2022年02月10日(木)公開
大阪市ワクチン配送の「多重下請け問題」報道後に下請け会社間で『ドライバーの契約変更』を求める動き...松井市長「事前承諾の手続きに不備」認める
特命取材班 スクープ
大阪市の新型コロナワクチンの配送で、原則認められていない『多重下請け』で配送が行われていたとみられる問題。末端の配送ドライバーたちは厳しい待遇や、いつ契約を切られるか分からない状況下でワクチンを運んでいると訴えている。そして今回、大阪市が約1年にわたって、実際にワクチンを運んでいる業者を把握していなかったことが分かった。
4次・5次請けなどのドライバーが担う『ワクチン配送の実態』
大阪市内の医療機関へ運ばれる新型コロナウイルスのワクチン。大阪市は配送業務を大手運送会社B社などに委託していて、原則「多重下請け」は認めていない。しかし実際は、4次請けや5次請けのドライバーたちが担っていたとみられている。
取材班が入手した「大阪市ワクチン配送マニュアル」。そこにはワクチンを運んでいることを隠ぺいするかのような記載があった。
(大阪市ワクチン配送マニュアルの内容)
「B社のベストを車内にしまう。B社のロゴが見えない様に。事故が起きた時、警察の事情聴取では『ワクチン配送中』とは言わずに『貨物配送中』にて回答する」
取材班が今年1月、ワクチン配送の車を追跡すると、確かにドライバーたちはB社のベストを着ていない。
病院に到着すると、ベストを着てB社のドライバーかのようにワクチンを運んで行った。
4次請けにあたるE運送のドライバーだった鈴木さん(仮名)は、当時の状況を次のように話す。
(4次請けの元ドライバー 鈴木さん(仮名))
「末端で配送業務を担っている人に、大手運送会社B社の人はいませんでした」
大阪市はワクチン配送をA社に業務委託して、グループ会社のB社に再委託している。大阪市はここまでは認めているが、鈴木さんによると、B社はC社に再々委託し、さらにD急配へ再々々委託。鈴木さんはその下、4次請けにあたるE運送のドライバーだった。
鈴木さんの日当は1万1000円。市は委託先のA社に配送1台あたり1日3万4000円を支払っていて、多重下請けの過程で2万3000円が中抜きされていた。
(4次請けの元ドライバー 鈴木さん(仮名))
「ガソリン代や高速代、全て給料(1.1万円)に入っているし、例えば残業があっても、普通の雇用では考えられないような残業料金。結局みんな生活がかかっているので、そういうことは言わないというのが普通ですね」
末端のドライバーたちは突然の契約打ち切りや、不安定な状況下で働いている可能性があった。
松井市長「手続きに不正があったとは思わない」
こうした実態について2月3日、大阪市の松井一郎市長に見解を尋ねてみると次のように述べた。
(大阪市 松井一郎市長 2月3日)
「(Q大阪市が契約時に認めていない多重下請けが行われているのでは?)事業者の皆さんは『多重下請け』とは言っていないので。我々は事業者の皆さんがそう言っている限り、手続きに不正があったとは思いません」
松井市長は、委託先のA社が「多重下請けではない」という見解を示していて、手続き上は問題がないと話した。
報道後、2次請けの会社が6次請けの会社に「ドライバーの直接契約」を提案
しかしその後、水面下で“ある動き”が起きていた。2月7日、取材に応じた安藤さん(仮名)は、大阪市のワクチン配送を担っていた運送会社Z社に勤めている。
大阪市が委託している大手運送会社B社から2次請けのC社、3次請けのF社などを経て、安藤さんが勤めている運送会社Z社は6次請けだったとみられている。Z社は数人の社員がワクチン配送を担っていた。
しかし、数日前に2次請けのC社から、多重下請けを解消するために、Z社のドライバーを一時的に2次請けのC社と直接契約にしたいという提案の連絡が入ったという。
(6次請けの配送業者 安藤さん(仮名))
「報道が出てすぐぐらいかな、『直接契約に変えたい』と。それに対して可能かどうか回答をくれと。ドライバーにダイレクトにお金を払うという。『責任はどこに行くの?』『(C社に)ドライバー入れるけど、もし万が一何かあった時に、うちに責任は一切ないんですか?』と言うと、そこはうやむやになる。ただの隠ぺいでしかない」
安藤さんの会社のドライバーは、ワクチンの配送とあって自社で研修を行うなど、マニュアル順守の教育を徹底していたという。
(6次請けの配送業者 安藤さん(仮名))
「『医療品を扱うんだよ』ということも含めて教えてから育てる。もちろん教育費もかかるし、育ててきた子たちが『直接払う』と言われたら、僕たちが今までやってきたことが全部無になる」
C社からは、「これまでのZ社の利益分は別途支払う」などと提案されたというが、ワクチン配送の「責任」を誰が負うのかが明確ではなかったことから、提案を断ったという。
(6次請けの配送業者 安藤さん(仮名))
「『じゃあもういいです』という形で(契約が)終わってしまいました。ただただ、そこは憤りしかないし、でも僕たちレベルで何かできるものでもないですし。一石を投じることもできない」
結局、Z社は契約を打ち切られた。
配送ドライバーだった鈴木さんの元にも同じような話が入ってきたというが、「結局、ドライバーの環境は変わらない」と話す。
(4次請けの元ドライバー 鈴木さん(仮名))
「末端の人たちを一手に雇用しているような契約書みたいなものを書いてもらうかもしれないという話があったらしい。責任とか、結局最後に切られたりとか、何かするのは末端で一生懸命作業をしている人間なので、その辺をなんとか改善してほしいと思いますけどね」
神戸市でも『再々委託』の業者によるワクチン配送が発覚
ワクチン配送を巡っては、神戸市も大阪市と同じB社など2社に業務委託していたが、去年12月に再々委託された業者がワクチンを運んでいた事態が発覚した。
(神戸市・ワクチン対策室 山本圭一担当部長)
「委託先も再委託以下の契約関係がどのような形で運営されているのかの把握が十分にできていなかった。(再々委託の)報告、および申請書の提出をしていただきたかったが、そういう部分もなかったということで、速やかに対応するように指示をしたところです」
神戸市では、委託先のB社なども誰がワクチンを運んでいるのか十分に把握できていなかったというのだ。
松井市長「承諾の手続きで書類に不備があった」「再々委託は禁止していない」
大阪市も、約款などでは再々委託の場合は書面での承諾が必要とされる。2月8日、改めて松井市長に話を聞くと次のように述べた。
(大阪市 松井一郎市長 2月8日)
「事前に再委託の承諾が必要でありまして、その承諾の事務手続きが『書類の記入漏れ』など不備があったので、事業者に再度承諾願の提出を求めているところです」
大阪市は「書類に記入漏れがあった」として、神戸市と同様に下請けの実態を把握していなかったと明らかにした。その上で松井市長は次のようにも述べた。
(大阪市 松井一郎市長 2月8日)
「再々委託そのものについては何の問題もない。書類に不備があったということです。君のところが言ってるのと全然違うじゃない。再委託そのものが悪いと言ってるやろ?(Q我々としては再委託については…)再々委託についても禁止していないということです」
市の約款では、事前承諾があれば、確かに再々委託も問題ないとされるが、約1年近く承認がない状況でワクチンが運ばれていた。
大阪市保健所の担当者「再々委託には事前申告と書面での承認が必要だった」
実際に契約を交わしていた大阪市保健所の担当者は、「C社からは再々委託にあたり、事前の申告と書面での承認が必要だった。委託先のA社には事前報告を徹底するよう伝えた」と話している。
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