4年前に世界的なコンクールで2位となり、今やクラシック界のアイドル的存在とも言われるサックス奏者の上野耕平。「サックスといえばジャズ」というイメージを根底から覆し、誰にも真似できない音色を奏でる26歳だ。東京藝大在学中に国内で数々の受賞を重ね22歳でプロデビュー、一見すると順調なキャリアを築いて来たかに見えるが、実は意外にも中学時代は荒れた少年だったという。やんちゃな性格で問題ばかり起こしていたという上野が、9月16日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」で、今の自分だからこそ教えられることがあると中学生たちを熱く指導し、彼らの音色を劇的に変化させていく様子に「感動的な説得力」と賞賛する声が相次いだ。
両親は公務員と保育士。英才教育は受けていない
ジャズのイメージが強いサックスだが、上野が得意とするのはクラシック。より細かい音が多く表現に緻密さが欠かせないクラシックの難曲を演奏するための高度な技術は勿論、上野の魅力は既存の表現にとらわれない独創的な感性にある。世界を驚かせたのは、300年前につくられたバッハの名曲「シャコンヌ」をサックスで吹いたことだった。難易度の高いバイオリンの曲をサックスで...という離れ業で、類い稀な才能を世に知らしめたのだ。
東京藝大を卒業し、様々な音楽賞を受賞してきた経歴だけ見ると、きっと音楽一家に生まれて...と勝手な妄想を抱いてしまう。しかし、意外にも上野の両親は公務員と保育士、いわゆる英才教育は受けていないのだという。
サックスに目覚めたのは8歳のときだった。初めて吹奏楽を聴いた時、サックスの音色に気持ちが揺さぶられたのだという。
野球選手にも憧れたが、プロのサックス奏者になるという決断をしたのが12歳。しかし、中学校に入ると生活が荒れていき通知表は「オール1」。問題を起こして吹奏楽部も強制退部になった。
(母)
「仕事してたら学校から電話がかかって来て、『今度は何やったの』って職場の人から言われたり...」
だが、生活は乱れてもサックスの練習だけはやめなかった。そして様々なコンクールで目を見張るような結果を出し始めその圧倒的なセンスと技術を世に知らしめることになる。思春期時代は部活に所属することなく一匹狼でサックスと向き合い続け、高校2年生から3年生に進級できずに最後の1年間は通信制でやり過ごしながら東京藝術大学だけを受験し見事合格。時が流れ、世界に認められる音楽家となった今だからこそ、自らが持つ音楽へのこだわりを積極的に中高生にこそ伝えたいと話す。
五感を刺激する指導で子どもたちの音が劇的変化
8月、山梨県の音楽祭にやってきた目的は、地元の中学生吹奏楽団と共演するためだった。発表曲は甲子園でおなじみの「アフリカン・シンフォニー」。
上野の指導は、いわゆる「お勉強」から生まれたものでない。まるで五感を刺激するような体感する指導法だ。
(上野)
「アフリカ行ったことある人いる? 俺もないんだけど、でもなんとなくイメージあるじゃん。アスファルトの上で生活しているイメージある? 土の上でしょ?」
「もっと鳴り物が欲しいな。騒がしさが欲しいな。動物がバーってなってるような感じ」
想像力をかきたてるアドバイスに応え、子どもたちの奏でる音は、どんどん自由に、感情的に、進化し始める。
子どもたちの吸収力に感銘を受けたのか、上野はこんな思いを口にした。
「上手くなって欲しいとかじゃなくて、もっと一生音楽と付き合ってって欲しいなって思う。曲の奥深くに入り込めるようになると、音楽は一生の宝になる。一生離れられなくなるって僕は思ってるから。大事にしてること、伝えたいことっていうのはそこですかね」
翌日、上野も中学生吹奏楽団に混ざって本番を迎えた。演奏終了後、万雷の拍手を受けながら上野自身も大きな高揚感に包まれていた。
「みなさん本当に素晴らしい!この楽しさを一生忘れずに一生音楽と付き合っていってくれたら僕もこの上なく幸せです。本当に有難うございました!」
番組終了後、ネットでは「鳥肌がたった」、「音楽への真摯な思いに言葉も出ない」、「サックスってあんな音なの」、「学校生活はダメダメだけど、音楽だけは自分を曲げないで頑張ろう!!!」など、上野の音色やその想いを賞賛するコメントが相次いだ。
「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。
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