省会を行っていた。
(外部スタッフ)
「祭りのようにわぁっと盛り上がるのはいいんですけど、終わった後に結局、何を学んだのかな?とならないように。喧騒が終わった後に何かを深めることができれば良いのですが...」
「ちょっと品が無いと取られる可能性もある。劇的なほうに煽り過ぎてる感がある」
賛否両論があるのは勿論わかっている。だが、まずは「面白そうだ」という興味さえ持たせれば、子どもは自分の力で知識や理解を深めていくと宝槻は信じている。
例えば、半年前から塾に通っている小学1年生の女の子は、「元素編」の授業を受けて以来、物理学に恋してしまった。
(子ども)
「素粒子全部言えるよ!余裕で言える!アップクォーク ダウンクォーク チャームクォーク ストレンジクォーク~~(略)~~グルーオン ヒッグス粒子 重粒子!!」
驚く大人たちを尻目に女の子は見事な"高速暗唱"を披露した。
別の男の子は「戦国英雄編」の授業をきっかけに日本史に目覚め、壮大な絵巻物のような研究ノートを作っては宝槻に見せに来る。
塾はまだ今年で8年目。ここで学んだ少年少女は一体、どんな大人になるのだろうか。「星の子」たちの未来の可能性は無限に広がっている。
「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。
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