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「17年前のいじめ」で元教育長が内部事情を証言「都合いいように記録を書き直し、市教委が隠ぺいしている」被害児童への聞き取りが「なかった」ことに

2022年04月27日(水)放送

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 神戸市教育委員会だけが認めない17年前の“いじめ”。取材班が独自入手した学校作成の調査記録によると、被害児童のAさんから少なくとも8回聞き取りを行っていて、学校側はいじめの実態を把握していた。しかし、神戸市教委が作成したとみられる資料によると、Aさんへの聞き取りはなかったことになっていて、意図的に書き換えられた可能性もあるという。一体なぜこのようなことが起こっているのか?取材班は今回、神戸市教委の元教育長に話を聞くことができた。

開示求めても「ない」とされてきた『学校作成の記録』を入手

 今は27歳になった、Aさん。17年前の2005年、小学5年生だった時に、同級生13人から教科書を破られたり、殴る蹴るの暴行を受けたり金を恐喝され、総額50万円以上を両親の財布などから抜き取り渡していた。

 (被害児童だったAさん)
 「家族ですね、一番は。本当に温かく愛情をもって育ててくれたりとか、死んだら悲しむだろうなと思ったので、悲しませたくないなという気持ちは一番あったので、絶対死なないでおこうというのはすごくありました。時間が経って何であんなことをしたんかなと思うんですけど。たぶんなんか、自分の意思で行動ができなかったような感じですね」
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 取材班は、当時学校側が作成したAさんらへの聞き取り調査の内容が記された17年前の『いじめの記録』を独自に入手。これまで教育委員会の内部で保管され、Aさん側が開示を求めても「ない」とされてきた資料だ。
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 (Aさん)「どこから見つかったんですか?」
  (記者)「もともと教育委員会の内部にあった資料で」
 (Aさん)「全部はまだ見られてないですけど、僕が見たページは全部事実ですよ」

 Aさんへのいじめをめぐっては、加害児童13人のうち10人が認め、大阪高裁が加害児童全員のいじめ行為を認定している。
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 しかし、神戸市教委だけが「Aさんから聞き取りができず、十分な調査ができなかった」として、今も認めていない。

 (神戸市教委 長田淳教育長 2019年)
 「男子児童から詳細な事実関係の確認ができず、男子児童が話したとされる内容を保護者から間接に聞くに留まったこと。当時十分な調査が行えず、いじめ・恐喝があったかどうか学校も教育委員会事務局も判断できなかった」
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 今回入手した学校作成の記録によると、Aさん本人には少なくとも8回、聞き取り調査が行われ、学年集会・アンケート調査などで学校側はいじめの実態を把握していた。

元教育長『市教委が隠ぺい』と指摘 背景に柔道部員死亡事案による「自己保身」か

 一体なぜ、神戸市教委はいじめを認めないのか?Aさんへのいじめが始まった2005年の前年(2004年)まで、神戸市教委の教育長を務めていた西川和機さん(78)。今回、「内部で起きていたことを話したい」と今年3月に取材に応じた。

 (神戸市教委・元教育長(2004年まで) 西川和機さん)
 「率直に言って、なぜこの隠ぺいが続く、隠ぺいの連鎖が起きるのかということに驚いています。50万円というお金を1人の子どもから7人の子どもたちがもらうという異常事態。当時の学校長は、きちんとした調査と報告をしています。その後、その事実を公表することを逡巡したと。それは市教委の幹部の指示以外考えられません」

 元教育長の西川さんは、学校が作成したいじめの記録を市教委が隠ぺいしたと指摘している。

 (神戸市教委・元教育長 西川和機さん)
 「(Qなぜ隠ぺいしなければならないのか?)この時代に起きていた学校での不祥事、柔道部の合宿で顧問の体罰によって生徒が亡くなってしまうと。その時の市教委の対応のまずさ、やはりそういうものが背景にあって、この異常な事態を公表するのをためらったのではないかと」

 Aさんへのいじめが始まっていた2005年の8月。中学1年の男子生徒が柔道部の合宿中に熱中症で死亡した。当時、顧問に体調不良を訴えていたが無視され、腹を蹴られるなどの体罰を受けていたことが発覚した。西川さんの後任だった当時の教育長S氏は、この事案で処分を受けている。
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 Aさんの問題が発覚したのは、この半年後だった。

