2023年11月17日(金)公開
なぜ「立ちんぼ行為」をする?背景にある「ホスト・売り掛け」 ミナミで警察による一斉摘発...売春を行う女性『好きなホストのために捕まるならいい』 どう考える?「買春」側は罰せられない法律
特命取材班 スクープ
夜の街・ミナミがいま抱えている問題、それは「客待ち行為の立ちんぼ」だ。なぜ女性たちは「路上売春」を行うのか。背景には“ホストに貢ぐ人たち”が数多くいた。
ミナミの「立ちんぼ」…多い時は20人ほどが立っていることも
大阪・ミナミ。大阪有数の歓楽街だ。そのすぐ近くに雰囲気が一変する場所がある。
夜10時、その場所を訪ねると…
(記者リポート)「男性が路上に座り込んでいる女性に声をかけました。男性も隣に座り込んで、2人は話をしています」
15人ほどの若い女性がそこには立っている。スマホをみたり、その場に座り込んだりする女性もいる。みな、誰かを待っているようだ。そして…
(記者リポート)「男性と女性が一緒に立ち上がりました。どこかに向かうようです」
声をかけられると、男女2人が夜の街へと姿を消す。
その後、戻ってきた男女が金銭の受け渡しをする姿もみられた。
そこは、道頓堀などの観光スポットからすぐ近くの場所で、多い時には20人ほどが立っているという。女性らは路上で売春の客待ちをするいわゆる「立ちんぼ」で、全国的な問題となっている。
『稼いだお金はホストに』『売り掛けを返すために』
なぜ売春を行うのか。そのうちの1人に話を聞くことができた。和歌山県出身の21歳のAさん。
(記者)「きょうはここには何をしに?」
(Aさん)「お金を稼ぎに」
(記者)「具体的に言うと?」
(Aさん)「立ちんぼ」
(記者)「どういう時に来る?」
(Aさん)「お金に困ったとき。ホストとかですかね」
18歳の時、SNSでホストと知り合ったことがきっかけで、ホストクラブに通い始めたAさん。3年間で使ったお金は約1000万円。路上売春をしてまでホストクラブに通う理由とは…
(Aさん)「メンタルをケアしてくれたりとか。あとは、自分の存在を肯定してくれるとかっていうのが欲しくて。この人がいなくなったら自分壊れちゃうなって思うから。『僕にはあなたが必要だから』っていうのを言葉とか行動とか全てで伝えてくれるのが担当(のホスト)です」
岐阜県出身で21歳のBさん。路上売春する理由は、同じくホスト通いのためだと話す。
(Bさん)「ホストに初めて行ったときは『イケメンいっぱいいる!あーすげー』って感じですね。(ホストにハマったのは)メンタルケアが上手だったからです。自分、メンタルケアしてもらったことなかったんで」
両親が離婚して母親に引き取られたBさん。しかし、再婚相手に性的暴力を加えられて、その後、家を出た。そんな中、唯一心を許せたのがホストだったという。18歳から路上売春をはじめ、稼いだ金はホストにつぎ込んできた。総額は2年間で2400万円にのぼるという。
(Bさん)「ホストに『売り掛け』があって、そこの掛けを返すためにちょっとでも足しになればなと思って」
売り掛けとは、ホストクラブで客の飲食代をホストが立て替え、客がホストに後日支払うシステムのことだ。売り掛けが支払えなくなる女性も珍しくないという。
『客を酔わせて勝手に高い酒を入れて…暗黙の了解みたいな、そういうホストの文化』
ミナミで働く現役ホストは次のように話す。
(現役ホスト)「(Q売り掛けする人って多い?)多いです、結構多いです。最高で僕は90万円、100万円近くくらいですね。(他店では)女の子を酔っぱらわせて、自我がない状態で勝手に(シャンパンなどを)持ってきて、未収(売り掛け)して、じゃあ働けよって感じが多いですね。よくないとは思うんですけど、店がやっぱり儲かるんで、止めずに暗黙の了解みたいな感じはありますね。そういうホストの文化」
(現役ホスト)「売り掛けがあるから頑張る女の子もいたりするんで。売り掛けしてしまったから仕事頑張ろうみたいな」
自身の収入で支払える金額以上の売り掛けを負い、売春などに走る若い女性。近年、問題視されていて、国会でも議論されている。
(立憲民主党 塩村文夏参院議員 11月9日)「18歳や19歳のような若年女性が狙われたり、風俗で働かないと払えないほど売り掛けが多額になっていくと」
(松村祥史国家公安委員長 11月9日)「返済困難な売り掛けをさせることは常識的に考えて問題ではないかと考えております」
松村国家公安委員長は「対策を進めるよう警察を指導する」との考えを示した。
一斉摘発で女4人を逮捕…しかし“買春した男性”は逮捕されず
こうした中、11月8日、この場所で動きがあった。
(記者リポート)「いわゆる『立ちんぼ』行為をしていたとみられる女性が、警察官に連れられて捜査車両に乗り込みます」
大阪府警による一斉摘発が行われ、20代の女4人が逮捕されたのだ。しかし、逮捕されたのはいずれも売春の客待ちをしていた女性で、買春をしていた男性は逮捕されていない。
その理由は、1957年に施行された売春防止法にある。
【売春防止法より】「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない」
法律では、売春も買春も禁じられている。しかし、買春を行ったものに刑事罰は科されない。
買春する男性はそれを認識した上で来ていると話す。
(30代男性)「(Q何で知った?)ネットです。立ちんぼっていうのがありますよって話で、そういうのもあるんだと出来心で来ました。(Q罰則がないからいいと?)うーん、あんまりその辺は深く考えて…まぁでもそうですね、罰則無いからええかなって感じですね」
(50代男性)「(Qご自身が罰を受けるってなったらやる?)やらないよ、絶対やらないと思う。違法で罰則受けるってのは前科もつくんやろうし、そういうのはしたくない。社会的な信用がある」
専門家『法律制定時は“人権”という意識が低かったのではないか』
売春防止法などに詳しい専門家は、買春が罰せられないのは、法律が制定された当時の時代背景が色濃いと話す。
(お茶の水女子大学 戒能民江名誉教授)「戦前の考え方が根強い中で、人権という意識が弱かったのではないか。とくに売春っていうのはモラルの問題だと、道徳の問題だとされてきたので。社会の秩序を乱す女たちっていう意識が強かったんじゃないでしょうかね」
法改正を行い、買春する側にも罰則を与えるべきだと訴える。
(お茶の水女子大学 戒能民江名誉教授)「刑法の規定があっても、窃盗はあるし殺人だってなくならないんですが、やはり女性を差別していることになりますからね、圧倒的に。そういうことはこの社会では許されないんですよ、というメッセージにはなるというふうに思うんですね」
Aさん『いいんじゃないですかね、好きなホストのために捕まるなら』
売春する側のみが罰せられる現状をどう思うか、Aさんに聞いてみた。
(Aさん)「いいんじゃないですかね、好きな人(ホスト)のために捕まるなら。女の子って自分で分かってやってるんで、ある程度腹くくってると思うし。いいんじゃないですかね」
路上に立ち金を稼ぐ女たち。男たちは快楽を求め、きょうも路上で声をかける。
(記者に声をかける男性)「よかったらこの後遊びません?できればホテルデートとか。いくらです?」
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