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自殺した26歳医師は『100連勤・月200時間超の時間外労働』 1年半以上がたつも病院側から説明はなく...「どうすれば息子の死に向き合う態度をとってくれるのか」遺族が院長らを提訴

特命取材班 スクープ

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 2022年5月、神戸の医療機関に勤める若手医師が過労な勤務の末に自殺した。それから1年半以上がたっているが、病院側から遺族側への説明はいまだにない。詳しい説明を望む遺族らが、今年2月2日に病院側を提訴した。

26歳で命を絶った医師『知らぬ間に一段ずつ階段をのぼっていたみたいです』

 2月2日午後、神妙な面持ちで裁判所を訪れた女性がいる。その腕には最愛の息子の遺影が抱えられていた。
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 高島晨伍さんは2022年5月、26歳という若さで自ら命を絶った。医師の家系に生まれ、父の背中を追って神戸大学医学部に進学。
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 2020年から、地域の総合病院である甲南医療センターで研修医として働き始めた。2022年4月からは、同じ病院の消化器内科で専門的な研修を受ける「専攻医」として勤務していた。
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 「(この白衣は)卒業記念として作ったと思うんですが、これを本人がすごく気に入っていて」

 こう話す、母親の高島淳子さん。4月から1人で患者を担当しはじめた息子の異変を感じ取っていた。
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 (母・淳子さん)「ゴールデンウィークの後ぐらいから、ちょっと不満とか…。拘束時間が長い、そういうことを言っていました」
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 晨伍さんが漏らす不満は徐々に強まっていった。亡くなる前に淳子さんに送られてきたというメールが残っている。

 【メールより】「せなあかんことおおすぎてしにそう ざつようばかり」「もうたおれる」「ほんまに一回休養せな全て壊れるかもしらん」

 淳子さんは亡くなる前の週から晨伍さんの家に毎晩通い、休職を提案した。

 (母・淳子さん)「『もう休職しよう。もうお父さんお母さんが(病院に)言ってあげる』って言ったんですけど、『専攻医一年目なんかで逃げられない』って言いました」
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 そして2022年5月17日。夜に淳子さんが家を訪ねると、部屋で既に亡くなっていた晨伍さんの姿を見つけた。テーブルの上には大量の医学書と遺書が残されていた。

 【遺書より】「知らぬ間に一段ずつ階段を昇っていたみたいです。病院スタッフの皆様 少し無理をするのに限界があったみたいです。何も貢献できていないのにさらに仕事を増やしご迷惑をおかけしてすいません」
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 淳子さんへの思いも綴られていた。

 【遺書より】「お母さんへ 最後まで本当にありがとう。もっといい選択肢はあると思うけど選べなかった。自責の念は持たないで。大好きです」

 (母・淳子さん)「やっぱり私が精神的におかしくなってしまうのを一番心配したと思います。そんな亡くなる前まで私のことを心配してくれて本当に申し訳ないです。本当にぼんくらな親でした」

100連勤・月200時間超の時間外労働 労基署は労災認定

 晨伍さんを自殺に追い込んだのは病院での働き方だったのではないか。遺族の求めに応じて病院は弁護士らによる第三者委員会を立ち上げ、晨伍さんの勤務実態などを調べた。ところが、その結果について「プライバシーの保護」を理由に遺族に説明しなかったという。こうした対応に、自身も医師で病院との窓口になっていた晨伍さんの兄は不信感を抱いている。

 (晨伍さんの兄)「(院長は)通夜以降一度も会ってくれたことはないですし、説明をしてくださったこともなくて、私たち遺族は何も知らされないまま」

 病院から何の説明もない中、遺族は晨伍さんの死について真実が知りたいと労災を申請。西宮労働基準監督署は去年6月、「極度の長時間労働により精神障害を発症し自殺した」として労災認定した。
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 労基署が調べた晨伍さんの「労働時間集計表」を見ると、自殺する前の1か月の時間外労働は207時間50分。過労死ラインとされる100時間を大きく上回る。休みなく100日連続で勤務していたこともわかった。

病院は記者会見で過重労働を否定 院長は「自己研鑽」の言葉を繰り返した

 晨伍さんの死から1年以上がたった去年8月、病院は遺族に説明をしないまま記者会見を開いた。病院のトップ・具英成院長は労基署が認定した過重な労働を真っ向から否定した。

 (具英成院長)「労基署の場合は(タイムカードの)打刻の時間を中心に時間を推定しているんだと思いますけど、病院として過重な労働を負荷していたという認識はございません」

