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『感情のジェットコースターを作って騙す』特殊詐欺の元主犯格フナイム氏が語る裏側「全部アウトソーシングです」そして今関わる人への言葉は

特命取材班 スクープ

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 「僕らは基本的に全部アウトソーシングなんですよ、足がつかないようにするんです」。こう語るのは、かつて特殊詐欺グループを率いた元主犯格の男性だ。高齢者らにウソの電話をかけるなどして現金を騙し取る特殊詐欺、その件数はいまだ高止まり状態である。今回、取材班は特殊詐欺の実態と捜査の最前線に迫った。

被害にあった70代女性の体験…破り捨てたメモから見える怒り

 全国で相次ぐ強盗事件との関連が指摘されフィリピンから強制送還された男らは、元々は特殊詐欺を生業にしていたとみられている。

 警察によると、去年1年間に全国で発生した特殊詐欺は約1万7500件。10年前の2倍以上に急増していて、被害総額は約360億円に上る。中でも大阪での被害は2060件と過去最多となっている。
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 取材班は実際に被害にあった70代の女性に話を聞くことができた。女性が電話口でとったメモ。事件の後、怒りのあまり破り捨てたという。

 (被害女性)
 「1万6860円戻ってくるって。お金が返ってくるということで、市役所の保健課の方からかかってきたと思ってん」
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 始まりは去年8月、自宅にかかってきた1本の電話だった。電話をかけてきた男は市役所職員の「オカダ」と名乗り、「医療費の還付金があり1万6860円払い戻される」と話したという。

 (被害女性)
 「(Q何を求められた?)通帳番号、それとキャッシュカードの暗証番号。(Q電話で伝えてくださいと?)電話で、全部電話で。正直に全部言ってしまった」
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 オカダは「キャッシュカードは古いので交換が必要。銀行員がカードを取りに行く」などと伝えてきたという。まもなく銀行員を名乗る男が女性の自宅にカードを取りに来た。不審に思った女性の夫が警察に通報したことからカードを受け取った男は逮捕された。その後わかったことだが、この男は近くのコンビニのATMで現金50万円を下ろしていた。

 (被害女性)
 「信じ込むっていうのが怖い。とにかく怖い。年寄りが一生懸命貯めたお金をとらんといて、勝手に持っていかんといて、ウソ言って持っていかんといてって」

大阪府警は「特殊詐欺捜査課」を新設…去年1年間で約200人を逮捕

 高齢者を騙す卑劣な特殊詐欺。被害が急増しているのを受けて警察も警戒を強めている。

 (特殊詐欺対策会議でのやりとり)
 「令和4年の数字を見ていきますと増加傾向がずっと続いています。分析したところですね、管内の北東エリアにアポ電が集中している」

 「アポ電」とは特殊詐欺の犯人からの電話のことだ。このアポ電が捜査のきっかけとなる。
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 この日も…。

 【館内放送より】
 「基地から連絡します。現在、ATM誘導型のアポ電発生に伴い、従事員は旧食堂にお集まりください」

 警察署を足早に出て行く捜査員たち。アポ電が入った住宅周辺に急行し、受け子など不審な人物がいないか徹底的に捜査する。さらに…。
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 (記者リポート 大阪府寝屋川市)
 「先ほど、こちら香里園のエリアで特殊詐欺の電話があったということで、ATMでは警察官が警戒に当たっています」

 こうした地道な捜査が特殊詐欺の被害を未然に防いでいる。
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 大阪府警は去年4月、特殊詐欺を専門に捜査する「特殊詐欺捜査課」を新設。実行犯の逮捕をきっかけに犯罪グループの実態解明に近づいたケースもある。これまでに詐欺グループの拠点や暴力団の事務所などを家宅捜索し、去年1年間で特殊詐欺に関連する容疑者約200人を逮捕した。

