MBS 毎日放送

2019年02月10日 10時30分 公開

細腕一つで男社会を生き抜く"世界ナンバー1女医"の生き方

毎年10万人を超える人が命を落とす脳卒中。特に死亡率が高い「くも膜下出血」を未然に防ぐスペシャリストとして世界的に注目されているのが、愛知県にある藤田医科大学ばんたね病院の脳神経外科医、加藤庸子(66)だ。2006年に大学病院の脳神経外科において日本初の女性教授となり、これまでに約3000例の手術という世界の女性脳外科医の中でもナンバー1の実績を持つ。ドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、「医学史上最高の女性医師の一人」と海外でも評価が高い凄腕女医の素顔に迫る。

ユーモアと辛らつさを併せ持つ「ゴッドマザー」

背中は丸く、少々小柄なその後ろ姿からスーパードクターを思わせる雰囲気は、失礼ながら感じられない。脳神経外科医、加藤庸子。ユーモアもあれば、辛らつさも併せ持つ。この日、手術前に突然話しかけた相手は、研修医だった。

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(加藤)「あなたは不正入学してない?」
(研修医)「してないです(笑)」
(加藤)「女の方が頭がいいからまともにやったら8割女になっちゃうよね。でも良い医者になるかどうかはまた別の話なんだよね。難しいところだけど......」

まるで母親のようであり教育者のようでもある。医師たちの控室では散らかったごみを片付けて回り、患者たちとは毎日ラジオ体操を欠かさない。いつからか加藤は「ゴッドマザー」と呼ばれていた。

これまでに手掛けた手術は約3000例、女性の脳神経外科医としては世界一の実績だ。
アジア脳神経外科学会会長や世界脳神経外科連盟役員を歴任し、まさに脳神経外科医として世界の中心にいる医者だ。

(世界脳神経外科連盟 マジド・サミイ元会長)
「彼女は医学史上最高の女性医師の1人ですよ」

海外での評価も高く、この道の世界的権威として他ならない存在だ。

口は幾分悪いが、腕はすこぶるいい

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大学病院に勤めて40年の加藤のもとには、評判を聞きつけ全国から患者が訪れる。
この日、青森県からやってきたのは患者の鈴木孝子さん。二人の子供を持つ母親でもある彼女の左目奥の脳の血管には、大小2つのコブがあった。大きい方は4ミリの脳動脈瘤。いつ破裂しても、おかしくない状態と知り鈴木さんは表情を曇らせる。
すると加藤はおもむろに「中性脂肪」のパンフレットを手に取り、傍らに付き添う夫の腹を見ながらにこう話しかけた。

(加藤)「中性脂肪どうですか、お父さん。次はあなたですね」
(鈴木さん)「本当に! あはははは」

不安げだった鈴木さんに笑みがこぼれ、診察室は一気にリラックスムードに。
加藤の治療はもう始まっているのだ。

クモ膜下出血を未然に防ぐ世界一の「クリッピング」手術

鈴木さんの手術がスタートした。髪の生え際を切開し、4cm四方の穴から目の奥にある動脈瘤を目指す。加藤は、動脈瘤の根元をチタン製のクリップで挟んで破裂を未然に防ぐ「クリッピング術」の第一人者だ。

(加藤)「ハサミちょうだい」

器具を医師に渡す「器械出し」をする看護師の手がおぼつかない。

(加藤)「慌てなくていいから、ゆっくりやって...ちょっと怖いんだけど。慌てると危ないわ」

加藤は容赦無く器械出しの看護師を交替させた。
全ては患者のため。そこに迷いは一切ない。

手術が進み、予想通り大小2つのコブが確認できたが、そこから新たな問題が見つかる。大きい方のコブに別の血管が癒着しているため、それを一緒にクリップしてしまうと血流が止まり何らかの障害が生まれる可能性があるというのだ。

加藤は、1ミリに満たない血管を動脈瘤から少しずつ慎重に剥がしていく。患部の状況によって使い分けるため、130種類を超えるチタン製のクリップを用意している。軽くて硬く錆びないチタンは、体内に残したままにできるのが特徴だ。
コブが破裂しないように、ゆっくり慎重にクリップを閉じて行き・・・・・手術成功だ。

手術から、1週間。鈴木さんは頭の中に2つもクリップが入っているなど想像もつかないほど穏やかな表情で、青森で帰りを待ちわびる子供たちのもとに帰っていった。

逆風の中でも「辞めないこと、諦めないことが大事」

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現在加藤は、92歳になる母親と愛犬レディーと暮らしている。
独身の加藤にとってレディーは大事なパートナーである。高齢の母親の面倒を見ながら現在も週に3回以上の手術をこなす日々だ。

(加藤)「性格がキツイところが(母と)似てる。(私は)お嫁にもいってなくてどうしようもないよな(笑)」

母は大学の先生で父は開業医。その背中を見て医者を志した。脳神経外科を勧められたのは『健康そうだから』。理屈はよくわからなかったが、手先が器用な加藤に緻密さを必要とするこの仕事は向いていた。しかし、女性の脳神経外科医は当時殆どおらず、逆風は強かった。

(加藤)「女性のあなたには手術をしてほしくないと言われたこともある。でも辞めないこと、諦めない事が大事ですよ」

そんな自らの経験を教訓に、女性医師が結婚や出産後も仕事を続けられる環境を整えようと日本脳神経外科女医会の発足などにも尽力している。激務のかたわら、後進の育成にも精力的に動き回る姿は若い女医や看護師たちにとっての鑑でもあるという。

(岡山大学病院総合内科 片山仁美医師)「すごい励みになるし、背中を押してくれる存在です」

ウズベキスタンで現地の医師に手術指導

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2018年冬、加藤はウズベキスタンの病院に招かれた。現地では講義のみならず、実際に脳動脈瘤の患者の手術をする予定が組まれていた。
今、脳神経外科の分野で加藤の手術を直接見て学ぶことに勝る勉強は無いと言われており、こうした講義を年に20か国ほどで行っている。

手術の模様は院内に中継され、現地の医療スタッフがその一挙手一投足を見逃すまいと必死でモニターを見つめる。

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(加藤)
「みなさん見えました?クリップ用意して」

患者は、数カ月前に一度くも膜下出血を起こしており、現在も2ミリを超える脳動脈瘤がある危険な状態だ。ちょっとした刺激で破裂する恐れがあり、決して簡単ではない手術だったが、加藤にとっては、3000例のうちのひとつ。
手術を終え「バンザイ。紅茶飲もうか」と手をあげる加藤からは、余裕すら感じられた。

こうした途上国への支援の殆どを、加藤は手弁当で行なっている。

日本に帰国すると、今度はかつての患者たちが待ち構えていた。加藤に命を救われた人たちが、定期的に慰労会を開いているのだ。

(患者)「先生ありがとうございます。命を助けていただきました」
(加藤)「ちょっと大げさです」

中には、涙ながらに感謝の気持ちを述べる人も。だがここでも加藤は気を回し、
「ネギとかどうですか?食べなきゃ」などとユーモアを交えながら患者をいたわる。
そんな一面も、ゴットマザーと呼ばれる所以なのだろう。

そして今日も、加藤は誰かの命を救っている。その後ろ姿から、スーパードクターの雰囲気など感じさせることなく...。

「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。

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