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【独自】旧統一教会の"財産移転先"天地正教とは 「弥勒菩薩は文鮮明氏」宣言から濃くなった教会の色...過度な献金要求を元信者が証言 二代目教主「乗っ取られた」旧統一教会の見解は

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 安倍晋三元総理を銃撃・殺害したなどの罪に問われている山上徹也被告の裁判が10月28日に始まりました。その山上被告が恨みを持っていたというのが、母親が入信した旧統一教会です。旧統一教会を巡っては東京地裁が今年3月に解散命令を出し、教団側はこれを不服として東京高裁に即時抗告しています。 旧統一教会の総資産は2021年度末時点で1136億円。もし解散が確定した場合、これらはどこへ行くのか。実は教団の財産の移転先として“ある宗教団体”が指定されています。一体、どんな団体なのか、実態を独自取材しました。

解散時の財産移転先に指定された「天地正教」

 (世界平和統一家庭連合 田中富広会長)「教団にとってみたら、法人にとってみたら、死刑です」

 今年3月、東京地裁から「解散」を命じられた旧統一教会。教団はこれを不服として東京高裁に即時抗告し、審理は今も続いています。2021年度末時点で、教団の総資産は1136億円。もし、解散命令が確定した場合、これらの資産はどこへ行くのか…?東京地裁が出した解散命令の中で“ある事実”が判明しました。

 (東京地裁の解散命令)「旧統一教会は、残余財産の帰属先について北海道帯広市に主たる事務所を置く宗教法人・天地正教とする決議を行った」

 解散を命じられた際、清算を済ませた後に残る財産の移転先を、2009年時点ですでに決めていたというのです。

 当時、旧統一教会をめぐっては、信者による霊感商法が刑事事件に発展していました。財産の移転先として指定されている「天地正教」とはいったい、どんな宗教団体なのでしょうか。

天地正教とは?本部がある北海道へ向かった

 天地正教では「弥勒菩薩」が信仰の対象とされ、信者向けの会報誌によると、かつては参加者が1万人にも上ったといいます。

 北海道・十勝の山の中にある、その聖地を訪ねてみると。

 (記者リポート)「北海道清水町にある剣山のふもとです。『関係者以外立入禁止』と記された看板がありますが、周囲に人影はなく、車もほとんど通りません。『聖火の郷』と書かれた大きな看板があり、下の方に目を向けると『世界平和統一家庭連合』と記されています」

 敷地内に建てられた石碑をよく見ると、「天地正教」の文字も確認できました。周囲に人影はないものの荒れた様子はなく、整備が行き届いているようにも見えます。

 登記を確認すると、土地の所有権は2003年に天地正教から統一教会へと移っていました。
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 全貌を上空から確認すると…

 (記者リポート)「もともとは天地正教の土地だった場所です。83ヘクタールもの土地を、旧統一教会が天地正教から譲り受けていたということになります」

 広大な敷地にはコンクリートの構造物や石碑、モニュメントのようなものが複数、確認できました。
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 帯広市内にある天地正教の本部を訪ねましたが、中からの応答はありませんでした。

 近隣の住民は…

 「全然、人の出入りない。何十年前はけっこう人の出入りあったけど、それ以来、もう人いなくなったから」
 「晩にも電気ついていないしね。入ってないね、誰も」

 少なくとも10年ほど前から、人の出入りはほとんどないといいます。

 天地正教の代表者宅を訪ねてみても代表には会えませんでした。

天地正教の「歴史」と「元信者の証言」

 天地正教に、実態はあるのか。和歌山市に住む元信者が私たちの取材に応じました。

 80代の夫婦と、義理の娘。1988年ごろ、妻が自宅の玄関先で勧誘を受けて、先に信者となりました。

 (天地正教・元信者 妻)「“先祖供養しませんか?”と言ってきてくれたと思う。最初に、若い人が。“もう先祖供養やっていますんでいいですよ”と断って。ドアを閉めかけた時に“手相を見ましょうか?”と言ってきて、それで見てもらったのがきっかけだったと思う。(Q手相占いが当たっていた?)当たっていた。びっくりするほど」

 その後、勧誘してきた人物は、家系図を見せながら“きちんと先祖供養をしないと、今度生まれてくる孫に不幸が起こるかもしれない”などと告げてきたといいます。

 夫と義理の娘も、これを聞いて天地正教に入信しました。
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 天地正教は仏教系の「天運教」が母体とされています。初代教主は“帯広の霊能者”だという川瀬カヨ氏。1956年に設立され、1987年に宗教法人格を取得。翌年、天地正教に名称を変えました。

 信者に対しては「先祖供養のためには、弥勒信仰が必要」などと説いています。
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 和歌山の元信者は入信してすぐに、自宅の敷地内にあった倉庫を天地正教の道場へと改装しました。

 (天地正教・元信者 夫)「男のメンバーを呼んできて、日曜日にトンカチやって。天地正教の場合は“道場”というんですけど、それを作って。ここを天地正教の事務所にしたりとか。祭壇を作るのに、全部で1500万円ほどかかっている。弥勒仏とか多宝塔とか、一式で1500万円だったかな」
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 その祭壇。中央には真っ白な“弥勒菩薩像”が据えられていました。ですが、信仰の対象だった弥勒菩薩像は、現在、物置の片隅に置かれています。何があったのでしょうか?

