2025年05月23日(金)公開
『どんな障害者も受け入れる』結成2年目の障害者野球チームが全国大会に初出場!聴覚障害の選手にはボードで守備位置を指示「スローガンは全員野球」
編集部セレクト
今年5月中旬、「障害者野球」の全国大会が神戸市で開かれました。野球は複雑なスポーツなため、聴覚障害があるとコミュニケーションがうまく取れないことがあるほか、知的障害があるとルールがなかなか理解できないこともあり、障害者野球の選手は身体障害者の人がほとんどです。 しかし、神戸のチーム『阪神ダンデライオンズ』は、障害の種類や重さにかかわらず積極的に受け入れています。そして今回、全国大会に初出場しました。個性的なチーム作りとその思いに密着しました。
「野球する場がない人が多かったので…」
5月18日に神戸で行われた障害者野球の全国大会。足が不自由な打者のときは代わりの選手が走るなど、特別なルールのもと戦います。この大会に初参加したのが、地元神戸の阪神ダンデライオンズ。まだ結成2年目のチームです。
神戸市内のグラウンドを中心に活動するダンデライオンズ。片手の欠損や体に麻痺が残る選手のほか、知的障害や聴覚障害など、さまざまな障害がある小学生から50代までの48人が在籍しています。月に2回、学業や仕事の傍ら練習を積んでいます。
(阪神ダンデライオンズ 井上聞三監督)「身体障害者の野球チームは結構あると思うんですけど、いろんな障害のある人が集まった野球チームはなかなかない。野球する場がない人が多かったので、いろんな障害がある人が集まって楽しく野球ができたらいいなと」
これまで知的障害や聴覚障害がある人たちは、野球をやりたくてもできるチームを探すのが難しかったといいます。
(石井仁さん)「ほか(健常者のチーム)でやろうとは考えていたけど、難しかったですね」
(中谷佑人さん)「コミュニケーションが小学生のころは難しかったですね」
「障害者のチームが全国にあって、そこで戦えるのは想像もしていなかった」
聴覚障害がある北智行さん(15)は、何度か、受け入れてくれる健常者のチームを探しましたが、見つからなかったといいます。
(母・照子さん)「(息子は)阪神タイガースの佐藤輝明選手を見て野球を始めたいと思って、チームを探してメールしたけど返事がなくて、ここのチームにメールしたらすぐに返事をもらえて」
どんな障害があってもチームに受け入れるため、練習には工夫を凝らします。バッティング練習で使うのは、紙を丸めたボール。これは、ボールが跳ね返っても避けられない車椅子の選手のためです。
さらに、聴覚障害の選手には、守備位置の指示に大きな字で書いたボードを使うなど、目で見て理解できるようにしました。
チームの中心メンバーのひとり、高校3年生の坪井優磨さん(17)は、上位打線を任される強打者です。ときには、ピッチャーをすることもあります。坪井さんは生まれつき左手がありません。それでも、外野の守備では素早くグローブを持ち替え、捕球も送球も右手1つです。
(坪井優磨さん)「(グローブの)付け替えをどれだけ早くできるか苦労しています」
坪井さんが野球を始めたのは小学4年生のころ。それまではサッカーをしていましたが、友達に誘われて野球の道へ進みました。
(母・美歌さん)「(野球は)ハンデがあるのでサッカーのほうがいいんじゃないかと思っていたので、びっくりしましたね」
野球と出合い、白球を追いかける日々。しかし、次第にチームメイトとの差を感じるようになりました。「このまま野球を続けられるのか」そう悩んでいたとき、井上監督と出会い、障害者野球の世界に飛び込みました。
(坪井優磨さん)「障害者のチームが全国にあって、そこで戦えるのは想像もしていなかった。試合の流れが悪くなったときとかに、良い流れを持っていけるような活躍がしたいです」
スローガンは『全員野球』 実践形式の練習で連携プレーを仕上げる!
全国大会に初めて出場するダンデライオンズ。新規参入のチームに一度だけ与えられる「障害者野球の普及枠」で、予選を戦わず全国大会出場権を獲得しました。
5月、大会が近づき、実践形式の練習で連携プレーを仕上げていきます。聴覚障害のライト・北さんには、ボードを使い守備位置を細かく指示します。攻撃の要・坪井さんは新たに取り組んでいるという義手を装着してバッティングの調整を繰り返します。
(坪井優磨さん)「(義手を)つけたら押し込めるので、飛距離が出るようになったと思います」
初の大舞台へ、チーム一丸で挑みます!
(選手らに声をかける井上聞三監督)「スローガンは全員野球ですから、みんなで『ダンデ旋風』を全国の皆さんに見てもらいましょう!」
大会当日!ダンデライオンズの相手は全国大会常連チーム
迎えた大会当日。1年ぶりに集まった日本各地の強豪16チームが、全力でぶつかり合います。ダンデライオンズの1回戦、相手は全国大会の常連「ぎふ清流野球クラブ」です。
試合が動いたのは3回、満塁のチャンスを作ったダンデライオンズ。内野ゴロの間にランナーが生還し、待望の先制点をあげます。このあとも得点を重ね、序盤からリードを3点に広げます。
しかし、4回に1点を返され、なおも2アウト満塁、一打同点のピンチ…。ここでベンチから細かい守備位置の指示が飛びます。そして、打球はセンター坪井さんのもとへ…ガッチリとキャッチし、守りきります。
その後も固い守りを見せるダンデライオンズ。1点を追加し、3点リードのまま最終回となる5回2アウト。全国大会初勝利まであとアウト1つです。ランナー2塁1塁の場面で、再び打球はセンター坪井さんのもとへ…しかし、わずかに届きません。
バッターランナーも生還し、土壇場でまさかの同点。初勝利が目前で消えました。試合はこのまま引き分けでゲームセットです。
「またこの舞台に来られたらいいな」チームは大きく成長
(北智行さん)「目標はホームランを打つことだったんですけど、楽しくできました。(次は)ホームラン打ちたいです!」
(父・克治さん)「親としてはあそこでファインプレーしてほしかった」
(坪井優磨さん)「あれは捕れなかったな。またこの舞台に来られたらいいなと思います」
障害の垣根を越えた全員野球。大舞台でチームは大きく成長しました。
(井上聞三監督)「表舞台で活躍する選手もいれば、裏方で頑張ってくれている選手もいますし、障害の種類や重さにかかわらず、みんな同じ仲間という仲間意識が出てきたと思います。きょうの経験をプラスにして今後も頑張っていきたいと思います」
2025年05月23日(金)現在の情報です