 晨伍さんが長時間病院にいたことは認めたが、2022年4月に実際に残業していたのは30時間30分だと主張した。労基署が認めた200時間とはかけ離れたものだ。
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 では、この差は何だと言うのか。会見の中で繰り返されたのは「自己研鑽(じこけんさん)」という言葉だった。

 自己研鑽とは、自分の能力を磨くために自ら学習をしたり経験を積んだりすることだ。つまり、晨伍さんは学会準備や医学の学習のため、自らの意思で長時間病院に残っていたのだという。また、他の医師の勤務状況についても言及した。

 (具英成院長)「当院では比較的、時間内に仕事を済ませて帰る方が多いんじゃないかと。(自殺は)この病院だから出たという問題かどうかわからないんじゃないでしょうか。私もわかりません」

晨伍さんの自殺前…別の専攻医も過重労働を訴える「このままでは患者さんの命にかかわる」

 しかし、過重労働に苦しんでいたのは晨伍さんだけではなかった。私たちは病院の内部文書を独自に入手した。実は、晨伍さんが自殺する1年前の2021年5月、別の内科の専攻医5人が病院幹部に過重労働を訴え、業務改善を要望していたのだ。

 【内部文書より】「4月の専攻医の平均残業時間は凡そ100時間を超えていたと考えられます。検査漏れも多くなってきており、このままでは患者さんの命に係わると考えられるので業務緩和をよろしくお願いいたします」
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 この時の音声記録も残されている。

 (別の専攻医 ※音声記録より)「実際働いてみると『うっ』て思うところがあり、どうしたらもっと良くなるかなって。業務緩和をよろしくお願いいたします」

 病院幹部は働き方の改善を検討するとしながらも「医師の業務の半分は勉強だ」などと話した。

 (病院幹部 ※音声記録より)「ちょっとだけ言いたいことは、僕らも昔の世代の人間やから意識が違うんやけど、主治医していると『きょうあの人どうなったかな』って見に来たいことってあるやん。主治医として心配、あるいは興味として。自分の入れた薬でカリウムがどれだけ上がっているか下がっているか見たいやん。半分は勉強やん、自分を鍛えるための」

 専攻医らは同じ文書を示して具院長にも掛け合ったが、院長が対策をとった形跡はなく労働環境は変わらなかったという。

労基署が病院の運営法人や院長らを書類送検 記者が院長を直撃取材すると…

 そして去年12月、遺族の刑事告訴を受けた西宮労働基準監督署は、病院の運営法人「甲南会」と具英成院長らを、晨伍さんに規定を超える長時間労働をさせた疑いで書類送検した。

 (晨伍さんの遺影に向かって話す母・淳子さん)「お母さん本当に悪かった。こんな刑事告訴されるような環境の中で働いていることを全然知らなくて」

 (母・淳子さん)「どうして亡くなったのか、ちゃんと向き合って謝罪されることが全ての方のためになることだと思います」

 書類送検を受け、改めて病院に取材を申し込むと、カメラでの対応を拒否。「8月の会見から認識は変わりません」とコメントした。専攻医の過重労働を知っていたのに対策をとってこなかったのではないか。去年12月27日、書類送検された具院長に直接問うた。

 (記者)「書類送検の受け止めは?」
 (具院長)「申し訳ないけれど、すみません。しかるべき時に、またお話しさせてもらいます」
 (記者)「過重労働を院長も把握していたんじゃないかというのは?」
 (具院長)「ノーコメントです」
 (記者)「2021年に専攻医が過重労働を訴えていたが、それについて認識はありましたか?」
 (具院長)「ありません」
 (記者)「ないですか?」
 (具院長)「ええ。記憶にありません」

 質問にほとんど答えることはなく、その場を後にした。

遺族が病院側を提訴「どうすれば甲南医療センターは私たちに向き合ってくれるのでしょうか」

 2月2日午後1時。淳子さんの姿は大阪地方裁判所にあった。淳子さんら遺族は病院の運営法人「甲南会」と具英成院長に対して、過重労働を知っていたのに是正措置をとらなかったため晨伍さんは自殺したとして、2億3000万円あまりの損害賠償を求め提訴した。

 (母・淳子さん)「どうすれば甲南医療センターは私たちに向き合ってくれるのでしょうか。どうすれば晨伍の死に向き合う態度をとってくれるのでしょうか。1人の医師として、1人の人間として問いたいです」

 病院は提訴を受け「訴状の内容について見ていないのでコメントはいたしかねる」としている。

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2024年02月03日(土)現在の情報です

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