 (神戸市教委・元教育長 西川和機さん)
 「度重なる失敗を出したくないという『自己保身』。その後続く人たち(教育長ら)は、役人の世界でよくある『同調圧力』」

『いじめ発覚時の教育長』を直撃…「それなりの対応していると思った」

 “自己保身”からAさんへのいじめを隠そうとしたのか?取材班は4年前の2018年、西川さんの後任だった神戸市教委の元教育長・S氏に直接話を聞いていた。

 (2018年の取材時のやりとり)
 (記者)「なんで教育委員会だけがいじめを認めないのか腑に落ちないんですが?」
 (S氏)「ちょっと記憶にないなー」
 (記者)「いじめを認めないという、何かそういう確固たる何かがあるのでは?」
 (S氏)「いやそれはね、当時からないと思いますよ。子どもたちがはっきり言ってない場面もあるだろうし。それなりの対応はしてくれてるもんだとは思ってましたけどね、私は」

 いじめ発覚時の教育長だったS氏は、「十分な調査ができなかった」などと話していた。

「学校作成」と「市教委作成とみられる」記録を比較…『聞き取り』がないことに

 今回、取材班が入手した学校作成の調査記録。実は、これとは別に教育委員会が当時作ったとされるもう1つの『いじめの記録』が存在していた。2つを比べると明らかに違う点があった。
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 学校側の記録では、2006年2月5日にAさんから初めて聞き取り調査を行っている。同じ日の市教委作成とみられる資料にはAさんへの聞き取りはなかったことになっている。

 【2006年2月5日についての記録の比較】
 (学校作成の調査記録)
 「Aさん宅を、教頭、担任教諭、生徒指導係教諭の3名で訪問し話を伺う」
 (市教委作成とみられる資料より)
 「学校が調べを始める。6名の加害児童と保護者から聞き取りを実施」
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 2006年2月24日。学校側の記録では、Aさんと母親が教頭や担任教諭にいじめについて話をしたと記されている。
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 しかし、2月24日の市教委作成とみられる資料には“母親が学校に電話をかけた”としか書かれていない。
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 入手した2つの資料を元教育長の西川さんに見てもらうと…。

 (神戸市教委・元教育長 西川和機さん)
 「(Q学校側が作ったものと教育委員会が作ったもの、通常は2つが存在する?)学校側が作ったものに、教育委員会がどのような指導をしたかが加わるだけで、こういうように書き換わるのは考えられない」

学年集会の記録も…元教育長「都合いいように書き直したと言わざるを得ない」

 いじめ発覚から5日後に行われた「学年集会」についても2つの記録で見解が異なる。

 当時の学年集会の実際の音声が残されている。

 (担任教諭 2005年2月10日の学年集会の音声)
 「先生はね、いじめという言葉が、すごく重たい意味を持ってるので、あまり使いたくない言葉ではあるけど、間違いない。言っとく、いじめは悪い。そのことを本当に、頭の中に叩き込んだことにしてください」
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 学年集会の最後に、欠席したAさんの手紙を母親が読み上げている。

 (Aさんの母親 2005年2月10日の学年集会の音声)
 「手紙を預かってきましたので、この場ですみませんけれども読み上げさせていただきます。『ここに来るのが怖くて怖くて、吐き気と頭痛で来られませんでした。またいじめられるんじゃないかって』」
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 2月10日の学校作成の調査記録を見ると、この学年集会について、学校側は「深く考えるよい機会になった」と評価している。
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 しかし、市教委作成とみられる資料では、「母親が突然、加害児童名をイニシャルで示した手紙を読むという予定外の行動に出る」と母親の行動を問題視している。
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 (神戸市教委・元教育長 西川和機さん)
 「こういう形で違う表現になるというのは、明らかに意図的に自分たちの都合のいいように書き加えた、あるいは書き直したと言わざるを得ません」

被害児童「今になっても”いじめ”なかった根拠を聞きたい」

 Aさんの問題発覚から10年後の2016年。神戸市では中学3年の女子生徒がいじめを受け、自殺した。この事案では、同級生らへの調査メモを教育委員会の幹部が隠ぺいしていた事実が発覚している。
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 Aさんは今、神戸市教委にこう訴えている。

 (Aさん)
 「今になってもいじめが分からなかった、なかったっていう根拠を、皮肉でもなんでもなく本当に聞きたいですよね。教育委員会側が明確にしないと同じことはずっと起こるだろうなと思っています」

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