「弥勒さまは文鮮明師である」宣言以降、旧統一教会の信者が道場に

 1993年に韓国・済州島で撮られた写真には、初代教主の川瀬カヨ氏と、旧統一教会の創立者・文鮮明氏が写っています。3か月後、川瀬氏はこの世を去りました。

 川瀬氏の死後、2代目教主には娘の新谷静江氏が就任しました。信者向けの会報誌の中で突如、驚きの宣言をします。
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 「弥勒さまは文鮮明師である」

 弥勒菩薩が実は、文鮮明氏だったというのです。新谷氏は母親の川瀬カヨ氏が生前にそうしたお告げを受けていたと、信者に向けて説明していました。

 和歌山の天地正教・元信者によると、この宣言のあとから自宅の道場に旧統一教会の信者が次々とやってくるようになったといいます。

 (天地正教・元信者 夫)「統一教会の方へ合流というか吸収というか、一緒になってしまった。全部ですわ。天地正教の一式全部、統一教会に移行したという形。天地正教は“仏教系”やったけど、統一教会は“キリスト教系”だったので、ちょっとズレはありましたね。なんかこっちは見下げられたような、そういう心境にはなりましたけど、最初は」

 義理の娘は当時、道場の庭先で、こんな光景を目の当たりにしていました。

 (天地正教・元信者 義理の娘)「(天地正教の)信者がかなえたいことを書いていた護摩木を全部焼いていた。(旧統一教会の)何人か“上の人ら”が来て。ドラム缶が置いてあって、そこでボンボン焼いていた。もう天地正教のものって要らんやん、だからちゃうん?」

 1500万円をかけ信者仲間と手作りした道場の内部も、大きく変化していきます。
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 かつて弥勒菩薩像があった祭壇。旧統一教会側から、取り壊すよう指示があったといいます。

 (天地正教・元信者 夫)「“そんなもん(弥勒菩薩像)石ころやから埋めてしまえ”とか、ある人に言われた。“全部砕いてしまって捨ててしまえ”と言われたけど、もったいないから置いている」

 祭壇を壊した後、部屋には、文鮮明夫妻の写真が飾られました。天地正教の道場はいつしか、旧統一教会の集会所に様変わりしていました。

 こうした旧統一教会への実質的な「移行」は、天地正教の信者に対して「和合」と説明されていました。

「とにかく家にあるだけ出せ」エスカレートしていった献金要求「摂理、摂理って」

 旧統一教会で「摂理」と呼ばれる、さまざまな計画を実現するためとして、献金を求められ始めたといいます。要求はしだいにエスカレートしていきました。

 (天地正教・元信者 夫)「“とにかく家にあるだけ出せ”ということなんですよ。献金のたびに“摂理”。韓国・清平で館を作るとかね、費用のいる、お金のいる話」
 (天地正教・元信者 妻)「“ワールドセンターの摂理”とか、そういうのを“摂理、摂理”って」

 夫婦によると、献金額は2億円を超えるということです。保険を次々に解約し、それでも足りず、消費者金融などから借金を繰り返していきました。

 (天地正教・元信者 妻)「慌てて“やってあげなあかん”と思って、恥ずかしい思いしてキャッシュコーナーに行って、お金つくって30万円ほど、精いっぱい出して。プロミスも行った。武富士も行った。震えてくるんよね。そこらから見られているような感じで」

 夫婦は1999年に韓国へ渡り、文鮮明氏から“祝福”を受けました。

 一方、その前年に、「弥勒菩薩が文鮮明氏である」との宣言をした2代目教主・新谷静江氏が、天地正教を去っていたことが分かっています。なぜなのでしょうか。
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 新谷氏はすでに亡くなっていますが、旧統一教会の被害者支援などを行ってきた弁護士に対して生前、こう話していたといいます。

 (渡辺博弁護士)「本来の天地正教の信者がいたにもかかわわらず、そこに数倍・数十倍の信者を送り込まれて“乗っ取られる形”になって、そこは『不本意だった』というふうに言っていました。借金をしてまで、献金しろとノルマが課される、そういう時代になっていきました。“やりすぎじゃないか”ということで反発は持ったと」

 旧統一教会が信者に要求する高額献金に疑問を抱き、反発する姿勢を見せていたという新谷氏。

 (新谷静江氏の陳述書 2006年10月・渡辺弁護士が聴取)
 「文鮮明氏に何度か手紙を出し、話を聞いてもらう事を切望しましたが、その機会は一度も与えられませんでした。結果的に私は教主という立場を解任させられました」

 新谷氏は天運教から天地正教に名称を変更したことも、宗教法人格を得たことも、旧統一教会からの“要請”だったと話していたといいます。

旧統一教会にとって「都合の良い存在」だった?

