坊主頭のコワモテ絵本作家の妄想力がすごい。大人も「クセになる」ヨシタケ本が大ブーム!

情熱大陸を読む

2018/10/25 17:15

今年、全国12万人の小学生が選んだ「"こどもの本"総選挙」で10位以内に4冊もの作品がランクインし、今、絵本好きの間で一大ブームを巻き起こしているのが絵本作家のヨシタケシンスケ。40歳でデビューという遅咲きだが、妄想を交えたちょっぴりおかしな発想と癒し感たっぷりの絵が子供だけでなく大人も「クセになる」と話題で、出す本全てが記録的な売り上げを達成している。10月21日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では8ヶ月間にわたって密着取材を行い、創作の根っこにあるというネガティブな感情の原点や、子育ての中で湧くインスピレーションを絵本にするまでの舞台裏を覗いた。

身長181センチ、坊主頭にコワモテの素顔は人見知りで極度の心配性!?

2018年3月、取材は自宅の仕事場からはじまった。机に向かうヨシタケを撮影していると当人がなにやら不安そうな顔をしながら、おもむろにカメラマンに尋ね出した。

(ヨシタケ)
「テ、テ、テープですよね」

どうやら、取材カメラのテープが切れるタイミングが気になって仕方ないらしい。

(ヨシタケ)
「丁度いい感じのこと喋ってるなオレってなった瞬間に、テープ切れるかもって思うんですよね。常に最悪のことしか思い浮かばない。これもう心の癖なので・・・(笑)」

昔から恥ずかしがり屋で人見知り、おまけにかなりの心配性だ。
誰かと待ち合わせをすれば、約束の時間よりずっと早く到着しないと落ち着かない。

40歳のときに『りんごかもしれない』で絵本作家としてデビューして6年、発表した12冊はどれも高く評価され、今や"大ヒットメーカー""児童書業界を牽引する存在"と言われる大人気作家となったヨシタケだが、行く先々ではやたらに腰が低く、常に181cmの長身は猫背気味だ。

大ヒット絵本の着想は次男のおもらし。家族との日常こそインスピレーションの宝庫

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この日は、5月に発売された『おしっこちょっぴりもれたろう』(PHP研究所)の印刷前の最終チェックをしていた。おしっこをちょっぴりもらしてお母さんに怒られてばかりの男の子を描いた作品で、モデルはヨシタケの次男だそうだ。

(ヨシタケ)
「トイレ行って帰ってきたらジワーーッと。それを見て嫁が心底ため息をついていて思いついた話です」

1973年神奈川県茅ヶ崎の生まれ。妻と育ち盛りの2人の男子と4人暮らしをしている。外食は滅多にせず、毎朝毎晩家族揃って食卓を囲む。ヨシタケにとっては、こうした日常こそが発想の原点でありインスピレーションの宝庫らしい。
例えば、考えごとをする時、子供はつい鼻をほじるものだ。「一体その理由はなんだろう」というテーマで1冊描いたこともある。

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仕事部屋で新作のラフスケッチを見せてもらうと、その小ささに驚かされた。一般的に、絵本は大きく描かれた原画を小さくして作られるが、ヨシタケの場合は原画が小さすぎるため、パソコンに取り込んで逆に拡大して絵本にするというのだ。

巨大な手から生み出される小さな小さな原画。しかも、線は恐ろしく薄い。
訳を尋ねると、大学を卒業後、半年だけ経験したサラリーマン生活が関係しているらしい。どうやら当時、仕事のストレスが溜まるたび、周囲に気がつかれないようにこっそり小さなイラストを描いて発散していたそうだ。そのせいで、大きな絵が描けなくなってしまったという。書くのは妄想やら、ふと気づいたこと。毎日のように書き溜めたイラストは7000枚を超え、絵本作家となった今、大切な創作メモとなっている。

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そして出来上がるとまず家族に見せる。妻と二人の息子が全員集合して新作絵本を読み感想を伝え合うのがヨシタケ家の恒例行事だという。

新作は「憎む本」妄想から絵本が生み出される瞬間

2018年7月、ヨシタケは少々厄介な企画を抱えて出版社に向かった。ラフスケッチには、「にくむ本」と書かれていた。

生きていれば誰だって大嫌いだと感じる相手に出会うことがある。そんな人を嫌う気持ち、憎む気持ちを肯定する本を作りたい。しかし、それを絵本にするとなると...?

今回は大人向けの絵物語にしなければ成り立たないと当初のヨシタケは思い描いていた。だが、編集者からは真逆の意見が出る。

《困難なテーマだからこそ子供向けの絵本で表現してみませんか》

改めて、表現の方法を模索し始めたヨシタケ。答えが見つけられずに堂々巡りをする中で、一家はキャンピングカーを借りて、久々の休日を過ごすことに。仕事からひととき解放された家族との時間。リラックスモードで小さなスケッチブックに筆を走らせていると・・・天啓はこんな時に降ってくるものだ。

「あ・・・個人を憎むのではなく、その個人を動かしている何かを憎めばいいんじゃない? 憎しみの矛先をちょっと変えればいいんだ。そうすれば絵本にしても大丈夫かもしれない」

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最初の提案からひと月あまり、アイデアを練り直したラフスケッチを手に、再び出版社を訪れた。タイトルは『ころべばいいのに』。

主人公の女の子には嫌いで嫌いでたまらない男の子がいる。
しょっちゅうイヤなことばかり仕掛けてくるアイツ...
あるときふとこう考える。
ひょっとしたら影でアイツを操っている「何か」がいるのかも。
その「何か」がアイツに嫌がらせをさせて、彼女のため息や怒りや悲しみをお金に換えているに違いない...だったらめげないことが仕返しだ!

必死のプレゼンの結果、企画にはゴーサインが出た。でも、まだ安心はできない。なにせ編集者は厳しいのだ。

ある日、カフェでスケッチに勤しむヨシタケがふっと顔を上げ、ワクワクが止まらない様子で、スタッフに話しかけてきた。

(ヨシタケ)
「新しい絵本の企画ができましたよ。うふふ。あのね、どんなことを考えたかというと・・・」

イラストを交えながら、取材ディレクターを前に茶目っ気たっぷりで話し始める。

「"インタビュー星人"っていうのが出てきてね。地球人に密着取材し、根掘り葉掘り聞くんですよ。なのに終わって出来上がったら全部火の中に捨てちゃうんです。やってきたこと全部お蔵入り。そうすると撮った側も撮られた側も嫌な気分になりますよね。それって、なんで嫌なんだろうと考えると、地球人は"残す"ということに価値を置いているということがわかるんです。そうすると"大事なものって何だろう"というテーマの本が出来るんです」

お見事!ヨシタケ曰く、妄想でストーリーを紡いでいく中で、本の根幹にかかわる部分を発見する瞬間が自分にとって何より大切なんだそうだ。

こうして、絵本作家ヨシタケシンスケは今日もヘンテコなことを考えている。大人も子供も夢中にさせる内気な天才は、これからも豊かな妄想力で私たちを未知の世界に連れて行ってくれるのだろう。

番組終了後、ネットでは「視点と作品大好き!」「おおらかそうだけれど心配性なお人柄にいいお声!」「些細なことも丁寧にすくい上げて大切に扱う感じ。愛だ」など、ヨシタケの世界観に惚れ惚れする声が相次いだ。

「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。

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番組情報

毎週日曜 よる11:00~

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