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「誰も助けてくれへんねや...悪い方にばかり考える」重度障がいの子を"24時間ケア" 母親の孤独感やしんどさは法改正で救われる?

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 わが子を24時間見守り続ける生活。肉体的にも精神的にも大変な窮状と、誰も助けてくれない”孤独感”。 介護従事者らを前に講演する母親。重度の障がいのある娘との生活を人前で語れるようになったのは、つい最近のことです。

24時間娘を見守る生活『終わってほしい。でも…』投げ出したくなること何度も

 神戸市で、家族4人で暮らす井関宏美さん(46)。長女・ゆうなさん(23)は生まれつき重度の障がいがあり、3年前からは人工呼吸器を付けて生活しています。痰が詰まると窒息死するおそれがあるため定期的な吸引が必要で、多い時は1日数十回に及びます。

 1日3回の食事の補助や、おむつの交換も家族の仕事です。さらに、深夜でもアラームが鳴るたびに起きて、ゆうなさんのケアが必要で、目が離せません。24時間娘を見守る生活になり、仕事を辞めた井関さん。投げ出したくなることが何度もありました。

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 (井関宏美さん)「成長とともに、あと何か月で終わると言われたら『よし頑張ろう』となるんだけれど、『終わるイコールこの子が死ぬとき』なので、終わりがない。『終わってほしいな…いやでも終わるということは死だから嫌だな』とか、その行ったり来たりのところがすごくしんどいです」

「3時間でいいから見てほしい」保護者の支援も課題だが…現実は

 人工呼吸器や痰の吸引など、日常的な支えが必要な人たち。医療技術の進歩により、中でも18歳未満の「医療的ケア児」は過去10年ほどで倍増しています。国は2021年6月、「医療的ケア児支援法」を制定しました。社会全体で子どもを支援し、世話をする保護者たちもケアによって離職することがないように、と記されています。

 具体的には、保育所や学校に痰の吸引ができる看護師などを配置すること、家族からの相談に対応する医療的ケア児支援センターを各都道府県に設置することなど、ケア児の支援を国や地方自治体の責務としました。

 支援法施行の翌年に開設された、兵庫県の医療的ケア児支援センター。看護師と相談支援専門員が常駐し、これまでにケア児の親や、県内の行政職員から寄せられる500件以上の相談に対応してきました。

 (看護師)「(Qどんな相談がくる?)今まで頑張って夜も寝ずにしていたけど、いよいよしんどくなってしまって、精神科受診した方がいいかなぁっていうような、まずお母さんの思いを1時間くらい電話で聞いて、近くの精神科・心療内科を一緒に検索したりする」

 親からのSOSを専門の機関につないだり、ケア児の情報を役所に共有したりします。親にとっては相談窓口があること自体が大きな意義だといいますが、相談を受けても解決策を示せないことが多いのも現実です。

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 (兵庫県医療的ケア児支援センター 常石秀市センター長)「(子どもを)預かってくれるところがない。それは大きな問題点でもあり、解決策がなかなか難しいところがあります」

 兵庫県内にいる医療的ケアを必要とする子どもは推定800人。しかし、県内の短期入所施設にあるベッドは83床。しかも看護師の数が足りず、稼動できているのは約2割の20床ほどしかありません。

 (兵庫県医療的ケア児支援センター 常石秀市センター長)「『1泊とは言わない、3時間でいいから見てほしい』という望みもあります。生の声を私たちがうかがって県に上げる、行政に上げることが当センターの役割」

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 ケア児の家族を対象にした厚労省の調査でも、「不足しているサービスは短期入所施設」と回答した人が8割以上と最も多く、日本全体の課題といえます。

 神戸市に住む井関さんも、娘を一時的に預かってもらう場所を探しましたが、何度も断られたといいます。
 (井関宏美さん)「『誰も助けてくれへんねや』『また寝られへんのや』とか、全部自分にかかってくる。悪い方にばかり考えちゃうので。孤独感はすごく半端なかったです」

医療的ケア児の息子を育てる野田聖子議員に話を聞く

 支援法の成立からまもなく4年。医療的ケア児を支える環境整備は十分といえるのか。法案を主導した野田聖子衆議院議員に聞きました。中学3年生の息子・真輝くん(14)は、生まれつき重度の障がいがある医療的ケア児です。

 (野田聖子衆議院議員)「私自身も、息子が退院したときは総務会長という仕事をしていて、まあまあ忙しかったんですけど、とにかく睡眠時間がなくなるんです。24時間見ていなきゃいけないだし、痰の吸引も風邪をひくと数秒おき。夜中も当然アラームが鳴る。4年前に作った法律は、『こういう子どもが日本に一生懸命生きている』『家族がヘロヘロになって生きていることを知ってほしい』ということにおいては成功しました」

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 医療的ケア児の存在が世の中で認められたことに意義があったとした上で、ケア児の受け入れ先が足りていない現状に課題があると話します。

 (野田聖子衆議院議員)「看護師と親の間にいる人たち、社会福祉士さんとかヘルパーさんとか、そういう人たちが(医療的ケアを)できるように法律を変えればいいんじゃないかと思っている。この4年間でわかってきたので、現実的な解決をするために、法律の改正はいるよねと」

 こうした思いを持つのは野田議員だけではありません。党派を超えた国会議員たちが議員連盟を設立し、当事者家族への支援を強化するために、2026年秋の改正法の施行を目指して既に議論を始めています。

「共通の話ができる貴重な場」まずは当事者家族がつながること

 神戸市内の施設では、医療的ケアが必要な家族がいる人たちが集う会が開かれました。井関さんも参加し、お互いの悩みを共有し合います。

 (医療的ケアが必要な当事者)「どんなヘルパーさんがくるか不安」
 (井関宏美さん)「まず、最初から100%の人は来ない。気持ちが合うかだけで十分」

 支援法では短期入所施設をすぐに充実させることは難しく、今できることとして、当事者家族同士がつながることが重要視されています。

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 (井関宏美さん)「誰かしら話が共通でできる、本当に貴重な場になったと思っています」
 (参加した家族)「障がいって言っても、一括りじゃなくて一人ひとり全然違うので、それぞれの方々のいろいろな体験を聞くのはとても参考になります」

『娘ちゃん元気か?』地元の祭りでつながり元気もらえる

 5月、井関さんは娘・ゆうなさんが大好きな地元のだんじり祭りに来ていました。祭りのリーダーをつとめるゆうなさんの父親も一緒です。行く先々で、地元の人たちに囲まれるゆうなさんたち。ゆうなさんの体調を気にかけながら、多少無理をしてでも井関さんが地元の集いに参加するのには理由があります。

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 (井関宏美さん)「近所の方にも、お祭りを通して日常的にも顔がつながっているので。皆さんの視界に入ることができている。『娘ちゃん元気か?』とか言ってくださるのを聞くとすごくありがたいし、『ひとりじゃない、うちだけじゃない』と思えるので頑張れています」

 医療的ケア児とその家族を社会から孤立させないために、早急な支援体制の構築が求められています。

2025年06月02日(月)現在の情報です

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