“不眠大国・日本”を救え!
眠りの常識を壊し、大きな謎に迫る
「世界で最も寝ていない国」日本に、世界トップレベルの睡眠研究所がある。
国際統合睡眠医科学研究機構、通称IIIS(トリプルアイエス)。柳沢正史はここの機構長だ。100人を超える研究者が、あらゆる角度から睡眠の最新研究を行っている。
研究室には、「柳沢と1分でも話したい」と分刻みでアポイントが入ってくる。所属学生だけでなく、小学生から海外の研究者まで。最近はメディア出演の依頼も多い。昨年「ノーベル賞の登竜門」と言われる2つの賞をとってからさらに増えているが、秘書は「睡眠に関することはなんでも引き受けちゃうんです」と笑う。
忙しくするのには理由があった。アメリカから帰ってきて、"不眠大国・日本"の現状を目の当たりにし、本気でまずいと感じた。「寝なくてもただ生きることは可能。でもこのままでは本当のクリエイティブは日本から生まれない」。そのために取り組んでいるのが、「睡眠議連」への参加だ。超党派の国会議員、厚労省など官僚に睡眠の重要性を訴えている。柳沢は、睡眠不足は社会的な問題だという。国の仕組みが変わらなければ、みんな十分に寝られる国にならない。
幼少期、"手がつけられない子"だったという。落ち着きがなく、授業も座って受けられない。ただ、夢中になったことにはすさまじい集中力を発揮する。小川の流れや、精米機など、気になるものを日が暮れるまで飽きずに眺めていた。「何が起きているんだろう?」それが、今も変わらぬ原点。
睡眠によくないと自分で言っておきながら、お酒も好き、コーヒーも好き。YouTubeを延々と見ることも。曰く「良い睡眠をとりたいなら減点方式で考える。睡眠を悪くする要因は沢山知られていて、それを一つ一つ取り除くことはできるけど、誰でもこうすれば睡眠が良くなる、という万人に通用する方法は殆ど存在しない」。
「研究者になりたい」という小学生からの夢を叶え、30代にして"オレキシン"の発見という偉業を成し遂げた。柳沢の発見のおかげで、今では多くのナルコレプシー患者や不眠症患者を助ける治療薬ができた。世界を変えた柳沢だが、「なぜ人は眠るのか?」という謎に、実はまだ答えられていないという。番組は、柳沢が強い思いで取り組む最新研究を追う。雑誌サイエンスへの掲載を目指す最新論文。「睡眠とはいったい何か?」大きな謎にまた一歩迫った。
Masashi Yanagizawa
1960年東京都生まれ。64歳。筑波大学の大学院時代、血管収縮因子エンドセリンを発見し、1988年にネイチャー誌に報告。その功績をかわれ、1991年に31歳で渡米。
1998年には神経伝達物質オレキシンを発見。突然、強い眠気に襲われて眠り込んでしまう「ナルコレプシー」という睡眠障害の治療薬に役立ったり、不眠症を改善する薬の実用化に寄与している。テキサス大学にて、24年にわたって研究室を主宰していたが、2012年より日本に軸足を戻し、国際統合睡眠医科学 研究機構(WPI-IIIS)を創設。現在も機構長を務める。2023年には「ノーベル賞の登竜門」と言われる2つの賞、ブレイクスルー賞、クラリベート賞を受賞。
つくばにて医学研究者の妻、義母と同居中。娘が3人いるが、全員アメリカに残ったため、離れて暮らしている。敬虔なクリスチャンで、毎週日曜は教会に通う。趣味はフルート演奏、好きな作曲家はマーラー。将棋はしないが、“観る将“で藤井聡太の大ファン。
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