 これは“乗っ取り”ではないのか…。そもそもなぜ、旧統一教会は、帯広の宗教団体と接近することができたのか。新谷氏は、母親で初代教主の川瀬カヨ氏が自身の信者から勧められるかたちで、旧統一教会の思想に触れたことがきっかけだったと証言していました。

 天地正教の実態を研究してきた宗教学者は、川瀬氏が旧統一教会によって「うまく利用された」と考えています。

 (北海道大学・宗教学者 櫻井義秀特任教授)「(旧統一教会から)多くの人がいつの間にか、自分の周りに来るようになって、教団を整えてくれて、何百人・何千人に取り巻かれるようになった。いわば“おみこしに乗せられてしまった”と。しかし、乗ってみたところ“これで大丈夫か?”と自分でも不安に思っていたと。川瀬カヨ氏がそういうことを天運教(のちの天地正教)の信者に語っていたと聞いている」

 そして、当時日本で若者を中心に信者を増やしていた旧統一教会にとって、仏教系の天地正教が「都合の良い存在だった」と指摘します。

 (北海道大学・宗教学者 櫻井義秀特任教授)「日本で資金を調達するためにはどうしたらいいかということで、中高年の人に入ってもらった方がいいだろうと。日本には“先祖祭祀”(せんぞさいし)というのがあって、先祖のために供養する、喜捨をする、献金する、お布施を出すとか、そういう文化がある。キリスト教系であるよりも、仏教系の宗教をつくったほうがいいということで、仏教系新宗教として天地正教をつくった。つくりたかったわけです」
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 旧統一教会は取材に対し、「天地正教とは教団の枠を超えて交流を深めてきたが、指揮・命令する関係にはない」などと回答。教主を解任されたとする新谷氏の主張については“把握していない”としました。

 (旧統一教会の回答)「当然ながら(天地正教が)当法人に乗っ取られたという事実はありません。当法人が、残余財産の帰属先として、天地正教を指定したことは事実ですが、宗教法人法に則って正当な手続きを行ったに過ぎません」

 また、天地正教にも質問状を送ると、教団の代表者から信者が約4000人いるとする回答がありました。

 (天地正教の回答)「当教団は家庭連合とは別の宗教法人であり、友好的な関係を続けています。『家庭連合に吸収された』という事実はございません」

 そのうえで旧統一教会に財産の移転先として指定されていることについては、“把握するところではない”としました。ただ、一方で…

 (天地正教の回答)「私は家庭連合の会員でもあります。日本では神棚と仏壇を奉安しているケースも多く、私が天地正教と家庭連合の信仰をしていることも自然なことで、違和感は持っておりません」

 天地正教の代表者は自身が旧統一教会の会員であり、それを「自然なこと」だと答えています。

取材した記者が解説 「財産移転」で生じる懸念

 もし旧統一教会の解散が確定し、財産が天地正教に移転した場合どうなるのか。教団が社会的に注目されるきっかけとなった安倍元総理銃撃事件を発生当初から取材している海老桂介記者に聞きました。

―――宗教法人には税制優遇があり、▽宗教活動で得た収入(お布施など)、▽活動する敷地や建物への固定資産税は非課税です。今後、旧統一教会の解散が確定した場合はこうした税制優遇がなくなりますが、これによりどういったことが考えられますか?

 (海老桂介記者)「まず裁判所の監督のもとで清算手続きが行われます。教団が持っている不動産や預金をリストアップして、債務の整理をしていく。旧統一教会に関しては献金の問題があるため、その献金の被害者たちの救済が全て終わった段階で、ようやく解散となります。その時点で財産が天地正教に移る。これは文化庁によると制度上は可能だということです。天地正教はあくまで別の法人ということになるので、紐づいて解散とはならないわけです」

―――旧統一教会が任意団体になると、宗教法人の天地正教に資産が移されることになりますが、この「救済後の移転」についてはどう捉えればいいですか?

 「旧統一教会の解散が確定した場合、任意団体になるので税金を払わなくてはいけなくなります。ただ、宗教法人として税制優遇を受ける天地正教に中身が移って、看板を付け替えただけのような状態になる。極めて反社会的な行為をしていたとされる教団の実態が残ったまま、宗教法人格を維持して税制優遇を受け続けると。つまり解散命令が形骸化してしまうということになりかねません」

 「旧統一教会が天地正教を財産の移転先に指定したのが2009年ですが、当時、霊感商法が社会問題化して刑事事件にも発展して有罪判決も出ていた。そのときに、これはもしかしたら解散命令が下るかもしれないという防衛本能で、財産移転先を指定していた可能性があるわけです。そのときに旧統一教会に対してより強い措置がとられていれば、今回の安倍元総理銃撃事件にもつながらなかった可能性がある。そこで出てくるのが自民党とのつながり、政治とのつながり。旧統一教会に強く政治が踏み込めなかったのではないかと思われます」

 旧統一教会は解散命令を巡って現在係争中で、東京高裁が今年度内にも判断を示す見通しです。

2025年10月31日(金)現在の情報です

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