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「現場の先生は違和感あっても言えない」性犯罪から子ども守る『日本版DBS』来年12月に施行...保育現場の実情とは?制度で防ぎきれない課題、対策へのハードルも

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 子どもへの性犯罪が相次いでいて、警察庁によれば子どもが被害者になっている不同意性交等・不同 意わいせつ罪の摘発件数は2024年で3598件になっています。 性犯罪を防ぐために導入が決まったのが子どもと接する仕事に就く人に性犯罪の全科がないか事業者に確認を義務づける「日本版DBS」です。来年に導入されるこの制度で性犯罪を防げるのか、現場の今を取材しました。

「信頼感は失われた」中学生の娘が放課後デイ職員から性的暴行

 「ショックでした。まさかこのようなことまで行われていたのかと」

 怒りをあらわにする男性。去年、放課後等デイサービスに通っていた中学生の娘が職員の男から繰り返し性的暴行を受けました。

 (娘が性被害を受けた父親)「事件の影響もあり、放課後等デイサービスに対しての信頼感は失われてしまった」

 少なくとも6か月におよぶ性加害ののち逮捕・起訴された岡本直樹被告(26)。送迎の車の中でキスをしたり、ホテルや自宅などで性的暴行を繰り返したりしたとされています。

 なぜ、子どもを狙ったのか。岡本被告は接見した記者にこう語りました。
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 (岡本直樹被告)「仲良くしたいという思いがあった。心身ともに依存していた」

来年12月に施行予定「日本版DBS」とは?

 警察庁によりますと、子どもが被害者となる不同意性交罪・不同意わいせつ罪の摘発件数は去年1年間で約3600件に上ります。こうした中、去年6月に導入が決まったのが「日本版DBS」と呼ばれる制度です。

 日本版DBSは、学校や保育所など、子どもと接する職場で働く人に性犯罪の前科がないかどうか事業者に確認を義務付けるものです。

 制度の仕組みはこうです。就職を希望する人がいた場合、事業者はこども家庭庁に対して就職希望者に前科がないかどうか確認の申請をします。

 こども家庭庁は、職員の戸籍情報と紐づいたデータベースから犯罪履歴を照会します。前科がない場合はこども家庭庁から確認書を事業者に交付。

 一方、前科がある場合は先に就職希望者に照会結果が通知され、自ら希望を取り下げれば、業者に伝わることはありません。
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 また、事業者は3年以内に在職するすべての職員について照会します。もし犯罪歴が見つかれば、子どもと関わる仕事からの配置転換が求められます。

 制度の開始決定から1年。施行は来年12月25日を予定しています。

示談成立で罪に問われていない場合も…

 ただ、同時に解決すべき課題に直面しているといいます。

 (有識者検討会にも参加 上谷さくら弁護士)「何件も(性犯罪を)犯していても、全部示談で終わらせてる人もいると思うし、そうすれば前歴がついていないから入り込んできてしまうので。(性犯罪は)いつでもどこでも起こりうるっていう認識が必要だと思います」

 この制度の対象になるのは有罪判決が確定した人のみで、被害があったとしても、示談が成立するなどして罪に問われなかったケースは含まれません。制度スタートへの準備とともに、制度だけでは防ぐことのできない犯罪への対応策も同時に議論されています。

現場からは新制度への対応に「戸惑い」の声も

 6月上旬、こども家庭庁の職員・久米隼人さん(42)の姿が徳島空港にありました。制度のスタートに向けて現場の意見を聞くためです。

 (こども家庭庁 久米隼人さん)「DBSはすごく広い施設とか、子どもにかかわる現場にかかわってくるので、できるだけいろんなところに行って、いろんな話を聞きたいなと」

 この日訪れたのは、徳島市内にある0歳~7歳までの54人が通う保育施設です。施設からは、従業員に犯罪歴が見つかった場合に制度で義務付けられた配置転換などの対応について、戸惑いの声があがりました。

 (園長 アリ佳代さん)「今すでに採用をしているスタッフで(犯罪が)判明したときに、配置転換をするとなったときも『なぜ配置転換になったのか』は、現場のスタッフは不安に思ってしまう」

 また、制度では防ぐことができない多くの犯罪への対策は事業者に求められているのが現状です。ただ、行動に疑念を抱く職員がいたとしても、対処に踏み切ることの難しさを口にします。
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 (アリ佳代さん)「『現場の先生たちは違和感があったけど言えなかった』という話をよく聞く。家族経営のところが多かったりもするので、言いたいけれども言えないところがある。保育は閉鎖的な空間なので」
 (久米隼人さん)「結局これ(日本版DBS)は再犯防止でしかなくて、現場の努力で何とかしてもらうことがすごく重要で、ウェットな関係だと言いづらいだとか、どういうふうに言えるような環境にしていくかとか、そういうのがすごく大事なんだなと感じました」

防犯カメラ導入には「費用」「働く側の理解」が課題

 この施設では介護事業も運営している経験から、事件や事故を防ぐためには防犯カメラの設置が有効だと考えていて、施設内に23台のカメラを設置しています。ただ、費用がかかるためすべての保育施設でできるわけではありません。

 (久米隼人さん)「いっぱいつけるとそれだけで費用がかさんだりするじゃないですか」
 (運営会社社長 大田仁大さん)「ちょっとつけるだけですぐ100万円とかかかる。今度4階につけるのも70何万円とか…きつい」

 また、防犯カメラの設置には働く側の理解も必要になります。

 (久米隼人さん)「監視カメラをつけようとすると、先生側に抵抗感があるんじゃないですか?自分たちの行動が監視されているんじゃないかみたいに」
 (大田仁大さん)「おっしゃるとおり。説明は『先生たちを守るためですよ』と。『何かあったときに自分を守るためにつけさせてもらってます』と。でもすごく役に立ちます。なんかあったときに振り返って」
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 (久米隼人さん)「職員さんの空気感で、実際に違和感があってもなかなか言い出せないみたいなところとかをお聞きしたりして、そういうところって現場に来ないとなかなか聞けないところ。防犯カメラ一つとっても、いろんな見方をして、有用性を感じてるみたいなところは政策を考えていくうえで、説得的な材料だなと」

 法律成立から1年。制度のスタートが来年に迫るなか、どのようにして子どもの性犯罪を防いでいくのか模索が続いています。

2025年06月19日(木)現在の情報です

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