元主犯格の男性『感情のジェットコースターを作って騙していく』

 だが詐欺グループの根絶はそう簡単ではないと指摘する声もある。

 (フナイムさん)
 「このカフェが(詐欺を)やっていた場所ですね。マニュアルの受け渡しとかお金の受け渡しもありましたね」

 かつて特殊詐欺グループを率い、現在は犯罪を犯した人の相談に乗っているフナイムさん(42)。7年前に逮捕され、刑務所で『2716番』と呼ばれていたことからフナイムと名乗るようになった。
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 逮捕前に行っていたのは老人ホームの入居権詐欺だ。

 (フナイムさん)
 「65歳以上の高齢者を狙って老人ホームの入居権のトラブルを起こす事件なんですけれども」

 その手口はこうだ。架空の業者Aから「あなたは老人ホームの入居権がある。入居を待つ人に権利を譲ってくれないか」とウソの電話がかかってくる。権利を譲ることを承諾すると、続いてその老人ホームから「名義貸しは犯罪だ、訴える」などと脅しの電話が入る。さらに弁護士から電話があり「資産を守りたければ1度すべて預けるように」と説得される。様々な人物が登場し、言葉巧みに金を騙し取るのだ。
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 (フナイムさん)
 「感情のジェットコースターを作って騙していくんで。世間話をするんですよ。一人暮らしとかそういった老人って話し相手がいないんですよ。だから、例えば女性の方だったら『絶対に名前からしておきれいですもんね』とか褒めるんです。だけど今度は怒ることもあるんですよ。話のつじつまなんか合わないですよ。ただ、合わないんですけど、そういうパニックした状況を作ることによって、(被害者は)もうひけないんですよ、冷静になっていないんで」

かけ子・受け子・名簿提供など「完全分業制」で組織を構成

 フナイムさんのチームは4人で、高齢者に電話をかけるいわゆる「かけ子」だった。それぞれが毎日300件以上電話をかけ、外部から仕入れた詐欺マニュアル通りに話しかけたという。

 (フナイムさん)
 「僕らは基本的に全部アウトソーシング(外注)なんですよ。要は受け子もアウトソーシング、電話もアウトソーシング、マニュアルももちろんアウトソーシングですよね。足がつかないようにするんですよ。全てアウトソーシングでやってしまえば、お金だけ払っておけば、(警察が)こっちには来ないんですよね」
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 フナイムさんのかけ子グループのほかに、現金を受け取る受け子グループ、詐欺マニュアルや名簿を提供するグループ、他にも詐欺に使う電話や事務所を調達するグループがあり、完全な分業制になっていた。詐欺が成功した際の各グループの取り分も決まっていたという。主犯格だったフナイムさん自身は多い時で月2000万円を受け取っていたというが、かけ子や受け子の末端は1回数万円程度の報酬だったという。
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 フナイムさんは当時の自分はあまりに身勝手だったと振り返る。

 (フナイムさん)
 「詐欺に引っかからないで途中でばれてしまったりとかしたら『お前あんまり調子乗んなよこの野郎!てめえ追い込むからな!お前の住所から電話番号からなにからわかってんだよてめえ!なあ!』とか言って。本当に自己中心的ですよ。お金をとろうとしているのに、犯罪をしようとしているのに、自分の思い通りにならないから被害者に向かってそういう暴言を吐くんですよ、すごい剣幕で」

すべてを失ったフナイムさん『人生破滅するからやめとけ』

 フナイムさんは逮捕された後、家族・財産・友人などすべてを失った。過ちを犯したからこそフナイムさんは「犯罪を犯して得られるものは何もない」と言う。

 (フナイムさん)
 「人生破滅するからやめとけ。今だけだよ。その裏には人の悲しみがあるんだよ。そんな金で暮らしたところで本当に精神的満足ってある?俺はそういう道をたどっていたけど、それは崩れる。いつか必ず崩れる。絶対に崩れる」

2023年02月28日(火)現在の情報です

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