小江戸と呼ばれる埼玉県川越に、ちょっと変わった猫カフェがある。野良猫、捨て猫たちを保護し、しつけをして人間に慣らし“新たな家族を見つける場”として注目されているのが、保護猫カフェ「ねこかつ」だ。店主は、梅田達也46歳。殺処分される瀬戸際にいる猫たちを引き取り、猫カフェや譲渡会で飼い主探しを行なっており、これまで1000匹もの猫に新たな飼い主を見つけて来たという。5月12日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、事情を抱えた猫たちが新たな家族の一員となる瞬間を追った。
"可哀そう"ではなく"カワイイ"から家族に迎えたい
温かな木目調のインテリアに、柔らかな日差しが注ぐ埼玉県川越市の猫カフェ、"ねこかつ"には様々な事情を抱えた約40匹の猫たちがいる。片方の目が見えない猫もいれば、足の不自由な猫も...その多くは、梅田が自治体から引き取った『保護猫』たちだ。
今や3世帯に1世帯がペットを飼育するという世界でも有数の"ペット大国"日本だが、一方で捨てられるなどして保健所等に収容され、一定期間を過ぎると殺処分される猫は年間約3万5000匹ともいわれている。
梅田の活動は、まずそうした猫たちを引き取りにいくことから始まる。
この日は定期的に通っている「茨城県動物指導センター」を訪れ14匹を引き取った。
引き取った猫はまず動物病院に連れて行く。健康状態をチェックし、不妊、去勢などの処置に感染症の予防接種も欠かせない。
(病院スタッフ)「きょうは合計で10万7千円です」
店の売り上げの大半は病院代に消えるという。
次に猫を連れて行くのは梅田が「シェルター」と呼ぶ猫のために借りている家だ。ここで、ボランティアのスタッフと共にトイレのしつけをし、人に慣れさせる。
猫が警戒心を解き、人間を好きになって初めて"猫カフェデビュー"となるのだ。
梅田には、猫を譲るにあたって1つの思いがあった。
(梅田)
「(飼い主には)この猫たちが可哀そうだから家族に迎えたいと思われるよりも、カワイイから、こんなに素敵だからを家族に迎えたいと思って欲しい」
片目・片足の猫たちが猫カフェにいる理由
梅田には気になる猫がいた。
センターから引き取った隻眼の黒猫、ゆんだ。
(梅田さん)
「引き取った時から片目が見えなかった。風邪で目がつぶれたんだと思います。
当初は片目の猫や片足の猫をカフェに入れていいものかどうか悩みました。
店に来た人が気持ちが重くなっちゃうんじゃないかとか・・・。
でもこういう子たちを皆に見て欲しいと思ったんです」
梅田の思いが届いたのか、店は盛況だ。
休日ともなると平均して70人~80人の客が訪れ、店に笑顔がこぼれる。
深夜0時すぎ。閉店後の店に梅田の姿があった。母親のいない赤ちゃん猫に2時間おきにミルクをやるためだった。
一通り仕事が終わるとそのまま床にごろり。猫たちと共に、店で寝泊まりをするのもいつものことだ。
孤独な子ども時代、猫だけがそばにいてくれた
思えば、幼いころから常に猫と暮らして来たという梅田。
両親の関係がうまくいかず、ひとりっ子だった彼のそばにいてくれたのは猫だけだったそうだ。
(梅田)
「赤ちゃんの僕がギャーギャー泣いてると、猫がそばにきておっぱいあげておとなしくさせてたらしいんですね。それぐらいずっと猫がいる環境で育ちました」
勤めていた会社を辞め、保護猫カフェ「ねこかつ」を開いたのは2013年のこと。物件探しからリフォームまで全て1人で行い開店にこぎつけた。
IKEAで40匹の保護猫譲渡会
カフェでの活動に加えて、梅田は、百貨店やデパート、ホームセンターなど、これまで考えられなかったような場所や企業を巻き込んでの国内最大級の保護猫の譲渡会も行なっている。
この日の会場は北欧家具のIKEA。休日には若いファミリー層が集まるという点に目をつけたという。1匹でも多くの猫に家族が出来るように、猫カフェやシェルターの猫、外で保護された猫も含めおよそ40匹が集められた。
(梅田)
「ご高齢の方がもう飼い切れないと言うので茨城のセンターに入りました」
梅田は、訪れる人たちへ、猫の"事情"を包み隠さず話すようにしている。その上で、譲渡が決まれば、かかった医療費だけをもらう。
隻眼の黒猫ゆんが引き取られた日
新しい飼い主が決まり実際に猫を譲渡する時は、どんなに遠くても梅田自らが飼い主のもとへ届けるようにしている。
この日はあの隻眼の黒猫、ゆんが新しい飼い主のもとへ行く。
譲渡には2週間のお試し期間を設けており、猫との「相性」を確認できるようにしている。
(梅田さん)「よろしくお願いします」
実はゆん、一度引き取り手の家とうまくいかずに戻って来た経験がある。
ケージから出した途端、家具の裏側に逃げ込んでしまった。
(新たな飼い主)「怖いのかな・・」
新しい飼い主は、ゆんが片目なことを気にしないのだろうか。
(飼い主)
「むしろ片目が不自由なのに一生懸命生きているってところに勇気をもらって感動したんです。もともと黒くて可愛い子だなと思ってたんですけどね」
2週間後、すっかり新しい家に馴染んだゆんの写真が届いた。新たに「いろり」と命名されたそうだ。囲炉裏は周りをあたたかくする。
家族の願いが込められた名前だった。
(梅田)
「当然、猫の幸せを願っての活動なのですが、同時に人間が幸せになっていただければこれ以上のことはないと思ってやっています」
さて、この日は生後2か月の子猫たちがカフェデビュー。すっかり一人前だ。
梅田が救った猫たちが、今日も誰かの心を救っていく。
「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。
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